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マイ・フェイバリット・ソングス 第40回~KAN

(2023年12月)

2023年11月12日、KANさんは61歳でお亡くなりになりました。そのときどの媒体でも<「愛は勝つ」の~>という枕詞がついて報道されていました。ファンやアルバム単位で聴いたことのある人は誰もが「KANは『愛は勝つ』だけじゃない。素晴らしい楽曲がたくさんある」というもどかしい思いをしているのではないでしょうか。桜井和寿さん・草野マサムネさん・平井堅さん・aikoさんなど多くのアーティストからもリスペクトされているシンガーソングライター。今回はそんなKANさんのキャリアの一端を入門編のような形でご紹介できればと思います。KANさんのアルバムは王道のポップソングの他、リスペクトするアーティストへのオマージュ・ソングや極上のラブバラードが混在しているのが特徴です。また、彼の歌声が僕はとても好きです。声量のなさがいいんですよね。高音でかすれた声になる感じもKANさんの味になっている気がします。

『テレビの中に』(1987年)

アマチュア時代の曲を多く集めたデビューアルバム。全曲作曲と編曲はKANさん自身ですが、作詞はまだ3曲のみ。KANさんは歌詞が大きな魅力のひとつなので、そこが少し残念ですね。全体的に打ち込みメインのポップソングが中心。このアルバムはやはり表題曲の「テレビの中に」がいいですね。キャッチーでライブでも盛り上がります。詞のモデルは小泉今日子さんとのこと。「セルロイドシティも日が暮れて」はビリー・ジョエル風のピアノが印象的で、後の「秋、多摩川にて」や「Songwriter」の原型になったと思われる佳曲です。

『NO-NO-YESMAN』(1987年)

2nd. 前作に比べるとジャズやAORの要素を取り入れたオシャレなアルバム。全曲作曲。編曲は松本晃彦さんとの共同に。作詞はまだ半分ほどです。このアルバムは最初期の傑作「今夜はかえさないよ」で幕を開けます。メロディもアレンジも大好きな一曲。他にライブを意識して作られたと思われる表題曲「NO-NO-YESMAN」や森高千里さんに提供するはずだった「ONE NIGHT KISS」といったノリノリの曲から「ALL I KNOW~僕に分かることは~」のようなしっとりした曲まで幅広く収録されています。

『GIRL TO LOVE』(1988年)

3rd. 最初期のKANさんをオリジナルで聴いてみようと思ったらまずはこの一枚ですね。初期の代表曲が詰まっています。作詞も10曲中8曲となりました。まずはなんといっても「言えずのI LOVE YOU」。素晴らしいメロディラインです。詞もKANさんがお得意とする弱気な男の心情が見事に描かれています。多くのアーティストにも影響を与えていて、Mr.Childrenの「over」のサビのメロディはこの曲をお手本としたそうです。(Aメロは「まゆみ」ですよね。仮タイトルは「2beatでKAN」だったそう) また槇原敬之さんはラジオでKANさんの追悼としてこの曲をかけたとき「イイ曲!ほんとにイイ曲!影響受けてるよね、詞とかそういうところでもね」と語っています。他にもライブのクライマックスを飾る定番曲「適齢期LOVE STORY」、コミカルなカップルの会話で展開する「君はうるさい」、ピアノから歌い方まで模したビリー・ジョエル風の「だいじょうぶI’M ALL RIGHT」、美しいピアノが印象的なバラード「GIRL TO LOVE」など名曲揃い。

『HAPPY TITLE-幸福選手権-』(1989年)

4th. ここでようやく全曲作詞作曲KANとなります。前作『GIRL TO LOVE』が名盤だったにも関わらずさほど売れなかったこともあり、本作はやや試行錯誤が感じられます。全体的に暗く地味な印象のアルバムですが、初期の名バラード「REGRETS」と「東京ライフ」がしっかり収録されています。東京で暮らす青年の憂鬱を描いた「東京ライフ」は、個人的には後のベスト盤『めずらしい人生』に収録されたアコースティック・ピアノver.の方が圧倒的に好きですね。歌い方も後者の方がはるかにいいです。

『野球選手が夢だった。』(1990年)

5th.  「愛は勝つ」のヒットによりオリコン2位を記録した代表的アルバム。オリジナルの入口としても最適なアルバムではないでしょうか。制作過程では色々あったようで、最初のアレンジャーがデモテープと全く違うリズムパターンにしたことにKANさんは激怒。大揉めの結果、アレンジャーを小林信吾さんに交代したそうです。(結果、小林さんはこの後『KREMLINMAN』までほとんどの編曲を手がけるようになります) このアルバムは全曲好きですね。大名盤だと思います。まず大ヒットにして代表曲「愛は勝つ」。これは明らかにビリー・ジョエルの「Uptown Girl」を基にしてますよね。高校の後輩であるスピッツの草野マサムネさんは「最初から最後まで全部がサビでできている、なかなか成立できない構造。いつかああいう曲を自分でも作りたい」と絶賛したそうで、リスペクトを込めて自らの「正夢」という曲の詞に「愛は必ず最後に勝つだろう」という引用を入れています。先行シングルでフィル・コリンズ「Susudio」を彷彿とさせる「健全 安全 好青年」は、KANさんのイメージを決定づけたといっていいコミカルな曲。このあたりからおふざけ曲というか、思わず笑ってしまうような曲を必ずアルバムに入れてくるようになります。遠距離恋愛を歌う「恋する二人の834km」、チェッカーズを意識していると思われる「ぼくたちのEaster」、ビリー・ジョエル「Scenes from an Italian Restaurant」を基にした「1989(A Ballde of Bobby & Olivia)」、極上のラブバラード「君が好き胸が痛い」など息つく暇もない名曲揃いですが、個人的には「けやき通りが色づく頃」が最も好きです。メロディも素晴らしいですが、「君」「彼」「あいつ」「ぼく」等が絡み合う独特の詞は、聴く人によって解釈が変わるように書かれています。このアルバム一枚を聴いただけでも、「愛は勝つ」に匹敵する、あるいはそれ以上に素晴らしい曲があることが分かるのではないでしょうか。

『ゆっくり風呂につかりたい』(1991年)

6th.  前作と本作は個人的に青春ど真ん中の頃に聴いているので、色々と思い出深いものがあります。「愛は勝つ」のヒットで多忙となったKANさんの心情が表れているかのようなアルバムタイトル。これもオリコン2位を記録。アコギ弾き語りの「発明王」で幕を開けます。このアルバムは容姿コンプレックスを歌う「決まりだもの」、傑作のオチがついている「ぼくの彼女はおりこうさん」、種ともこさんとのコミカルなデュエット「信じられない人」といった面白ソングも光っていますが、同時にスティ―ヴィー・ワンダー「Overjoyed」のアレンジを取り入れた「プロポーズ」や、献身的な愛を描いた「永遠」といった最高傑作のバラードも収録されています。恋の曲が好きな人にはこの二曲ぜひ聴いてほしいですね。そしてこれまた大好きな「ときどき雲と話をしよう」。先日KANさんの訃報がニュースで流れた日の夜、僕は友人と2人でベスト盤『めずらしい人生』を聴きながら追悼していたのですが、「ときどき雲と話をしよう」がかかったとき気づいたら2人で声を出して歌ってたんですよね。自然と歌わされてしまう。何かそういう力をもった楽曲という感じがします。


『めずらしい人生』(1992年)

1987年から1992年までの初期ベスト盤。オリジナルアルバム未収録の「めずらしい人生」「恋する気持ち」「こっぱみじかい恋」と「東京ライフ」の別バージョンも収録されています。このベストのために書き下ろされた自叙伝的な「めずらしい人生」は聴きどころですね。初期の名曲が詰まっているので、入口としても最適です。僕はこの時期に初めてライブを観に行きました。

『TOKYOMAN』(1993年)

7th. これも僕の学生生活を彩ってくれた一枚。シングル「死ぬまで君を離さない」「丸いお尻がゆるせない」「まゆみ」もスマッシュヒットしていて、テレビなどでもよく流れていましたね。ビリー・ジョエルの「The Longest Time」を基にしたと思われる「KANのChristmas Song」もCMで起用されていました。表題曲「TOKYOMAN」も完全にビリー・ジョエルですね。「まゆみ」はビートルズを彷彿とさせる曲で、実在の女性をモデルにしているようです。「MOON」は憧れのASKAさんを意識して作ったという優しいバラード。「孔雀」はバブル期のディスコブームを皮肉ったようなダンスナンバーで、この時期としてはかなりの異色作です。このアルバムで僕が一番好きなのは「Day By Day」ですね。このアルバムもオリコン3位の大ヒット。僕はこの時期にもライブに行きました。

『弱い男の固い意志』(1993年)

8th.  前作までは「愛は勝つ」の余韻の中でまたヒット曲を・・・というプレッシャーがあったように感じますが、このアルバムは少し肩の力が抜けて落ち着いた雰囲気になっている気がします。先行シングルは「いつもまじめに君のこと」。まず僕は冒頭の「ラジコン」が大好きですね。非常に切なくて短い曲ですが、歌詞とラストのピアノの響きが痺れます。もう一曲これまた大好きな「秋、多摩川にて」。これはビリー・ジョエルの「Summer,Highland Falls」(夏、ハイランドフォールズにて)に感化されて作ったという16分音符を基調としたアルペジオの美しい曲。これは個人的にKANさんの曲でベスト3に入りますね。ラストの「朝日橋」も美しい小曲。他にジャジーな「STARS」、スティーヴィー・ワンダー風の「焼肉でもいきましょうよ」、SMAPに提供するつもりで作ったという「明るいだけのLOVE SONG」などもありますが、このアルバムの最大の問題作(?)は、なんといっても「甘海老」でしょう。曲調から歌い方まであまりもマイケル・ジャクソンすぎて笑ってしまいます。

『東雲』(1994年)

9th.  江東区東雲町のスタジオでレコーディングしたことからつけられたタイトル。こうなると毎回問題作が楽しみになってくるんですが、今回笑ってしまうのは「牛乳飲んでギュー」ですね。自虐的な歌詞が可笑しいのですが、曲自体はめちゃくちゃカッコいいジャジーなブルースで、そのギャップにやられてしまうんですよね。このアルバムだと僕は、ビートルズ風の小曲「東京に来い」、アダルトなムードの「Girlfriend」、愛される男の側から歌うという珍しいテーマの壮大なバラード「すべての悲しみにさよならするために」が好きです。「結婚しない二人」「悲しみの役割」など、全体的に大人の雰囲気の曲が多いアルバムでもあります。ラストの「星屑の帰り道」は「クリスマスの約束2019」で、小田和正さんの選曲により共演が実現した曲です。

『MAN』(1996年)

10th.  記念すべきオリジナル10枚目。初の海外レコーディング作品。このアルバムには僕がKANさんの全楽曲の中で最も好きな曲が収録されています。それは「Mr. Moonlight」。外国人のコーラスが印象的なソウル・バラード。KANさんは様々な恋の喜びや悲しみを歌にしていますが、これは究極の孤独が歌われているように感じます。メロディ・サウンド・歌詞・歌い方、どこから切っても素晴らしい名曲。その一曲前の「Autumn Song」は「秋、多摩川にて」の系統(KANさん曰く<多摩川サウンド>と呼んでいるそう)のピアノの美しい曲。最後の「指輪」もいい。この三曲がラストに並んでいるので、個人的にはそこが聴きどころ。一曲目の「涙の夕焼け」と「今度君に会ったら」(KANさんを敬愛するというaikoさんが番組内でカバーしたそう)もいいですね。また表題曲「MAN」はKANさんの自信作。桜井和寿さんはこの曲の影響を受けて「終わりなき旅」を作ったそうです。


『The Best Singles FIRST DECADE』(1997年)
 
10周年記念のシングル集。現在は廃盤になっています。「テレビの中に」から「Songwriter」までのシングルより厳選。シングルver.なので、アルバムver.とやや違う曲が2曲あります。まず「言えずのI LOVE YOU」はアルバムではストリングスがシンセサイザーですが、こちらは生演奏。また「丸いお尻がゆるせない」は、アルバムver.はアウトロがカットアウトですが、こちらはフェードアウトですね。


『TIGERSONGWRITER』(1998年)

11th.  シンガーソングライターであることと寅年であることをかけたタイトル。いいタイトルですよね。一曲目はまさにシンガーソングライターである自分のことを歌った「Songwriter」。これまた<多摩川サウンド>のカッコいい曲。自らを「ソングライター」と歌うのは、ビリージョエルが自らを「Piano Man」「The Entertainer」と歌っていたことに影響されているのかもしれません。僕はこの曲と、美しいバラード「月海」「君を待つ」が特に好きです。「長ぐつ」もいい曲ですね。「SAIGON」はビリー・ジョエルの「Goodnight Saigon」とマイケル・ジャクソンの「Heal The World」を融合したような曲。ポリスの「Roxanne」をもじった「Oxanne-愛しのオクサーヌ」のコーラスはキヌガサマサトという名義になっていますが、正体は桜井和寿さんですね。聴けばすぐに分かると思います。

『KREMLINMAN』(1999年)

12th. これまでよりもややロック色が強くなったアルバム。制作前にロシアを訪れたことも影響しているようです。(アルバムタイトルや「紅のうた」など) このアルバムではなんといっても極上のバラード「50年後も」が素晴らしい。おそらくこの頃結婚した奥さん(バイオリニストの早稲田桜子さん)に捧げた曲だと思われます。「Solitude」も美しいですよね。シングル曲「Happy Time Happy Song」はポール・マッカートニー「Pipes Of Peace」を彷彿とさせる王道のポップス。同じくポール風の「英語でゴメン」は歌詞が楽しいラブソング。「WHITE LINE~指定場所一時不停止~」はボン・ジョヴィを意識したようなロック曲。そしてなんと言っても面白いのは「車は走る」。これは完全に槇原敬之リスペクト。曲調からサウンドから歌詞から歌い方までそっくり。あまりの模倣ぶりに笑ってしまいますが、「才能に嫉妬している」とまで言っていた槇原さんの曲を研究しつくしているのがよく分かります。当の槇原敬之さんも聴いたとき爆笑したそうです。マッキーのファンならずとも一聴の価値あり。


『Gleam & Squeeze』(2001年)

13th.  90年代はコンスタントにアルバムを発表してきましたが、このあたりからリリース間隔が空く傾向になりますね。前作まではずっと小林信吾さんとの共同編曲でしたが、本作はKANさんの単独編曲となっています。アルバムは初のラップ曲「東京熱帯SQUEEZE」で幕を開けます。スターダスト・レビューの根本要さんが参加した曲。(以降この二人はかなり交流を深めていたようです)おなじみビリー・ジョエル風の「Superfaker」、ビートルズ風の「CLOSE TO ME」、ポール・マッカートニー風の「Tiny Song」、<多摩川サウンド>の「小羊」なども。僕はこのアルバムだと「カラス」と「情緒」が好きです。

『遥かなるまわり道の向こうで』(2006年)

14th. 前作発表後2002年にKANさんはクラシック・ピアノを基礎から学び直すためフランスの音楽院に入学しています。そして2004年に帰国後制作したのが本作。再び小林信吾さんが4曲で編曲に携わっています。ここにきて屈指の名曲「世界でいちばん好きなひと」が生まれています。この人はどれだけ名曲を作り続けられるんだと驚愕してしまいますね。<遠くで起きてる戦争は いつ終わるかもわからない せめてぼくらはずっと互いを 許しあい生きよう>という詞は胸に刺さります。先行シングルの「カレーライス」もいい曲。「キリギリス」はクラシックを学び直したことが反映された曲。そして笑ってしまうのは「エンドレス」。これは浜田省吾リスペクトというか、出だしからほとんどモノマネに近い。しかも徹底的にこだわるために浜省さんのツアーメンバーまで集めているという。続く「おしえておくれ」は完全に曲調も歌い方も岡村靖幸さん。そんな風に笑わせておきながら「アイ・ラブ・ユー」でカッコよく締めるところが憎いですね。

『IDEAS the very best of KAN』(2008年)
 
デビュー20周年記念のベスト盤。書下ろしの新曲「IDEA」も収録されています。楽曲の制作過程を卵の孵化になぞらえた歌詞がいいですね。また新録音が二曲あって、「プロポーズ」はジャズ風のアレンジに、「50年後も」はピアノ弾き語りで録りなおされています。ただこのベストはKANさんの自選なので、ファンに人気の曲が集められているというよりも、KANさん自身の気に入ってる曲がチョイスされている感じがしますね。初期ベスト『めずらしい人生』収録曲の多くは外されています。

『LIVE 弾き語りばったり #7ウルトラタブン~全会場から全曲収録』(2008年)
 
弾き語りツアーを収録した初のライブ盤。ピアノの似合うバラード曲がチョイスされています。二曲目の「何の変哲もない LOVE SONG」は「Mr. Moonlight」と並んで僕が最も好きな曲なんですが、元々BANK BANDに提供された曲なので、KANさんのオリジナルアルバムには収録されていないんですよね。BANK BANDの方は桜井和寿さんが歌い、ややレゲエ風のバンドサウンドになっているのですが、個人的にはKANさんのピアノ弾き語りver.の方がはるかに好きですね。(このアルバムでしか聴くことができません)KANさんの後期のラブバラードは、どこまでシンプルな美を追究できるかということに挑んでいるようにも感じられますが、この曲はそのひとつの昇華だと思います。他にビリー・ジョエル「ALLENTOWN」、とミスチルの「抱きしめたい」のカバーも収録。

『カンチガイもハナハダしい私の人生』(2010年)
 
15th.  特筆すべきはまず1曲目、一聴してPerfumeを想起させる「REGIKOSTAR~レジコスタ―の刺激~」。中田ヤスタカ・リスペクトですね。そして最後の「予定通りに偶然に」では、KANさんが尊敬してやまないASKAさんとついに共作・共演が実現しています。共作とは言ってもこの曲はかなりASKAさん節が強くでていますね。また先行シングルの「よければ一緒に」は(Full Size)として、8分越えのバージョンで収録されています。単調な繰り返しの曲なのですが、8分聴いてもまったく飽きません。先日KANさんの訃報を伝えるニュース番組で三谷幸喜さんが好きな曲としてこれを挙げていましたね。

『Songs Out of Bounds』(2010年)
 
オリジナルアルバム未収録曲集。カップリング曲やベスト盤のみに収録された曲を集めています。シングルA面でありながらどのアルバムにも入っていなかった幻の曲「Over You」も収録。KANさんの曲をコンプリートするためには必須の一枚ですね。しかし、当時もみんなツッコんでたけど、「愛は勝つ」のカップリングが「それでもふられてしまう男」って、絶対狙ってますよね。

『6×9=53』(2016年)
 
16th. 6年のブランクを経てのオリジナル。タイトルは「ロック」と当時の年齢「53歳」からとったそう。レコーディングには根本要さん・佐藤竹善さん・塩谷哲さん・馬場俊英さん・TRICERAOPSなどが参加してます。また「安息」の作詞は桜井和寿さん。ミスチルっぽい歌詞ですが、僕はこのアルバムだとこの曲が一番好きですね。他にポール・サイモン風「ポカポカな日曜日がいちばん寂しい」、ドナルド・フェイゲン風「どんくさいほどコンサバ」、中田ヤスタカ・リスペクトでも今度はきゃりーぱみゅぱみゅ風といった感じの「ブログ! ブログ! ブログ!」、桜の視点から花見文化を皮肉った「桜ナイトフィーバー」とこれまた聴きどころ満載のアルバムです。付属DVDはレコーディング・ドキュメンタリー。「人前に出るときはレコーディングでさえも、ジャケット・ネクタイを着用してる」という噂は本当だったんだなと思いました。また、「普段はジョークしか言わない」と評判のKANさんが真剣にレコーディングに取り組む姿を観ることができる貴重映像でもあります。


『弾き語りばったり #19今ここでエンジンさえ掛かれば』(2016年)
 
弾き語りツアーのライブ盤2作目。前作に比べると盛り上がるような曲も入れていて、お客さんの手拍子があったり、一緒に歌ったりもしていますね。ビリー・ジョエル「Laura」、秦基博「アイ」のカバーも披露しています。

『la RiNASCENTE』(2017年)
 
自ら弦楽四重奏のアレンジをほどこしたセルフカバー集。読み方は「ラ・リナシェンテ」。ジャケットは明らかにドナルド・フェイゲン「The Nightfly」のパロディですね。一曲目のインスト「Menuett fur Frau Triendle」(なぜかトリンドル玲奈さんに捧げられたらしい)のみ新曲であとは既発表曲+ビートルズ「Here,There and Everywhere」のカバー。弦楽のアレンジで聴くのも味わい深いですね。個人的には大好きな「月海」に改めて痺れます。


『la RiSCOPERTA』(2018年)
 
弦楽四重奏セルフカバー第二弾。読み方は「ラ・リスコペルタ」。一曲目のインスト「I’Addestramento dell’Allangiamento」のみ新曲であとは既発表曲+ビートルズ「Back in the U.S.S.R」とビリー・ジョエル「Lullaby(Goodnight My Angel )」のカバーです。

『23歳』(2020年)
 
17th.  タイトルは留年して大学5年生になった頃を歌った「23歳」より。このアルバムで特筆すべきはやはり「キセキ」でしょう。これは作詞作曲「KAN+」となっています。実は、秦基博さんの「カサナル」という曲と同時再生すると一つの曲になるんですね。この2曲はトータルタイムやコード進行やリズムセクションが全く同じで、2曲が合わさったときに完成するという仕掛けになっている。その完成形も「カサナルキセキ」(KAN+秦基博)としてリリースされていてサブスクでも聴くことできますが、これは感動しますね。他に初期ビートルズ風「る~る~る~」、またしても中田ヤスタカ風テクノポップ「メモトキレナガール」なども。そしてラストを飾る「エキストラ」。僕はこの曲は何度聴いても涙がこぼれます。なんてせつない曲だろう。シンプルなラブソングを突き詰めてきたKANさんの究極形のような楽曲です。そして、このアルバムが最後の作品となってしまいました。
 
  
KANさんの葬儀では、祭壇に夏目漱石の肖像を模した遺影が飾られ、柩の脇には振り袖姿の女装の写真もあったそう。さらに参列者にはカラフルなパッケージのポップコーン(おそらくPOPの意味を込めて)が配られたそうですが、それはすべてKANさん自身が演出したものだったそうです。最後の最後まで人を楽しませることを貫いたエンターテイナーだったんだなと感動しました。そういうスピリットは楽曲にも宿っているのか、亡くなった後に改めてすべての楽曲を聴き返してみても、あまり悲しいという気持ちになりませんでした。まだまだKANさんに楽しませてもらってるという感覚の方が強かったですね。作品を聴き続けていく限り、僕の中でKANさん生き続けていくんだという気がしています。


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