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今につながるラブレター

世の中にたくさんの表現方法がある中で
私はすぐに「書く」ことを
選んだ訳ではありません。

幼い頃の両親との関わりから
「自分の想いを表現すること」を
自分自身に許していなかった為、

書くことに関しても
作文や読書感想文、
日記に至るまで
自分の想いや感覚を
言語化することが苦痛でした。

そんな私が書くことに
自分自身で許可を出せたのは
18歳の時
ある一人の先生との出会いでした。

文学の非常勤の先生で、
お名前は忘れてしまいましたが、
東北の柔らかい言葉で話す
上品な男の先生でした。

その先生が授業の中で
大切にしていたことは
その作品を書くに至った
著者の背景を知ること
そして
感想文を書くことでした。

もともとの苦手意識と
受験勉強の名残もあり、
私の中では 
「100点の感想を書かねばならない」
の思い込みがありました。

そこを狙おうとすると書けなくて
最初はただただ 
その時間が苦痛でした。

そんな授業の中盤で先生は
鷺沢萌さんの短編集「海の鳥、空の魚」を
取りあげて下さいました。

思うようにならない日常が
出会いを通して、ひとすじの光を放つ
繊細で瑞々しい話の数々…

「あ、これなら感想を書ける」と思いました。

先生は授業の始めに
前回の感想文を手書きでまとめたものを
配って下さるのですが、
その短編集の感想文に
初めて私の感想が載りました。

先生は一人一人の感想を読みあげながら、
「この方は、この行間から
よく心情を汲み取っていらっしゃいますね」と
私の感想文をほめて下さいました。

その先生の言葉に
あたたかな灯火のような光が
じわーっと
心の中に拡がっていきました。

そして、思い出したのです。
決して口には出さなかったけれど
小中学校の国語の授業の中で
物語や詩の背景を想像したり
物語の続きを考えたりするのが
好きだったな…と

私は、ただその「感じる」こと
それを「表現する」ことを
忘れていただけなんだ、ということを

自分の気持ちを
自分の言葉で書いてみる。
あの時感じた「怖さ」の先には
私が望んでいた世界が
待っていました。

どんな人にも光を放つ一瞬がある。
その一瞬のためだけに、
そのあとの長い長い時間を
ただただすごしていくこともできるような――。

「海の鳥、空の魚」鷺沢萌 角川文庫 内容紹介より

エッセイストになって
書き始めるのは
まだまだ少し先のこと

けれど、その夢への一歩となる
今につながるラブレターを
私はあの時、
先生から受け取っていたのでした。

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