関友美の連載コラム「同級生たちと、知らず知らず重ねる年輪」(リカーズ2月号)
そうだ。日本酒を飲もう。二十三杯目
「同級生たちと、知らず知らず重ねる年輪」
先日とある取材で、福井にある「常山(じょうざん)」醸造元常山(とこやま)酒造を訪れました。迎えてくれたのは、昨年社長に就任したばかりの常山晋平さん。酒造設備、地域や田んぼへの思い入れ、これからの展望など、さまざまな話を聞くことができました。それから、晋平さんのお誕生日が1985年1月30日。わたしが1月19日、と同い年ということがわかりました。
長野県の蔵元チーム「59(ごく)醸(じょう)」は、『昭和59年度生まれの長野県の酒蔵跡取り5人』というコンセプトで集まっているため、「北光正宗」村松さん、「勢正宗」関さん、「積善」一基くん、「本老の松」淳さん、「福無量」沓掛さん、と全員が同い年。それから福島県「天明」孝市くん、福島県「彌右衛門」哲野くん、東京都「澤乃井」幹夫さん、千葉県「甲子正宗」飯沼さんも同い年です。酒造業界はもとより、飲食業界や流通業界にも活躍されている同級生が多数います。
「自分などまだまだ新入り」、だなんて思えていたのは昨日までの話。気づけば業界歴も10年を越え、20代の子たちから「関さんに憧れて日本酒を飲むようになりました」「昔から記事読んでいます」という、うれし涙と鼻水で前が見えなくなりそうなことを言ってもらえる夢のような日が訪れる昨今です。さらに同い年の蔵元さんが、冒頭の晋平さんのように社長になっていく姿を見ると、「大切なことを担う年頃なんだな。自分も益々精進せねば」と、身が引き締まる思いがします。
2020年11月、福島県「廣戸川」松崎祐行さんのもとに取材に行きました。彼と最初にお会いしたのは、10年ほど前。酒販店さんが開催した酒の会でした。寡黙で、質問しても目線を合わせてくれなくて「おかしいな~」と思いながらも、あまり気にも留めずに忘れ、時は過ぎました。その時のことを問うと、松崎さんは「当時は人見知りが激しくて。それまで県外に出る機会もなかったので、東京に行くだけで具合悪くなるほど緊張しちゃって。今はもういい年ですから」と話してくれて、ほほえましい懐かしい過去を笑い合いました。
個人差はあるものの、彼らの過去の話を聞きながら「当時自分はどうだったかな」と、時代背景と自身の心理的状況を重ね合わせ、立体的に想像できるのが、同い年の良い点かな、と思います。たとえば松崎さんは、東日本大震災で実家の酒蔵が壊滅的な被害に遭ったのをキッカケに発起し、未経験から杜氏になりました。自分の将来への不安が、世の中の暗さに後押しされて鬱屈としていた20代。あの時代に、がむしゃらに歩を進めた彼を心より尊敬します。こうしてみんなで年を重ねるのはいいな、と思える出来事でした。また10年後、20年後、彼らと真正面から向き合える自分でありたい、と背筋を正しながら、今日も日本酒と対峙しています。
今月の酒蔵
福光屋(石川県)
1625(寛永2)年創業と、金沢で最も長い歴史を持つ酒蔵。1960年から原料である米の大切さに着目し、農家と共同で土づくりから研究し契約栽培を行っている。さらに世の中に先駆け2008年から、有機栽培化を実現。生産が1万石を超える蔵として初めて、2001年には全量純米酒化に転換した。日本酒製造だけでなく、蓄積した発酵技術をもとに化粧品や食品開発も手掛け、多くの人々の心と肌を潤している、北陸を代表する企業だ。
以上
庄司酒店発刊「リカーズ」連載日本酒コラム
関友美の「そうだ。日本酒を飲もう。」2月号より