見出し画像

引退しよう、が日本2位になった日/野村蒼 Vol.2

◆Vol.1から続く

文字にすれば、ほんの1000文字。
言葉で話しても、たった15分。

でも、当然、そんな簡単に「陸上をやめる」と決意したわけでもないし、そして「やっぱり続けよう」と思ったわけではないはずです。

もっとちゃんと、野村蒼選手の気持ちを聞きたい。
文字で伝える限り、その心の動きを知る必要がある。

そう思って、さらに聞いたのです。


怪我じゃない。やりきった状態で終わろう

1年半という長い間、怪我に悩まされた野村選手。
「もうやめよう」と思い、昨年2020年の夏、
野口監督と話した時、「怪我でやめるんじゃなく、
最後に1度でもいいから走ってやめたほうがいい」

言われたことで、現役に踏みとどまりました。

そのやり取りには、お互い同じ怪我で
苦しんだという”共感”があったと言います。

「野口監督も怪我で引退したみたいで、最後にレースを走ったけど、少し悔いが残ったとおっしゃっていました。そういう気持ちを聞いて、同じ状態というか『「怪我で走れない」で終わったとして、お前は本当に悔いは無いのか』と言われたんです」

「それを改めて考えた時、痛いから引退しますって言って終わるのは、自分の中でやっぱりイヤだなというのがあった。痛くてもとりあえず練習を積んで、ひとつのレースをここで走るって決めて練習して、走ってやりきった状態で引退したほうが、より今後の人生も気持ち的に切り替えられるんじゃないか。そう、野口監督から言ってもらいました」

「『タイムとか全然気にしなくていい、遅くてもいいから、自分でしっかりやりきった状態で終えられるようにしよう』と話して、最後に引退レースをやりたい。そう考えることで、気持ちを持っていきました」


まだ、強くなりたい

そこから、練習をしてみると、
思った以上に走れるようになり、
競技に対して前向きになっていった野村選手。

実際の復帰戦となったのは、
9月の日体大長距離記録会でした。
結果は「ボロボロでした」と本人が語るものの、
もう次に向かって彼女の気持ちは
切り替わっていた
のです。

「その時には、まだまだ力がないなと思ってもっと強くなりたいなと思いました」

その後、少しづつ本来の実力を
取り戻し始めた野村選手。

10月のプリンセス駅伝前までには、
もしかしたらメンバーに入れるかも
しれない状態までコンディションは回復。
結果的に力及ばずメンバーに入れませんでしたが、
”また1ヵ月後にクイーンズ駅伝があるなら頑張ろう”
思えたことで、次に進むことができたのです。

そして迎えた、11月22日のクイーンズ駅伝。
野村選手はアンカーの6区を任され、
堂々の準優勝でフィニッシュを飾りました。

一時、引退を考えていた選手が、
同じ年、女子駅伝日本一を決める大会で
準優勝メンバーになったのです。

奇跡と簡単に言うつもりはありません。
でも、それは、
もし諦めたとしたら
絶対にあり得なかった結果だった
のは、間違いありません。


できないことができる。その「走る楽しさ」

当然、彼女一人では絶対に
成し得なかった結果ですし、
クイーンズ駅伝の結果に野村選手は満足していません。

「やっぱり優勝を狙うメンバーの中で、自分の力が全然足りなくて、足を引っ張ったのはチーム的にもすごく感じました。でも、ちゃんと復帰できて走れた。それでゴールした時に、みんなが笑顔で迎えてくれた。それが、本当に嬉しかった。それで自分は、ここまで頑張って良かったな、そう感じました。泣きそうになりましたね」と話します。

そして彼女の口から出てきた言葉は、
「走るのが楽しくなった」でした。

「今まで”走る”って、そんなに楽しく感じたことはなかったんです。練習で走っていても、ひとつずつが途切れ途切れというか…。今日の練習頑張ったね、みたいな感じだったんですけど、ひとつの目標を決めて積み重ねていって、できることが増えたりするのが、今はすごく楽しい

「怪我して全然走れない状態からスタートしたので、できない状態からできるようになるのは、自分の中にいろいろなものが増えていく。そういうのがすごく楽しいなと、今は思えるようになりました」

色々な人のサポートを受けて。
どうして、こんなに走れないんだろうと悩んだ日々、
それは今、
どうして、こんなに走るだけで楽しいんだろう
という毎日に変わったのです。

Vol.3に続く➡

文:守本和宏/ナノ・アソシエーション
--------------
積水化学女子陸上競技部 セキスイフェアリーズ 公式HP  https://www.sekisui.co.jp/company/rikujou/
🔔積水化学女子陸上競技部Twitter
👍積水化学女子陸上競技部Facebook
📗積水化学女子陸上競技部note

ご声援よろしくお願いします!!
------------