関友美の連載コラム「アメリカ人が語る「日本人も知らない日本酒の話」」(リカーズ5月号)
日本酒関連の本が、久しぶりにわたしの手元に返ってきました。どうやらこのご時世でパタリと会う機会がなくなっていた女の子に貸したまま忘れ、5冊の本は丸3年のあいだ彼女と過ごしたようでした。その中に、ジョン・ゴントナー氏著「日本人も知らない日本酒の話」が。この本と出会ったのは、かれこれ10年以上前のこと。図書館で読み、感動してその後購入したものでした。
英語教員として来日した「普通のアメリカ人」ジョンさんが、いかにして日本酒に興味を持ち、日本酒ジャーナリストになり、日本酒伝道師としてアメリカで普及に尽力することになったのか、という自伝です。現在日本酒業界で、彼の名を知らない人はいません。
京都「玉川」のイギリス人杜氏フィリップ・ハーパー氏との出会い、同じく京都「玉乃光」での利き酒で火入れの微細な失敗を見抜いた場面、三軒茶屋の名店「赤鬼」で大流行する前の「十四代」に出会ったこと。次から次へと飛び出す銘柄名と、居酒屋の名前、はじめて知る文化の数々に触れ、わたしは目が覚めるような感覚を味わいました。ジョンさんと日本酒との「運命の出会い」を目の当たりにして、薄々感じていた日本酒への好奇心は確信と変わり、日本人なのにジョンさんより日本酒について知らないのは恥ずかしい、もっと知らなければならない、と使命感を感じたのです。偶然にもその頃わたしは、ジョンさんが日本酒に出会ったのと同じ26歳でした。
当書中でジョンさんは「フランスワインは一時落ち目になったが、他国で評価されると自国の宝、と再認識された。日本酒にも同じことが起きるといい」と、語っています。発刊された2003年から20年が経ち、ジョンさんの願いは少しずつ形になっているように思います。酒蔵さんの世代交代による変化、ジョンさんのような先人・先輩たちの尽力、国税庁・外務省やJETROの取り組み、世界的な健康志向による和食の復興などさまざまな要因があるでしょうが、陰にこうした人の情熱があったのは言うまでもありません。
同様にわたしの人生を変えた、山同敦子氏著「愛と情熱の日本酒―魂をゆさぶる造り酒屋たち」も、ぜひお手に取ってみてください。遠く感じていた“日本酒の世界”は、自分と同じひとりの人間の苦悩と挑戦の末に積み上げた酒と文化が、幾重にも折り重なり紡いできた身近な伝統だと知り、明日への活力になってくれるはずです。
今月の酒蔵
飛良泉本舗(秋田県)
1487年(室町時代)創業と、東北で最も歴史があり、全国でも3番目に古いとされる酒蔵。斎藤家が関西の泉州より霊峰・鳥海山の恵み豊かな現在の地、仁賀保へと移り酒造をスタート。「飛良泉」の特徴は、酒母を山廃仕込み(山卸廃止酛)で作ること。空気中の乳酸菌など微生物の力を借り、自然のままに培養する昔ながらの製法により、力強い酒が完成する。次期二十七代目蔵元・齋藤雅昭氏が手掛ける「HITEN」シリーズも人気で、今再注目されている酒蔵のひとつだ。
以上
庄司酒店発刊「リカーズ」連載日本酒コラム
関友美の「そうだ。日本酒を飲もう。」5月号より
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