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Web小説の新興サイト『たいあっぷ』 ~出版化された作品はどうなるのか?~

 現在では、いくつものWeb小説の投稿サイトが存在しています。
 その中でも最近になって登場した『たいあっぷ』は、かなり特殊な小説投稿サイトであろうと思われます。

☆公式関係URL

たいあっぷ 公式サイト(2021-05-15現在はクリエイターページのみ)
https://tieupnovels.com/
たいあっぷ note
https://note.com/tieupnovels
たいあっぷ Twitter
https://twitter.com/tieupnovel

 このサイトでは、「小説書きとイラストレーターのマッチング」→「表紙・口絵・挿絵などが組み合わされた書籍風に体裁を整える」という手順を踏んで、作品が投稿されます。
 もちろん既存の小説投稿サイトでも、挿絵を付けた小説を投稿するということは可能でした。しかしそのためには、知人の絵描きを頼ったり、あるいは『SKIMA』などのコミッションサイトで表紙や挿絵を依頼するといった、かなりの手間とハードルの高さがありました。
『たいあっぷ』では、最初から小説書きとイラストレーターを組み合わせることを前提としたシステムのため、この「イラスト付き小説」の制作をきわめて手軽におこなえるようになっています。これは非常に革新的なことです。

 さて、現在の『たいあっぷ』では、立ち上げに伴ってオープニングコンテストが開催されています。

オープニングコンテスト 詳細ページ

https://production-static.tieupnovels.com/static_page/lp/index.html
(応募期間:2021-02-24 ~ 2021-06-24)

 このコンテストで入賞となった場合は、その賞に応じてクリエイターに賞金などが贈られるほか、受賞作が出版化(電子書籍化)されるなどの恩恵があります。
 また、コンテストの入賞から外れても、運営から出版化によって収益が見込めると判断されれば、個別に交渉・契約などがあることは容易に予想されます。

 そこで、小説書きや絵描きの人々が気にするのは、この契約を結んだ作品などの権利的な扱いがどうなるかということでしょう。

 まず、規約などからほぼ確定していることを箇条書きします。


・著作権は、クリエイターが所有する。文章は小説家に、絵はイラストレーターに帰属。(利用規約:第10条2項)

・受賞、または運営による打診などによって、契約を結んだ場合は出版権を『たいあっぷ』が得る。

・受賞作は、該当作品の続編に関しても『たいあっぷ』が優先的な契約交渉の権利を持つ。


 出版社によっては、作品の著作権自体の譲渡も契約に含める場合などもありますが、少なくとも『たいあっぷ』は「本コンテストのためにたいあっぷ上に投稿された作品の著作権等については、投稿者本人に帰属します」と謳っているように、出版権のみの契約であろうと判断できます。

 しかし、上記の規定だけではいくつか不明な点もあるかと思います。
 そこで運営に問い合わせをおこない、いくつか回答を頂いたので、これについて記します。

※回答はすべて確定ではなく、現状の運営サイドの意向といったものであり、今後の状況によって変化しうるものです。
 この記述を確定した情報としては扱わず、あくまでも「運営としてはこのような方針なんだな」という参考程度にしてください。


Q.もし出版化が決まり、実際に電子書籍として販売されたとして、売れ行きが悪かったなどの場合に続編はどうなるか?
 Web小説の書籍化などでは、売れずに打ち切りとなり続きも読めなくなった、という事例も多い。『たいあっぷ』でも、そのような打ち切り問題などが発生するだろうか?

A.出版許諾を行なった作品の販売については、何か特別なことがないかぎり、運営から打ち切り等の販売の停止を行う予定はない。
 しかし運営側が続編を許容していても、『たいあっぷ』作品は文章とイラストの複合作品であるため、パートナーが合意しないと続編の制作ができない可能性もある。


Q.出版化した作品については、もしほかの小説投稿サイトに掲載している場合、どのように扱うことになるのか?
 マルチ投稿は存続されるのか? また、続編のマルチ投稿も許容されるのか?

A.現時点では、具体的な言及ができない。
 しかし『たいあっぷ』がコンテストなどで、他社投稿サイトに掲載された既存作品などの利用を勧めているため、『たいあっぷ』以外のサイトでの掲載を取りやめることを契約に盛り込む可能性は非常に薄いと考えている。


 上記の二点が、おおよその質問と回答の内容でした。

 一点目について。
『たいあっぷ』ではクリエイター側が電子書籍の体裁を整えるため、運営側の販売にかけるコストはきわめて小さいことでしょう。したがって、作品の売れ行きが悪かったとしても打ち切りさせるといったことは基本的にないことが考えられます。
(もっとも、作品自体または作者に大きな問題があり、『たいあっぷ』の名誉や評判が傷つけられる可能性などがある場合には、販売を停止させるなどの対処が起こりえるかもしれません)

 しかし運営側は問題なくとも、クリエイター側のトラブルによっては続編制作などに支障がある可能性もなきにしもあらずです。
 たとえば、小説書きは続編を電子書籍として出したくても、イラストレーターが拒否するかもしれません。その逆もしかりです。運営ではなくクリエイターのどちらかが「売れないからやりたくない」と考えたら、現状のたいあっぷの制作システムだと仕様的に続編を出すのが難しくなります。
 この辺のトラブルが起こった場合、どのように対処するかなどについては、のちのち運営がガイドラインを提示するのではないかと思います。

 二点目について。
 これについては、妥当な回答が得られました。小説を投稿している作家陣はマルチ投稿をやめたくないし、たいあっぷ側もマルチ投稿をやめさせるメリットがあまりないので、おそらく(少なくとも『たいあっぷ』というサイトが成長して独力で影響力を持つまでは)たいあっぷのみでの掲載とする契約はなされることがないでしょう。
 運営的には、おそらく『小説家になろう』などの大御所サイトから『たいあっぷ』へと利用者を流れ込ませたいと考えているでしょう。しかし、『なろう』では規約的にダイジェスト化や「続きは〇〇で買ってください」などの投稿がNGとなっています。するとやはり、たいあっぷ運営的には小説の本筋のマルチ投稿を許可せざるをえないのではないでしょうか。

 やはり『たいあっぷ』は、イラストレーターの存在が他社投稿サイトとの差別化になっているので、おそらくはそうした点で商品的価値を付け加えて販売していくことが、最初は重要になってくるのではないかと思われます。
 たいあっぷ運営はイラスト集やグッズ化なども販売戦略の一つとして考えているようなので、そうしたものも上手く利用して、利益を上げられる形になってくれることを願いたいところです。


 長くなってしまいましたが、このような運営サイドの考え方などは、たいあっぷでの出版化を目指すならば参考になるのではないかと思います。
 コンテストは時期的に今から新規参加するのは難しそうですが、今後も運営は新規作品の出版化を考えているでしょうから、気の合うパートナーを探してたいあっぷ作品を制作するのも悪くないかと思います。
 多くの作家やイラストレーターが、たいあっぷに参加していただけると嬉しく思います。


執筆者:てと
https://twitter.com/Ishikoro_7743


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