見出し画像

赤い屋根のホテルとお祭りの記憶

昔のことです。
夏に親子3人で出かけましたが、その日のうちに帰宅できそうもなかったので、ある地域で泊まることになりました。

・・・

あそこがいい。小学校低学年だった私は、車の中から赤い屋根が印象的で少し敷居の高そうなホテルを指差しました。

宿泊費が高そうに思えたからなのか、ホテルに気遅れしているからなのか、お父さんは少し困った様子でしたが、宿泊が可能かどうかホテルに聞きに行ってくれました。

走って行くお父さんの後ろ姿を見て、私は少し心配になりました。お父さんは上手くお話しできるかしら。おかねもちみたいな人じゃないと断られるんじゃないかしら。

なかなか戻って来ないお父さんを待ちます。
私は少しワクワクし始めました。もしかしたらこのホテルに泊まれるのかな。

そのうち、お父さんは頭をかきながら走って戻ってきました。赤い屋根のこうきゅうそうなホテルを背に、頭をかきながら恥ずかしそうに戻ってくるお父さん。

私は、お父さんを少しかっこわるいな、と思いました。
ホテルは予約でいっぱいだったので泊まれませんでした。

・・・

お父さんとお母さんはあちこちを探して、ぼろぼろの宿を見つけてきました。部屋のドアはベニヤ製で一部が朽ちていたので、変な気持ちになりました。

夜の街はお祭りの装い。メイン通りをそぞろ歩き、お母さんといっしょにおみやげを選びます。お父さんもいます。家族旅行みたいだ、なんて私は嬉しくなりました。

振り返ると、赤い屋根のホテルが遠くに光っているのが見えました。こうきゅうな世界を遠く感じました。

ぼろぼろ宿の朝食は、冷たいご飯とメザシでした。子供ながら身の程を知った気分になりました。

帰りの車の中から遠く、赤い屋根のホテルが見えました。視界から消えるまで、私はじっとそのホテルを見ていました。

・・・

今も、赤い屋根のホテルはあるようです。
宿泊して思い出の上書きをするべきでしょうか。
泊まったらどんな気持ちになるんでしょうか。

[後日談]
勢いで、行ってきました。