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マネジメントを学ぶ理由~エピソード3

 寝る前に読もう

 帰宅後、本をすぐ読みたい気持ちを抑えて夕食を先にすませた。処方されている薬を飲もうとして、少し考えた。当時は睡眠薬と安定剤を服用していた。この組み合わせは最高に眠れるのだ。服用すると目を開けて眠れるくらいだった。いろいろなことを当てもなく、無駄に考えることが多い僕にとって、これほど強力に強制終了を敢行してくれるものがあったとは驚愕だった。怖かったのは意識としては起きているはずなのに、度々数分間の記憶が飛んだりすることだった。これは、ある手痛い経験を通して脳そのものが寝てしまうのだということが分かり、服用後は速やかに布団に入ることが常となっていた。この日は、寝る前に本を読むと決めたので服用せずに、麦茶を淹れて本を開いた。その後、いい意味で眠れなくなってしまうことは予想していなかった。

 読むほどに目が醒める

 「もし~ドラ」は読み進むほどに、面白さが増していった。ストーリーも面白いのだが、そのシーン毎に繰り出されるドラッカーの言葉が僕には大きく響いてきた。地鳴りのように低くざわざわしたかと思えば、運動会の徒競走で放たれる乾いたピストル音のような時もあった。少なくとも、いままで読んだ小説にはまったく感じなかった印象だった。読み疲れることもなく、時間を忘れて夢中で読んでいった。読むほどに頭が冴え、目が醒めていった。知りたかったことが、ドラッカーの引用をもって記されていたーー。

 気が付けば朝

 明け方近いころに読み終えて、感動にむせび泣きながら、くり返しページをめくった。なんども、なんども。読んではもどり、読んではもどり。気が付けば、夜が明けていた。自分の知りたかったことが、書かれている。この本に凝縮されている。そう感じて嬉しかった。ようやく何かが報われた気がした。おそらく、流れた涙の大半は感動と報われたという安堵感とここから始められるという希望だったのではないかと後から思えるのである。

 その日は仕事

 夜を徹して本を読み、涙腺崩壊で腫れあがった目をしばたきながら、顔を洗って朝食を済ませて家を出た。土曜日は隔週で出勤だったのだ。本を片手に、ガラ空きの通勤電車に乗って梅雨の合間の夏の日差しを受けながらまた読みはじめていた。『マネジメント』もう少し知りたい。ここに知りたいことがきっとまだまだ書かれている。誰も教えてくれなかったこと、もっと調べようーーそう決心すると、職場への恐怖が和らいでいくのを感じることが出来たのだった。

つづく

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