TEPPEI RECOMMEND 2024 3/17~3/23

いまオススメのロックをテキストと共にお届けするTEPPEI RECOMMEND。今週は6曲紹介します。先週から引き続き、というか3月の間は同じプレイリストでいくので18曲目からの紹介という形になります。曲にはYouTubeのリンクを貼っときます。Spotifyで聴けない人はそちらをチェックしてください。ではまいりましょう。

18曲目はPorter Robinson(ポーター・ロビンソン)の『Cheerleader』。ポーター・ロビンソンはアメリカはノースカロライナ州チャペルヒルのアーティスト(DJやプロデューサーもやってるらしい)。日本のゲームやアニメが好きらしく、MVを見てもアニメの被り物をしていたりしてオタク気質がよく現れている。音は流行りのハイパーポップでめっちゃアッパーなんだけど、歌詞を見ながら聴いてみると(MVで字幕ありにしてチェックすると)、『疑いもなく心から行動しているのがわかる』とか『さらに彼女は陶酔して「私は彼を治せるはず」って夢中になっている』とか『彼女の瞳の中にはハート』なんてのもあって、ああ彼女にしつこく追い回されて大変だなと思っていたら、『彼女が僕を必要としていると思っていた』『けど、僕が彼女を必要としている』『そんなの不公平だ』『だって、君を自分の手の甲のようによく知っていたから』『君にすべてを捧げたのに』『今ではそこに君がいなくても君を感じる』という歌詞があって、ああもしかして、いやもしかしなくてもやべぇ奴の歌だったと気づく(小説でいうところの“信頼できない語り手”もの)。歌詞だけ見ると正直キツいのだけど、アゲアゲな曲に乗ることで唯一無二の世界観が作品としてパッケージされてヒットする(公開2日でYouTubeの再生回数が120万くらいまでいってる)という、ポップアートに受け継がれる一つの型(古くはモリッシーとかがそうだし、最近の日本だとあいみょんの『die die die』なんかもそう。ウキウキするシャッフルビートの曲の歌いだしが『だってもう私たちいつ死ぬかわかんないし』なのはヤバすぎるだろ。これも“信頼できない語り手”もの)を正しく継承していると思う。そういう分析はさておいても、こういう気分が上がるポップソングがDJでかけられるのは嬉しい。

19曲目はgirl in red(ガール・イン・レッド)の『You Need Me Now?』。girl in redは『TEPPEI RECOMMEND 2024 3/3~3/9』(9曲目)でも取り上げたようにマリー・ウルヴェン・リングハイのソロプロジェクト。そこでも書いたようにメジャーとマイナー(インディー)を行き来するような曲を書いてきたのだけど、今回のシングルは前のシングル『DOING IT AGAIN BABY』から引き続きポップなロック(メジャー)。前の記事では「今年の2月にリリースしたシングル『Too Much』では初期のインディー感を残しつつもエレクトロサウンドを取り入れた、いわばインディーとメジャーを折衷したようなバランス感覚を提示している」と書いたけど、『Too Much』はむしろ例外で、次のアルバムは全体的にメジャーな仕上がり(ポップなロック)になるのかもしれない。

20曲目はPearl Jam(パール・ジャム)の『Running』。いやあ流れだした途端ミッシェルかと思った。そのくらいストレートなガレージロック。でも不思議なのはそのガレージロックにエディ・ヴェダーのボーカルが乗るとパール・ジャムだってすぐにわかること。リアムとかもそうだけど、声ってすごいなと思う。その曲の聴こえ方さえも変えてしまうんだから。

21曲目はWallows(ワロウズ)の『Calling After Me』。ワロウズは2017年にデヴューしたアメリカはロスアンゼルスの3人組ロックバンド。この曲はただただ最高のギターポップ。新曲を視聴しまくっててこういう曲に出会うと、砂浜で綺麗な貝殻を見つけたとかそんな使い古された比喩を使いたくなってしまうね。全く出会わないほどレアではないし、取り立てて傑作だというわけでもないのだけど、いつの時代にも(80年代でも90年代でも00年代でも)あった良質のギターポップ。好き。

22曲目はFrancis of Delirium(フランシス・オブ・デリリウム)の『Blue Tuesday』。フランシス・オブ・デリリウムはJana Bahrich(これは何と読むのか。ジョナ・バーリッチかな)とChris Hewett(こちらはクリス・ヒューウェットかな)からなるインディーロック・デュオ。中心人物であるジョナ・バーリッチの拠点はルクセンブルク、といってもピンとこないと思うけど、ベルギー、フランス、ドイツに囲まれたヨーロッパの小国らしい。そういうつもりで聴くと今回紹介する『Blue Tuesday』もアメリカというよりはヨーロッパっぽい感じがする。繊細で陰鬱というか気だるげな美しいメロディーに、線が細い(のに印象に残る)儚げな歌声がとってもマッチしていて聞き入ってしまう。これまで火曜日ソングというとぱっと思い浮かぶのはローリングストーンズの『Ruby Tuesday』とプライマルスクリームの『Gentle Tuesday』くらいだったけど、これで3曲目ができました。

23曲目はRosie Tucker(ロージー・タッカー)の『Gil Scott Albatross』。ロージー・タッカーはアメリカはロスアンゼルスのシンガーソングライター。この曲もワロウズの『Calling After Me』と同じくただただ良質のギターポップ。ジーニアスに上がってた歌詞をDEEPLで翻訳してみると(もちろんおかしくないか自分でチェックはした)、『彼らは月を労働搾取工場に変えようとしている』というラインから始まり、『ギル・スコットの名前すら聞いたことがない連中だ』と続く。コミュニケーションがとれない、自分とは相いれない人たちに向けた歌だとわかる(レコード会社のお偉方に向けた曲なのか、ともかく自分とは住んでる文化圏が違う人への曲だろうね)。中盤の『いきづまってる』『できることはやった』ってあたりは議論することを半ば諦めてる感じが出てるけど、そのあとに『共通の土台で話そう』『横殴りはしないし、殴り倒しもしない』という歌詞があり、完全に諦めたわけではなさそう。歌詞だけ見ると結構シリアスな問題を扱っていて、ちょっとうんざりしてしまうけれど(そして言葉だけでは袋小路に入って抜け出せない感じしか受けないけれど)、このポップな曲に乗ると問題が俯瞰される感じがあって、そのことで万人が楽しめるエンターテインメントに変換されているという。ポーター・ロビンソンの『Cheerleader』でも書いたけど、詞と曲のマジックだなと思う。

ということで曲紹介は終わり。今回は6曲だったけど、あれやこれや思いつくままに書いた結果、結構長くなった。というわけで今週の雑感は短めに(なるかな?)。

【今週の雑感】
先週フジロックの第三弾とサマソニの第二弾があって、こうやってアーティストが出そろってくると結構いいなとは思う。とは思うけど、サマソニで二日ならチケット代含めて五万近く、フジロックで三日ならチケット代と宿代含めて何だかんだで十万近くかかることを考えると、今年はパスだなと思う。で、今年はフェスなしかなと思っていたのだけど、今週木曜日に発表されたソニックマニアの第一弾に驚いた。来ましたね、来た。アンダーワールドにフェニックスにニア・アーカイブズに坂本慎太郎にヤング・ファーザーズなんて。それで1万5千円でしょ。そりゃあ行くしかないでしょ。長谷川白紙もどんなライブか興味あるし。ヤング・ファーザーズなんか今年は観れないものと諦めていたから驚いたし嬉しかった。YouTube観る限りかなりライブがいいんだよね。後は被らないことを祈りつつタイムテーブルを待つのみ。

今週はこんくらいですかね。ああそうだ。来週月曜発売のローリングストーンズ誌の日本版にヴァンパイアウィークエンドのエズラのインタビューがのるらしいんですよ。それはいいんだけど、雑誌の表紙がMAZZELっていう8⼈組ダンス&ボーカルグループなの。いやMAZZELっていう人たちとかそのファンの人たちをディスるつもりはないよ。趣味は人それぞれだし、その分野分野でいろいろあることくらい自分にもわかるから。ただヴァンパイアウィークエンドを聴いてMAZZELに興味をもつとかその逆とか、絶対にありえないと思うわけ(YouTubeでMAZZELの『ICE』を聴いてみたけど、やっぱりヴァンパイアウィークエンドに流れるとは思えない)。なのにMAZZELを表紙にしてヴァンパイアウィークエンドも扱うっていうのはどういう編集方針というか、どういう読者を想定しているのだろう? 実際の紙面でJ-POPと洋楽ロックあるいは邦楽ロックがどんな割合で扱われてるのかわかんないけど、MAZZELが表紙だからって買って9割洋楽ロックだったら、詐欺だってMAZZELのファンは怒るだろう。まあエズラのインタビューは端っこなんだろうなとは思う。ただそのインタビュー記事(本当に読みたいのだけど)のためだけに、MAZZELが表紙の音楽雑誌、1100円する音楽雑誌を買いたいとは思わない。これと似たようなことは他の音楽雑誌(どれとは言わない)でも見受けられて、雑誌が売れなくて扱っても儲からないアーティストの記事を載せようとしたらそうするしかないんだって理屈はわかるのだけど、こっちも無駄金を使えるほど金持ちじゃないんだから、申し訳ないけどごめんなさいとなる。さらに音楽と経済ということで余計なことを書くと、日本のロックバンドを扱ってる雑誌で、ライターの人が日本のロックをえらくほめている(大雑把な書き方でごめんなさい)のを目にすると、この人は過去に数えきれないほど優れた海外のバンドを聴いてきたはずなのに、なぜ日本のバンドだからってベタ褒めできるのか、日本のバンドを扱うと金になるのはわかるけど、そういう経済原理でもって自分の意見までコロッと変えてしまうのかって思ってしまうね。

なんかだらだらとしかも謎にデカい話になったけど、今週はここまでです。最後までお付き合いいただきありがとうございました。

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