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サヨナライツカ①:人生で唯一確実なこと

2020年2月16日㈰

学位審査の書類作業もおわり、残すは審査員の先生の押印と書類提出のみになった。差し迫ってやることがない解放感と虚無感のはざまにいた。ぽっかりと空いた日曜日、ずっと読みたかった本を読んだ。

サヨナライツカ ー 辻仁成

航空会社に勤務し、婚約したてでバンコクに駐在するイケイケのアラサー男子が、謎の大金持ちの美女と情事にのめりこみ、それが生涯心に残る思い出と忘れられない人となる話。

辻仁成さんの文章が、高校生の頃からずっと好きだ。高校と家庭に居場所を見つけらずにいた高校生のとき、『冷静と情熱のあいだ』を読んだ。孤独に寄り添う文章が私の曇りきった心に光を差し込んでくれたような気持ちになったのを、今でも覚えている。

サヨナライツカは、孤独に思い悩む人、愛する人と一緒になれずに苦しむ人に読んでほしい小説だと思った。

冒頭は、主人公の豊の婚約者・光子が書いた詩が書いてある。孤独を憂う必要などなく、愛と幸福の現実を直視した、誰の心にも響く詩だと思った。

序盤の最初のほうに、大いにうなずいた言葉がある。

私はその恋の絶頂の時に、その人の横顔を見て、いつかサヨナラがやってくるのだな、と考えて悲しくなるような気がします。


ほとんど同じような理由でつい最近泣いた。そのときは何で泣いているのか、言葉にできなかった。言葉が足りないとき、本で言葉を補充するべきなのだと思った。

読み終わる頃にひとつ気づいたことがある。

人生は、いつか終わる。

将来のことははっきり言ってわからない。でもいつか、終わりの日がくる、ということだけは確実なことを、日常を送っているとほとんど意識することが難しい。先月ひどく落ち込んだ日には『今すぐに人生がおわったらいい』と本気で思ったが、心配しなくてもいつかは終わるし、そのときを待ってたらいいだけの話だった。

人生には終わりがやってくる。何もかも、いずれおわる。そう考えた時、大切なことなんてほとんどないような気がする。お金持ちになろうが、仕事で成功して評判を得ようが、目に見えるものの永遠などない。遠い過去は、今ふりかえってみても些細なことなど覚えていないように、今思い悩むようなことは少なくとも振り返ったときにはどうでもよくなっている可能性は十分にある。

何を大切にしていくべきなのかはまだ分からない。ただ、つらく苦しい人生を歩んでも、一目など気にせず楽しい道を選んでも、いずれおわる。そう考えると、ちょっと心が軽くなった気がした。

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