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蔵造りの「壁」について…

川越の蔵造りと言えば、黒い漆喰の壁が特徴的。
今回はこの蔵造りの「壁」について、紹介してみる。

まずその前に、「蔵造り」とは何かを簡単に説明すると…
蔵造りは、土でできたお店の蔵で、ある程度壁が厚い建物を川越では「蔵造り」と呼ばれている。
土を塗り固めた土壁の厚さは約30cmもあり、そのため、「土蔵造り」とも…

さて、蔵造りの壁は、竹を格子状に組んだ「竹木舞」(たけこまい)と呼ばれる心材に、土を塗っては乾かし、という作業を繰り返すことで、だんだんと厚みを増していく。
壁の厚さを約30cmにするまでにかかる時間は約3年とも言われている。

材料は土と砂、それとスサと呼ばれるワラを細かく切ったものと、水を混ぜて、こねる。
ちょうど子どもの頃に遊んだ泥だんごを作るような感じで…
材料の比率を変えることで、心材に近い塗りの層は材料のキメが粗く、外側の層になるほど、材料のキメが細かくなるよう調整される。

土壁が仕上がった後には、さらにその上から漆喰を塗り重ねていく。
漆喰は貝殻やサンゴなどを材料にした消石灰に、ノリとしての材料である水草を混ぜたもので、白色の壁になる。
土でできた壁の上に白い漆喰を塗り重ね、これが蔵造りの壁のベースになる。
よく、蔵造りは黒い壁の材料でできていると思われがちなのだが、黒い壁の層はこの白漆喰の壁の上、わずか紙1枚分くらいの厚さの層しかない。

土蔵塗り壁の材料 (服部民俗資料館 蔵)
  『川越の建物 蔵造り編』(書籍内からの転載)

この黒い漆喰は白漆喰の材料に高級墨の材料でもある油煙(ゆえん)で得られるススを混ぜ、塗り重ねていく。

その後は、磨きの作業を行う。
まずは粗い目地の布で磨き、次は細かい目地の布で、そして最後は手のひらでこすって磨く。
段階的に磨きこむことで、表面は鏡のように光り輝き、光沢が出て、これを鏡面磨きと呼ぶ。
これは蔵造りの壁だけではなく、現在この技術は車のボディ磨きなどにも応用されている。

鏡面磨きされた黒漆喰の壁
        『川越の建物 蔵造り編』(書籍内からの転載)

川越の蔵造りの中には建物内にも黒漆喰の壁があり、以前ある建物の壁を実際に見学。
外壁の黒い壁とは異なり、室内にある壁は光沢があり、うっすらと自分の姿が映る。
この壁の美しさはテレビ番組でも紹介されるほど…

それから、外壁の漆喰の壁は雨に弱く、雨にあたる部分は黒漆喰の部分が落ち、下地の白い壁が見えている蔵も少なくはない。
また、黒漆喰の壁は職人が仕上げたもので、貴重。
そのため、人の手が届く部分には養生用の柵が取り付けられ、触れられないような蔵も散見される。

さて、昔、川越との商取引で繋がっていた東京日本橋には蔵造りの通りがあり、そこに多く存在した黒漆喰の蔵造りの壁を川越はお手本にしたとも言われている。
「江戸黒」と呼ばれるシックな黒色は、イキでおしゃれに映る。
現在はビルが立ち並ぶ日本橋には蔵造りは存在しないが、川越には今もなお、多くの蔵造りが残る。
今度、蔵造りの街を歩くときは、黒漆喰の壁に注目してみては…

原寸大の蔵造り 模型断面 (川越市立博物館 蔵)

蔵造りの壁の構造については、川越市立博物館にある原寸大の蔵造り模型の見学をおススメする。
建物断面を見ることで、建物の内部構造や材料が分かるよう工夫された展示になっている。
竹木舞の基礎、その上に土壁、漆喰と層になっていることが、一目で確認できる。

今回のnote記事の他、別で開催の建物巡りのツアー、サロン、ラジオ番組などを通し、建物の見方、見え方が少しだけ変わってもらえると、嬉しく思う。
建物について知ると、建物への興味が増し、街歩きがもっと楽しくなる…
『川越の建物 蔵造り編』のご一読も併せておススメ!

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