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流した涙の数だけ、君はきっと強くなる。

うちの地域では小6になると野球の合同選抜チームが結成される。

発表されたメンバーに、息子の名前はなかった。

発表が終わり、家に着くまで息子はいつもと変わらず友達と笑っていた。

でも家に着いた瞬間、帽子の下からポロポロと涙が落ちた。

悔しい、と。

選ばれなかった悔しさ。選ばれた選手とそうでない選手がバラバラになってしまう寂しさ。いろんな思いが彼の心に刺さり、堰を切ったように泣いていた。

その思いが砂だらけのユニフォームにポタポタ落ちる。帽子の下に僅かにみえる、砂埃にまみれた頬の上を涙が次々に伝う。

帽子を被り、俯いたまま息子が言った。

「選ばれなかった子も、誰かが怪我したら選ばれるかもって言うんだ。選ばれたいけど、誰かが怪我するのなんて、もっと嫌だ」

そう言うと、顔を帽子で隠したままバスルームへ入っていった。

勝負の世界では誰かの怪我で、チャンスを掴むなんてことはざらにある。でも彼はそういう時、他人の怪我に胸を痛めるタイプ。

息子の持つ優しさ。自分にも優しいけど他人にも優しいのは彼の長所だ。その優しさをこんな瞬間にまで見せられて、こちらが苦しくなる。

そんな彼にかける言葉なんてない。息子が自分で立ち上がるまで待つしかない。時間はかかっても、それしかないのだ。

「選ばれなかったけど、悔しいから、頑張って練習して上手くなる」

シャワーを浴び終え、出てきた息子がそう言った。

いろんなものを洗い流したのか、スッキリした顔で出てきた息子の目には泣いた名残が残っていたけど、少しだけ笑顔が戻っていた。

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あの悔しかった日から、半年が経った。

悔しさをバネに、毎日素振りをし、グローブを磨き、バッティングセンターに通った。

大会でヒットを打ち、前なら取れなかった打球にも反応できるようになった。

まだまだ課題はあって、本人は満足していないけど。

悔しさは力になることを息子が証明してくれた。

流した涙の数だけ、君はきっと強くなる。

負けるな。君はまだ12歳。人生はこれからだ。

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