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月影のシミュラクル -解放の羽- 感想

2017年1月27日にあっぷりけより発売された「月影のシミュラクル -解放の羽-」の感想です。今回は軽めの文章。約2200文字

生き人形の在り方を活かしたキャラクターの心情をうまく描写した和風伝奇モノとして短編相応のまとまりを感じる物語でした。

以下、本編のネタバレがあるため、未プレイの方は注意してください。

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鏡像

本作の物語において中心にいた生き人形・紅。序盤は伝奇モノらしく誠一を惑わす謎に満ちた存在として描かれていました。
見方が変わってきたのは一葉√。神が人を知るために遣わした力として、紅は人の心を写し取ることができることがわかってきます。
この辺りの情報開示はよくできていたなと思っていて、一番最初に燃え盛る屋敷に入っていく零の行動や、美優の本質を見透かすような言動に対する初見時の不可解さが物語を進めることで氷解していきました。

特に零のそれは、浄化ENDによってより強く印象付けられましたし、暗夜航路ENDで紅が誠一の前に姿を見せることができた理由も納得できました。要は、零は一人で覚悟を決めて対峙したが、最後の最後に折れてしまったところを紅に出し抜かれてしまった。だからこそ、浄化ENDで誠一が来てくれたことの心強さと、生きてほしいと願う心が表れそれを紅が読んだことで、紅が力を発揮しての誠一だけが生き残る結末にできた。
考えてみると、紅は心を読むことはできますがその上でどう行動するかまでは特に制約されていないように見えます。あくまで目としての役割でしかないですし、紅に関する事件は彼女に写されたその人の心に影響されて人が起こしたものばかりで、紅自身がそそのかすような言動はしたとしても彼女自身が具体的な行動を起こしたわけではない。
その上で零の願いを叶えるように紅が誠一を生かしたのは、やはり紅にも人らしい感情があったことを裏付けているのでしょう。実際、零との対話の中で見せた困惑する様は人間らしいもの。つまり、ただ人の心を読むだけの人形であれば生まれ得ない、納得ができないという感情が浮かんでいたわけですね。声色が本当に困惑しているそれで好き。それに、誠一は忘れていても、紅は誠一のことを覚えていて、その心根が変わっていないことにも気づいていたはず。きっと零と同じように誠一に生きてほしいと思う心が生まれていたかもしれないと思うと、それは蜘蛛の糸の呪縛からわずかでも解き放たれた瞬間であり、まさしく浄化されていたのかもしれません。

同じように、孤独の旋律ENDで最後に紅が受け止めた以上に心を痛めている様に(紅の役割を知った上で見ると余計に)彼女がどれほど深くその役割に縛られていたのかと考えてしまいます。フローチャートのセリフが重い。

魂のある人だからこそのコミュニケーション

さて、神が人を知るために遣わした生き人形でしたが、その試みはおおよそ失敗していたと言っていいでしょう。でなければ何年も如月家が問題を先送りにすることもなく、吸血鬼事件も起きなかったはずです。
人を理解するために人の心を写し取るだけでは何が足りなかったのかと思うと、思いつくのは蜘蛛神自身のコミュニケーションあたりでしょうか。
誠一が紅を愛する方法は誠一自身の思うやり方であって他の人はどうかわからない、だからこれは互いを知るためのコミュニケーションといったように、魂の込もった人の在り方や考え方はその人だけのものであるわけで、相手を知るためにその心だけを読み取るのでは全く足りないでしょう。
それ故に、神域に飛び込んで直接蜘蛛神と対峙し、想いをぶつけることで伝わるものがあり、紅を通して見るのではなく蜘蛛神が直接人を見に来ることにも意味が生まれるのだと思います。

ヒロインの話

紅……上でも書いたように、物語が進み彼女のことを知るにつれて、心ある人間らしさがにじみ出てくる魅力。それまでのエンディングの印象が強すぎるが故に解放の羽ENDが薄味に感じてしまうのが惜しいが、ハッピーエンドとは得てしてそういうものかもしれない

零……クールな雰囲気と思わせてたまに照れるのがなんともかわいい。出迎えからかわいい。紅もですがCVの春乃いろはさんがいい塩梅の感情を乗せていていい。誠一は泣き虫ね、じゃねえんだよ!!!!

一葉……その見た目で冗談が過激とか。甲斐性が試される女。

美優……屋敷から離れているが故に個別ルート以外では存在感が薄いが、普通にいい子。腕だけ残されるのは普通に怖い。

総括

解放の羽エンドで蜘蛛神の問題解決方法がぱっとしない点と個別√でのキャラの掘り下げが浅い以外は、和風伝奇ものとしてはそこそこうまくまとまっていると思いました。
相対する人自身の心を写す存在として生き人形を配置し、各エンドで様々な運用がなされている。
個別√が非常に短く掘り下げと呼べるものがあまり見られないのが難点だと書きましたが、それを補うように紅を動かし心を見通させることで短いながらも一定のキャラクター描写を追加したように感じます。

また、人と関わることで心が生まれ魂が宿る。人形に限らず無機物がヒロインになる物語では定番の一つですが、それを相手の心を写すだけでは到達できず、人と関わることで初めて内から発生するようになるものとして魂や感情を描いていたと感じました。

エンディング後にタイトル画面へのシームレスな遷移も好きだし、100%達成リプレイも笑っちゃいました。人の数だけ可能性があり、その可能性だけのエンディングがあるという状態がいいなと思うので好きです。

あとがき

読んでいただきありがとうございました。
以下の内容はゲーム本編とは関係なく、感想記事を書いた感想です。

今回の感想は過去の3つ(アントリ、dROSEra、スカイコード)の感想の書き方とは明確に違うスタイルを試しています。
この3つは物語の全体を見通した上で軸とするべき感想を定めた後に、それを補強するための情報を物語の中から探して組み上げる形で書いていました。可能な限り物語の中で語られた情報を使って積み上げることで、未来の自分を含めてこの感想を読んだ人が納得できる構成にしようという考えです。

ただ、この書き方、非常に時間がかかってるんですよね。dROSEraやスカイコードで1週間、アントリは1ヶ月くらいかかってしまっています。あと、(それが悪いという話ではなく)メッセージ性が薄かったり、作品自体が合わなかった場合も結構書きにくくなってしまう問題があると思ってるんですよね。鏖呪ノ嶼の感想記事をスルーしているのは後者的な事情が強く、あとはキャラクターを楽しむタイプのキャラゲーや純粋な恋愛モノも多分難しいんじゃないかな……
単純に慣れていないというのもあるでしょうが、違うやり方もないだろうかと思って書いたのが今回の感想です。
今回は、プレイ終了後に思いつくままに文を書いてから細部を詰める、というかなり省力設計です。一応結論と思うところは考えてから書いていますが、物語自体の大掛かりな見直しを行っておらず、覚えている範囲で補足する程度になっており、結構な分量を想像と感情で書いています。
なので数時間で書き上げることができたのですが、代償に、結論を含め全体的にふんわりな印象に……

自分向け印象に残ったシーン、という観点でいえばこれでも悪くない(これをフックに思い出せればいい)のですが、公開記事とするからには読んだ人が何かを受け取ってもらえるような、読んで良かったと思える文章にしたいと望むところでもあるわけで。あとそもそもとして、作品、物語に真摯に向き合う姿勢を大事にもしたいので、やはり最低限の考察する時間は必要だと痛感しました。

(ところで、どういうことを考えながら感想を書いているかみたいな話はそれ単体でも記事になるのではないか?)

次は抽選が当たったので朗読劇の原作をやります。思ったより余裕がないかもしれない、間に合え。


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