記憶に残る選手の感謝/熊谷知昭トレーナー①
トレーナーと言っても、専門は様々。
リハビリ中心に見る人や、鍼灸の資格を持つ人など、
役割はそれぞれ違います。
ただ、選手を大切に想う気持ち、
少しでもパフォーマンスをあげて、
チームが目指す目標に進ませてあげたい。
その情熱は概ね、同じでしょう。
積水化学女子陸上部のトレーナーとして、
10年以上選手を見続けてきた、熊谷知昭トレーナー。
彼もまた、ひとつの縁からチームとつながり、
たくさんの喜びや悔しさを選手と共有し、
そして、感謝を受け取ってきました。
その積み重ねは、彼にとっても大きな財産です。
なくてはならない存在
なかなか一般的に理解しにくい、
トレーナーという職業の仕事内容。
積水化学のトレーナーとして長年選手を
見てきた熊谷トレーナーは、
自身の役割をこう説明します。
「今求められている役割は、監督のやりたい練習、高い強度の練習に耐えられるように選手の体を作ること。そのために一人ひとりの弱点や強い部分を評価して、ただ鍛えるだけではなく、走る為に使える身体を強化することを意識しています。トレーナーではありますが、今はストレングスコーチとしての役割が強くなっています」
年々強化されていくチームにとって、
もはや、なくてはならない存在なのです。
監督が選手だったころからの縁
熊谷トレーナーが、積水化学に関わり始めたのは2010年頃。
以降、12年にもわたって多くの選手たちを見てきました。
そのきっかけは、野口英盛監督との縁だったと言います。
「野口さんが現役選手だった時代、私が前職で働いていた整形外科でリハビリを担当させていただいたのが、最初の出会いでした。野口さんが引退してコーチから監督になられた時、積水化学でも怪我人のケアや選手強化をしっかりしていきたいとのことで、声をかけていただきました」
職場の上司からも「その縁を大事にしてほしい」と
後押しされ、関わり始めた積水化学。
しかし、最初は「とても大変でした（笑）」と笑います。
「初期は選手が全くトレーニングをしてきていなかった。いわゆる正しい筋トレなどを学生時代に経験した選手が非常に少なかった。例えば初回なら、このぐらいはできるかなとイメージを持って取り組んでも、それに全く届かないレベルで、その場でレベルダウンしたり、予定してた半分ぐらいの負荷からやり始めた、というのが最初でしたね」
昨今は、高校・大学でも強豪校ならトレーナーが
いたり、YOUTUBEでも様々な情報が取れるため、
「スタート段階としてはかなりやりやすくなった」
と話す熊谷トレーナー。
それでも、10年以上前はトレーニングに対する
概念も、かなり違うものだったのです。
一緒に頑張ってもらえて前向きになれた
中でもやはり、怪我の多い選手のことは
記憶に残っています。
例えば、5000mで日本選手権4連覇、
2016年リオ五輪出場も果たした
尾西美咲さんもその一人。
「尾西選手でいったら、1年間に2回、疲労骨折をした時期がありましたね。そのリハビリを担当して、骨を折らずに走り続けられる状況を作るまで、非常に時間がかかったのを覚えています。彼女の場合、分かりやすく伝えると、床を蹴る力がかなり強い。逆にその分、足のバランスだったり衝撃吸収できる機能ができていないままに、パフォーマンスを出す走りをしていたので、骨に直接負担が来ていた。それを改善するリハビリを行いました」
「ただ筋力をつければいいというだけではなく、力を発揮しやすい体の位置や、外側や前後のバランスなどを整え、力が発揮しやすい体を本人が自覚する。そこに向かわせるための手助けを、させてもらった形です」
そうして、二人三脚で選手たちと歩む中で、
印象深い思い出も、多く積み重なっていきました。
「誰でもそうですけど、引退するタイミングは必ず来る。怪我で引退していく選手もいるわけで、こちらも改善できず、申し訳ない気持ちになることがあります。でも、例えば手紙をもらって、『一緒にリハビリしてもらえたことで前向きに頑張れました』とか『感謝しています』と言ってもらえたのは、非常に嬉しかったですね」
選手と共有した時間と心。
それは、熊谷トレーナーにとっても、
ひとつの貴重な財産となっています。
➡VOL.2へ続く
★熊谷知昭トレーナーのお店【K studio】
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文：守本和宏／ナノ・アソシエーション
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