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地域企業×Transformation:さよならKPI、こんにちはウェルビーイング ~企業と地域が共創するウェルビーイングの未来~

薩摩会議2023のDAY3の「地域企業」セッション。モデレーターとしてBIOTOPE代表、戦略デザイナーの佐宗邦威氏、ウェルビーイングの専門家の島田由香氏をお招きし、ウェルビーイングに溢れる地域作りに行政と企業が協力して取り組む日置市長の永山由高氏と、同市の商社の経営者である小平勘太氏が、ウェルビーイングに溢れる地域と企業について具体的なアクションにつながる作戦会議を繰り広げました。

島田 由香
株式会社YeeY 共同創業者/代表取締役
アステリア株式会社 CWO(Chief Well-being Officer)
一般社団法人日本ウェルビーイング推進協議会 代表理事
慶應義塾大学卒業後、パソナを経て、米国コロンビア大学大学院にて組織心理学修士号取得。日本GEにて人事マネジャーを経験し、ユニリーバ・ジャパン入社。取締役人事総務本部長に就任し、「WAA」など独自の人事施策を多数実行、Forbes WOMEN AWARDを3年連続受賞。2017年に株式会社YeeYを共同創業。企業の経営支援や人事コンサルティングなどを通じて、企業のウェルビーイング経営実現に取り組む。自身も1年の約半分をワーケーションで過ごし、地方自治体の人材育成やコンテンツ開発支援など地域住民のウェルビーイングを高める仕組みづくりも行う。

永山 由高
日置市長
エアギタリスト
1983年生まれ。鹿児島県日置市で育ち、鶴丸高校→九州大学法学部を経て新卒で日本政策投資銀行へ。リーマンショックが契機となり退職し、2009年にUターン。地域シンクタンクを創業して10年間経営し、移住ドラフト会議などの各種企画を発案・実行。趣味のエアギターでは2018年に日本ランク2位に入る。 2021年5月に日置市長に就任し、現在一期目。合併前の旧町4か所を1年ずつ引っ越しながら市政にあたる。対話と挑戦を標榜し、市役所組織を対話ができる場所にすることが市の価値を高めると信じている。

小平 勘太
小平株式会社 代表取締役
NPO法人SELF 理事
京都大学農学部卒業後、イリノイ大学院で学び、農業分野で複数の起業を経て、家業の小平株式会社を承継。同社はエネルギー、DX、貿易などの事業を国内外で展開し、ミッションに「これからの100年も社会に安心と希望を届ける」を掲げています。また、SELF理事やベンチャー型事業承継のメンターも務め、2024年初旬に本社を鹿児島のシャッター温泉街に移転し、ウェルビーイングタウンの実現にも取り組んでいます。

佐宗 邦威
株式会社BIOTOPE CEO/Chief Strategic Designer
多摩美術大学 特任准教授
東京大学法学部卒。イリノイ工科大学デザイン学科(Master of Design Methods)修士課程修了。P&Gにて、ファブリーズ、レノア等のヒット商品マーケティングを手がけたのち、ジレットのブランドマネージャーを務めた。ヒューマンバリュー社を経て、ソニークリエイティブセンター全社の新規事業創出プログラムの立ち上げ等に携わった後独立。BtoC消費財のブランドデザイン、ハイテクR&Dのコンセプトデザイン、サービスデザイン等を得意としている。著書、『理念経営2.0 会社の「理想と戦略」をつなぐ7つのステップ』、『直感と論理をつなぐ思考法』、『模倣と創造 13歳からのクリエイティブの教科書』等多数

佐宗:このセッションでは地域企業をテーマにお話をしていきたいと思います。みなさんよろしくお願い致します。


新しい本社スペースのありかた

佐宗:まず最初は小平さんにお聞きします。僕は昨日、小平株式会社の日置市の本社移転予定地へお伺いしたんですけど、スペース的に全員の社員が常時いる場所ではないんですよね。かなり長い歴史を持つ老舗の会社が、本社の場所を変えて働き方も変えて、という考えに至ったのはどういったことがあるのでしょう?

小平:公民館みたいなのを作ろうとしていて、経営企画の人たち用の小部屋もあるのですが、ステージや自由に動けるフリースペースがあって、何十人かが集まってカンファレンス等ができるような場所を作っています。

佐宗:これって結構すごいことだと思っていて、それこそ企業がDXのような変革を頑張らなきゃみたいなことが多く聞かれる中で、いきなり本社を移転して、さらにその場所は始めから社員全員が働く前提じゃないみたいな考えって結構なジャンプをされたと思うんですけど、そういう働き方に変化されている背景を教えていただけますか?

小平:一つは、2020年に元株式会社アドレスの池田亮平さんがジョインしてくれたことが大きいです。
 うちの会社は、コロナのときにものすごく組織状態が悪くなったんですよ。コロナ以前は、何かあると飲み会でわーって言い合って解決する、みたいな会社だったのが、コロナでみんなリモートに切り替え始めて、家で働いたり、出社したりしなかったりする中で、コミュニケーションが雑になったり、そもそもコミュニケーション自体もなくなってしまって、ちょっとしたことでみんなが喧嘩をするようになったんです。
 そういった状況の中、池田さんは、株式会社アドレス以前に株式会社リンクアンドモチベーションに在籍されていたこともあったので、彼に入ってもらってコミュニケーションや組織割りのやり直しを行って、今回の本社移転の話をしたときに、社員からも好意的に受け止められたっていう流れがありました。

佐宗:オフィスが人の集まる場所にしないって、経営者からすると結構怖い決断だと思うんですけど、なんでそういった決断ができたんですか?

小平:フルリモートで経営されている会社さんから聞いたんですど、会社に出社しようがリモートだろうがサボる人はサボるので、リモートかどうかは関係ないですよねっていう話があって、確かにそうだなと思うところがありました。それに、オフィスもだいたい昼間はガランとしてたので可能性はあるかなと。

佐宗:じゃあ、コロナによってすでにリモートワークが導入されていて、全員が出社しなくても業務ができる準備もできる状態だったということですね。

小平:そうですね。ただ、もちろん戸惑いもあるし、ハレーションもあります。

地域と企業の境界線

佐宗:そういう中で、小平社としては、実際に日置市へ本社を移転するというところにあるわけですが、日置市に行くことでどんなことを見せたいなと思っていますか?

小平:一番は、企業と地域の境界性をなくすということをすごくやりたいと思っています。割と今のオフィスって、関係性が周囲のコミュニティと断絶されていると思うんです。
 公民館的に使えるオフィスを提供することで、社員以外の人たちも入ってこれるし、自分たちのパイロット的なサービスを周りの例えば高齢の方とかに試してもらったりとか、そこの境界線をなくしたいっていうのを僕は一番期待してるところですかね。

佐宗:もうちょっと詳しくお聞きしたいのですが、その境界線が薄くなると何が起こると思われますか?

小平:みんなが誇れる会社になると思っています。自分の会社に対してプライドが持てるか持てないかってすごく大事だと思っていて、例えばMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)ができる以前の人事評価って全部お金だったんですよ。
 いくら稼げたからあなたは偉いとか給料を上げるねっていう人事管理にすごく課題を感じていて、その制度だと例えばバックオフィスの社員はそんなに評価できないことになってしまいますが、そうじゃないよねって思っています。
 僕らはMVVを作ったので、そこに向かうために会社があって業務をやるんだよっていうことが見えたときに、社員の中にちょっと俺らなんかすげえことやってない?みたいなプライドが芽吹いたような気がするんです。
 もちろん、これからの人もいますけど、それによって人が変わったなって思います。

コミュニティデザインの先にあるもの

佐宗:逆に、本社移転に対して交渉をされてきた永山さんの目線から見ると、今回の移転でこういうことが起きたらいいなっていうイメージは何かあるんですか?

永山:私は、市長になるまでコミュニティデザインと言われるテーマで仕事をしてきたのですが、いざ市長になって本当に向き合うべきところを辿っていくと、コミュニティデザインの先にあるものは「自治」なんです。
 暮らしの課題をコミュニティで解決していく、いわゆる「自治」を取り戻していくために、市役所組織も変容が求められる。私としては、市役所をスタートアップ企業のような組織にできたら最高だなと思うし、市役所と地域の境界線がなくなっていくと最高だなと思っていたんですね。

 これは市役所側が地域にどんどん溶けていくということと、逆に地域側の自治力が高まってくるという意味なのですが、公的機関だけでは解決できない色んな地域課題を公民が混ざり合いながら解決していく未来が理想だと考えているので、小平さんが思い描いていらっしゃる地域と企業の関係性もまさにフィットするなと思っています。

 ちなみに、この自治ってすごく重くて深いテーマなんですよ。薩摩会議で木戸さんが維新期の話をされていたのを聞いてて、すごくグサッときたんですけど、明治初期って日本は自治の国だったんですね。江戸幕府って軍事政権じゃないですか。じゃあ、軍事以外をどうやって担ってきたかと言うと「自治」なんですよ。自ら治めてきたんですね。
 明治初期は、役所の職員も7割以上が無給無報酬という、いわゆる名誉職だったんです。地域のことを地域で解決するという状況から今の日本の社会システムはスタートしていて、それが少しずつ専門職としての今の行政職員となっていった。
 けれども、それをもう一度解体していった先に、組織と地域企業や行政と地域の関わりを再構築していくヒントって、自治にあるんじゃないかなみたいなことを考えています。

佐宗:このカンファレンス中の立ち話で「社会変革」に登壇された林 篤志さんと話したときに自治の話をしていて、地方自治体が持っている機能のどれだけを出していくか、どこまで出していけるかを実験したいんですって彼は言っていたんですよ。
 例えば、そういう話の中で、どこまでなら市役所の仕事から切り出して行けるかなと思っていますか?

永山:地方自治体が担っている仕事のうち、どこまでを民間に出していけるかという話だと思うのですが、おそらく「出す/出さない」という考え方よりも、自治体が「自分たちでやる」っていう前提の考えを越えたいなと思っています。
 もちろん、地域によっても状況は異なりますし、どういった民間側の生態系があるかによっても違うと思いますが、公的機関が担わないといけない分野が多い地域と、民間や地域の方々が役割として担える分野が多い地域という特性によって変わるんじゃないかなと思います。

ウェルビーイングタウン

佐宗:今回、日置市はウェルビーイングタウンっていう一つのコンセプトにおいて提起をされたわけですけど、このウェルビーイングタウンっていう考えは、そもそもどういうことがきっかけで出てきたんですか?

小平:もともとの発案者はうちのCHROの池田亮平さんですね。本人から話してもらいましょうか。

池田:みなさま、こんにちは。小平社の池田です。小平社自身が今まで個人の評価をお金で計る成果主義でやっていたところから、もうちょっと一人一人の人生のウェルビーイングにフォーカスした経営にシフトしていたタイミングでもあったので、先ほどの話にもあったように企業と地域の境目を曖昧にしていくのであれば、小平社だけがウェルビーイングになるのではなくて、地域を交えた形でみんなでウェルビーイングになっていけるような仕組みを作りたいねということがきっかけとなって案を出しました。

佐宗:今は、言葉として出たものの中身どうしようかって考えているみたいな、そんなフェーズでもあるんですよね?
 ということで島田さんにもお聞きしたいんですけど、ウェルビーイングタウンという言葉からイメージされるものとか、具体的にこんなのが面白いんじゃないかな、みたいなのものはありますか?

島田:ウェルビーイングタウンだけだと正直身体知がないので、これからどうやってストーリーを作っていくのかというところが、すごく面白いところなんじゃないかと思います。
 最初の段階からウェルビーイングという言葉と街をくっつけているというのを私はすごく良いと思っていて、今日のこの話からもすごく感じられるものがあるし、私はまだ日置市に行ったことがないので自分の中に身体知がないので、日置市のウェルビーイングタウンって言ったら、というのが出てきたらもっと話が具体化するのだと思うんです。
 ただ一般的に言うのであれば、さまざまな定義があるウェルビーイングに対して、すごく私が大事にしているのは自分の言葉で「ウェルビーイングっていうのはね」って語れるという状態に一人一人があることが一番重要なんですね。ですから、ここにいる皆さんも「ウェルビーイングっていうのはね」って、まず言えるようになっていくっていうことが大事で、そのためにはものすごい対話が必要なんです。
 なので、私が地域でやるときは住民の方とウェルビーイングってなんだろうっていう対話の場をすごく増やすようにしています。最初から答えがなくて良いんです。定義を頭で理解して「はい、これがウェルビーイングです」っていうのはあまり意味がないんですよね。

セルフケアと自治

佐宗:ちなみに、永山さんはウェルビーイングっていう言葉に対して、どんなイメージをお持ちですか?

永山:さっきの行政がやらないといけないことと民間に任せられることの壁はあるかっていう話に戻るのですが、地域によるんですけど行政の仕事って基本的に全方位なんですよね。
 私は、日置市内の消防の責任者でもあり福祉の責任者でもあって、あらゆる決裁が私のもとに届くんですよ。全員を救うことが本当に難しい時代になってきていて、日々無力感に打ちのめされています。特に社会保障は現場で預かっていて、毎日、本当にキリキリします。
 そんな中でも、今すぐは無理かもしれないけど、20年、30年、もしかしたら150年先にこの人たちみんなを救える未来があるとしたら、もうセルフケアとしての自治しかないんじゃないかな。セルフケアとしてのウェルビーイングしかないんじゃないかなって今は思い始めています。

佐宗:今の話の中で、セルフケアと自治とおっしゃいましたが、その2つはどう繋がるんですか?

永山:まず今の社会福祉には地域包括ケアっていう考え方があるんです。その地域の人たちが、できるだけ住み慣れた街で最後まで自分らしく暮らせる環境を作ることを、全国の例えば地域包括支援センターの皆さんとか、自治体の保健師の皆さん、介護関連事業所の皆さんは必死になって構築しようとしてるんです。
 なぜ、そういう状況にあるかというと、自分たちの暮らしは自分たちで支え合って守って作っていくんだっていうことを、思考の中から取り除いてしまったのが高度経済成長期の日本の社会保障政策だと思うんです。
 自助、共助、公助の中で、公助に対する信頼感が大きくなりすぎてしまったのが今の日本の社会システムだと思っています。
 そこをもう一度地域に取り戻していかないと、もう限界が来ているんですね。なので、今まで行政に任せてきたことや、役所に言えば済むと思っていたことを、自分たちの力でどういうふうに守っていけるか、自分たちの暮らしを自分たちでケアするために必要な対話を地域の中で重ねていって、そのために少しずつでも地域がリソースを出していくことが、地域を自ら治める「自治」になっていくってことだと思うんですよ。
 それで、少しずつ自治の力を取り戻していくことの原点にあるのは、「自分たちの暮らしの豊かさを、自分たちが自覚していく」っていうウェルビーイングと繋がるんじゃないかな、と思っています。

佐宗:その中で、小平社は新しく地域に入ってくる人たちでもあり、ウェルビーイングを基軸にした経営を実践しようとしているという意味だと、新しいOSみたいなものを持った人たちが入ってくることになると思うんですけど、実際に小平さんの視点から見たときに、今の市長の話を踏まえると、企業の役割を拡張して地域とこんなことまでできるんじゃないか、みたいなイメージはありますか?

小平:僕らは、自分たちが本当に気持ちの良い働きがいのある街を自分たちで作るっていうのをやろうと思っていて、街を丸ごとオフィス化しようと思っているんです。
 今の新本社ってコミュニティスペースしかない設計なので、例えば、町の中の空き家にもサイバーな部屋を作ってeスポーツができるようにしたりとか、地域の中に企業が溶け込んでいく感じですね。それを市内の方とも一緒に作れることを目指しています。
 ただ、今欲しいものは何ですか?と町の人たちにインタビューすると、カラオケとかコンビニが欲しいみたいな話になっちゃうんです。そうではなく、もう少しメタな視点からこの街にとって本当に必要なものかつ自分たちにとってすごく気持ち良い機能っていうものを、自分たちの資金を使うこともあれば、共感した企業が町に投資もできるようなストラクチャーも使いつつ、町全体の底上げをしていくっていうのを僕らがやれるとすごく面白いなと思っています。それが実現して、いろんな人が来たら、採用にもすごいプラスになっていると思っています。

OSとOSとの狭間で

佐宗:ここで、ちょっと島田さんと永山さんにお伺いしたいポイントがあるのですが、今、ウェルビーイングという新しいOSを使った構想を進める中で、例えば小平さんのような方は、そういった新しい考え方を持ったOSとして町に入られるわけですけど、一方で街には今までの住人の方もいらっしゃるわけじゃないですか。
 そこでお伺いしたいのは、島田さん自身、ウェルビーングというのをユニリーバという会社全体として実装されてきたご経験があると思うんですけど、会社組織全体をそういう形に変えていく上で、どういうことがチャレンジになる、もしくはどういうことがあればそれが実装できるようになると思いますか?

島田:たぶん組織という言葉には、もちろん企業体も含まれますが、コミュニティや市役所などのある一定数の人が集まった単位のことだと思います。その上で、人が集まって何かを変えたいなと思ったときに、大体ハードルになるものって一緒なんじゃないかと思っていて、それは多くの場合2つぐらいかなと私は思っています。
 そもそも人間って脳の構造からしたときに、新しいものに対しては拒否反応というか身構えるところがあると思うんです。今の状態で安全なんだから、っていう思考ですね。だから、何かを変えようとなったときに、どちらかというと嫌だよっていう反応になるのが一般的という考えが1つと、もう1つは、全ての人たちは自分それぞれの解釈の世界で生きているんだっていうことを知っておく、ということですね。
 だから、今日もウェルビーイングという同じ言葉を全員が使っていても、それぞれで解釈が違う。だけど、私たちは自分の解釈が正しいと思いがちだから、同じ言葉を聞いたり見たりしていれば、この人も同じことを思っているだろうと想像しちゃうので、違う考えが来たときに「私が合っていて、あの人は間違っている」という考えが生まれて、やがてコミュニケーションがうまくいかなくなって、人間関係の破綻に発展していくという。
 なので、紹介した2つの前提を理解していると、いろんな物事って、もうちょっと変えやすくなるのかなと思っています。
 今のところ、大体の組織はピラミッド構造だと思いますが、これからはもうちょっとフラットな構造をもった組織になっていくと思うので、そうなったときに誰か一人が変化の源になれれば、もう十分に変わっていくと思います。

コミュニティの間を埋めるもの

佐宗:ちなみに僕は昔ソニーで働いたことがあるんですけど、ソニーの「新しいものを作っていこう」っていうDNAみたいなものを何とか復活させたいなと思って、新規事業を作るプログラムを社長に提案して始めたんですね。最初は3人くらいだったのが5~60人くらいのコミュニティになっていったんですけど、夜な夜な飲みながらこういうことあったらいいよねっていうのを語り合う仲間がいて、そこで火がついたものが突然トップに波及した途端に、一気にバッと全体に発火したっていう経験があったので、今の話はすごい腑に落ちるお話だなと思ってお聞きしていました。
 その流れで、永山さんにお聞きしたいのですが、例えば、小平さんは日置市にとってコミュニティの一員になりつつあるような気がするんですけど、地域の既存の自治会というコミュニティと150年先をなんとかしたいと思っている人たちのコミュニティの間を埋めて価値観や考え方を広げていくためには、どんなことができると思いますか?

永山:やっぱり身体知というか、我々に共通しているのは身体であって、「美味しいものは美味しい、楽しいことは楽しい」なんですよ。
 なので、先ほどの島田さんの農業の話は本当におっしゃる通りだなと思っていて、やっぱり体を動かしたときに得られる身体知って既存の自治会の方々と新しいOSを持った人とでも、そんなにズレないんですよね。
 でも逆に、そこがすごくズレてて面白いこともあって、例えば草刈りってあるじゃないですか。自治会とかで普段は行っているのですが、その自治会の中にはもう自治会員が残り8人ですみたいな場所もあるんですよ。そんな自治会員さんが2人で1.5kmの草刈りに協力してくれたりするのですが、限界が近いですよね。
 そういう地域が多い一方で、市役所には毎年新規で20人くらいの若手職員が入庁してくれるのですが、中には草刈り機を使ったことない人たちも結構いるんですよ。
 その草刈りですが、あれ実は超楽しいんです。何がめんどくさいって、刈った後の草を集めるのが面倒くさいんですよ(笑)。でも刈るだけだったら超絶楽しいです。この楽しさを伝えたいしこの楽しさを競技にしたいと思って、スポーツ草刈り「日置市草刈リーグ」というのを立ち上げたんです。草刈り機は危ないので、スピード競うのではなく、審査員が芸術性やチームワーク、仕上がりの美しさや服装のハマり具合等を審査するという競技に変えてみたんです。
 さらに、テスト大会ではお金払ってでも参加したくなる草刈りが実現するのかどうか実験だと思って、参加費1,000円の草刈り大会をやってみたら30人以上の応募があったんですよ。
 草刈りをアクティビティとして再定義したら、地域の方々は「参加費を払って草刈りをする人がいる」ということに大爆笑していて、一方で市役所に新卒で入ってきた草刈り未経験の方々は「最高ですね!これは!」って草刈り機を見つめるんですよ(笑)
 それを指導するのは、普段市役所でお世話になっている道路作業員の方々なんですが「草刈りはこうやるんだ!」みたいな感じで、そこでは地域の方々がヒーローなんですね。そういった価値転換をしたときに、ここに一つの突破口があるかもしれないと思ったんです。

 そういう身体知を伴った具体的なアクティビティによって、自治の文脈と150年先の持続可能性をちゃんと担保するみたいな文脈を接続させていくしかないかもしれないと思っています。

住む場所が変わると思考も行動も変わる

佐宗:このあたりで、会場にいらっしゃる皆さんにはどんな風に聞こえているのか振ってみようかなと思います。なんとなくボヤっとやっとやるべきこと、やれるかもしれないことの一部が見えてきた気がするんですけど、こんなことやったらいいんじゃないかとか、他のケースだとこういう風にしたらうまくいっているよ、みたいなのでも大丈夫ですのでご意見のある方いらっしゃいますか?

来場者①:ここまでのお話、ワクワクしながら聞いていました。永山市長の4町を引っ越しながら市長をやっているというお話、住む場所が変わると思考も行動も変わるという話にめちゃめちゃ頷いていて、私は一年前に東京から福岡に移住して海の近くに引越してきたので「昼と夜ってグラデーションなんだ」みたいなことに気づくというのがあったんですけど、お子さんの行動が変化したとか、例えば話す言葉が変わったとか、そういう変化ってあったのかなってお伺いしてみたいです。

永山:子どもはガンガン変わりましたので、地域性の影響はあると思います。が、今うちの子はまだ小さいので(4歳と0歳)、地域によって変わったのか成長によって変わったのかは分からないです。
 変化の背景にあるのは、やっぱりお祭りだと思います。地域ごとにそれぞれお祭りがあって、日置市で言えば、馬踊りとか棒踊りとか色々とあるんですけど、じいちゃんたちから子どもたちまでみんな縦の繋がりがバシッとハマって守られてきているので、そこには地域ごとの特性というのがあります。
 そこをかき混ぜたときに、永山家の子どもたちがどんな子になるかというのはちょっと実験しています。

ファンを創る

来場者②:お話ありがとうございました。すごいワクワクして、ちょっと移住を考えるくらいです(笑)
 永山市長にお伺いしたいのですが、コミュニティ同士の間を埋めるのが身体知だという話がすごいしっくりきたのですが、身体知のスケール感に限界があるかどうかという点で、4万7千人の人口だからできる、という話もあるのかなと思っています。私は、いろいろな街に関わっていて、だいたい1万人以下くらいでだったらなんとなくみんなの共通体験が作れるけど、例えば10万人、100万人になると無理なんじゃないのかと思っています。

 そのあたりで実感されているものがあればお聞きしたいという質問と、もう一つは、ちょっと今日のテーマから少しズレますけど、関係人口についてもお聞きしたいと思っています。今後、生き残る地域はファンが多い地域だと思っていて、先ほどの「こういうことを一緒にやろう」みたいなところだと思っているのですが、例えば、こういう企業に関わりたい、でもちょっと移住の一歩手前、みたいな場合にその辺の考え方とウェルビーイングの繋がりみたいなところがあれば教えてください。

永山:まず、4万7千人だからできるというスケール感の話はあるかもしれないですが、正直なところ、スケール感で言うと4万7千人も多いなと思っています。一方で、50万、100万人の都市で小規模のスケール感でできることが、できなくなってしまうかと言うと、ある種の運動論としてはそれを可能にしている事例も沢山ありますので、運動論としてのコミュニティをいかに地域に接続するかみたいなところは試行錯誤中です。

 例えば、スポーツごみ拾いって全国で沢山行っている人たちがいますが、その活動が地域に根付いているかというと、実態としては認定NPO法人 グリーンバードさんのように地域ごとのNPOがきっかけづくりとして実施されていたりします。だから、縦軸を地域軸、横軸がコンテンツ軸として考えると、その組み合わせをどのように形作るかが一つのポイントなんじゃないかな、と思っています。スポーツゴミ拾いも、それがエンタメになり得るっていう認識がローカルでは持ちづらいのですが、これだけ価値観が変わってくると、これが価値があるよねっていうことに気づいている人たちが世界中に増えていて、ゴミ拾いもその一つで、なんなら草刈りもその一つになり得て、おそらく農業体験とかもそうだと思うんですよ。

 なんならヨガとかマインドフルネスとか、禅とか、そういうのも、実は世界中で気づき始めてて、世界を見渡すと大きいコミュニティがある。その大きいコミュニティを横軸として、世界には色んなレイヤーがあって、そこに一本線を通していく縦のコミュニティが地縁組織、いわゆる地域の中にそれを引っ張ってこようとする人が一人でもいれば、それは着地しえるんじゃないかな。それが身体知を伴うものであればその地域にしかない経験ができるので、その掛け算が縦軸と横軸の組み合わせになるのかなと思っています。

 あと、関係人口の話でいうと、ファン作りはすごく大事だと思っています。4万7千人くらいの町だとギリギリ私個人が全員と友達になれる規模かもしれないなと思っていて、企業誘致よりも重要なところとして「個人誘致」と位置づけて、頑張っています。とはいえ、個人では限界はありますから、職員とか地元でファンづくりの重要性を認知していただいている企業さんの中に関係人口というか、「とにかく仲良くなろうぜ」という感覚を大事にしてもらえるようなサービス設計を意識しています。

 例えば、日置市関係人口の登録制度を作ったんですけど、その正式名称は”ひおきカメカメ団”って名付けたんです。日置市の吹上浜にはウメガメが毎年上がってくるんですが、日置市に関わってくれた方にとって、その期間は人生のなかでは僅かな期間かもしれないけど、またこの日置市に戻ってきてもらいたいという意味で、ひおきカメカメ団という名前にしているんです。例えばネーミング一つとっても「日置ファンクラブ」じゃなくて、「ひおきカメカメ団」だと誘いやすいんじゃないかなと思っています。

 これは、どうしてもパブリックセクションにいると、関係人口として登録してくださいとかあなたと私は関係人口ですよねみたいな、正面から作る関わりってどうしても血が通わないというか、温かさを感じないことが多いので、「繋がりましょう」じゃない関係性づくりを意識するように今は取り組んでいます。

佐宗:元々日置市に住んでいらっしゃって30年前にUターンされている会場の方、今のお話を聞いて改めてどのように思われますか?

来場者③:今はこんなことになっているのか、というのが今日の率直な感想です。さっきの焚き火の話をされていてとてもいいなと思っていたのですが、カリフォルニアのサンフランシスコの近くの海沿いにハーフムーン・ベイという場所があって、そこに有名なリッツカールトンがあるんです。そこが有名な理由の1つは1階の部屋全部に焚き火スペースが付いていて、海を見ながらその部屋で焚き火ができるんですよ。
 一度そこに連れて行ってもらったことがあるのですが、そこで夜中まで焚き火しながら飲んで語る経験が何よりもすごかったというのを思い出したんです。そうした体験が日置市だからこそできるとか、日置市に行ったら最高みたいな風景をいかに作り出せるか、なのかなと思いました。

 あと、小平さんの自己紹介で使われた奥様との写真に写っていた建物の雰囲気がめちゃくちゃ良くて、日置市に移住したらあんな家住めるのかな、と思って。

小平:僕は、来た人に印象付けるおもてなしができるのは、ものすごく重要だと思っています。あと、関係人口の話だと、企業が担保できるものってすごくあると思っていて、新社屋をハーバーって呼んでいるんですよ。外の人たちがやってきて荷物とつなげる港という意味です。

 プロジェクトの打ち合わせみたいな感じでどんどんうちの会社に外から人が来ると思うので、そういう人たちを徹底的に接待しまくって、気がついたらファンになって「ひおきカメカメ団」に入ってる、みたいなルートを民間と行政と一緒に形成していくみたいなことができたらなと思っているところです。

セッションを通じて~ウェルビーイングの未来~

佐宗:やっぱり小平さんが、まずファーストペンギンみたいな形で日置市に入られたところや、永山さんから市役所の職員の方々へのアプローチという動きもあるかもしれないし、小平さんの社員の方経由でファンが広がっていくという動きなどがちょっと見えつつ、ではその次のステップをどう作るかというところがすごい気になりますね。

永山:市長になって最初の1年は、永山に会いに来たよというお客さんが多かったんですけど、小平さんが日置市に行くと決めていただいてからは小平さんに会いに来た人が、ついでに市長室に寄ってくれることが多くなっていて、これは構造として先ほどの横軸と縦軸で言うと1本の極太の縦軸を担っていただけていて、世界と日置市がつながる柱として窓が開いたなって感じたんです。
 それによって多分、情報の流通量が半端なく増えることになってくる。その小平さんが大きく確かな窓として日置市にいてもらえて良かったなって思える状況を作り続けたいし、そうすることで次の窓がまた開くと思うんですよ。出来るだけ幸せな関わり方を作る努力をしていきたいなと思っています。

佐宗:では、そろそろ締めの時間にもなってきたので、他の方にもセッションを通じて感じられたことをお話いただきたいと思います。小平さん、改めてセッションを通じて今思っていることをお願いします。

小平:多分経済合理性から言うと鹿児島市に拠点があった方が良いと思っていて、今までの企業経営って資金繰りだと思っていたんですけど、これからはいかに良い人を採用出来るか、人をどう育てることが出来るかという意味で、人繰りの時代になっていると思うんですよ。
 お金は資金調達の方法がいっぱいある中で、今日話されたようなウェルビーイングを軸にした選択をするっていうのが新たな経営戦略の柱として一般的になっていくように、このプロジェクト自体もうまくいって来年はオフィスも完成しているので、ぜひ皆さん見学に来てもらえたらなと思います。

佐宗:続いて、島田さんもお願いします。感想でもいいですし色んな地域を見ていらっしゃると思うので、改めてこの地域がどういう風に見えたか、みたいなところも含めて感想をいただけると嬉しいです。

島田:日置市のことはすごく面白い事例だと思ったので、私の知っているところともぜひ繋ぎたいなと思いました。それぞれが強みに活かしているというのがとても良いことだと思うから、ここもひとつの良い事例だし、例えば私が関わっている和歌山県すさみ町というところも10分の1の人口ですけれども、なかなか良い事例だと思います。
 ひおきカメカメ団といったようなネーミングは、私もすごい大事にしていて、やっぱり人って興味を持って楽しそうってなったらそちらに行くので、すごく素晴らしい事例だと思います。

 さっき自治って話もありましたけど、ウェルビーイングってやっぱりセルフケアという言葉ととても繋がります。ウェルビーイングって主観的で良いということが分かっているので、他人との比較ではないんです。私たちって、ずっと他人との比較があって、それに慣れちゃっているからそれを止めないんですよね。いつも何かと誰かと比較して自己否定を繰り返しているけど、でも私はウェルビーイングがそれを是正していくすごいきっかけになるんじゃないかと思っています。つまり、人がどうでも構わない。それは嫌な意味じゃなくて、あなた自身、自分が良ければいいんですよ。だから、今日いい感じだな、いい調子だなって思えるかどうかというのがウェルビーイングのスタートポイントなので、自分に意識を向けて、自分にとって何がいいのか、自分は何が好きなのかということが分かっていなければいけない。これがセルフケアなんですね。

 誰かが何してくれないからとか、どうだからっていう見方をし続けてしまうと、幸せになろうなろうとしてしまいます。でも「幸せであると決める」ということがウェルビーイングの第一歩なので、ウェルビーイングタウンで、住民の方一人一人や市役所の方もそのようになっていったらすごいことになるんじゃないかなと思いながらと聞いていました。私もぜひ関わらせていただきたいなと思っています。

佐宗:というところで、日置市が面白い場所だということ、可能性がある場所だと伝わったと思います。改めまして、会場の皆さんもありがとうございました。

(ライター:青嵜 直樹 校正:SELF編集部)


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