1日6本しか電車が来ない生活 - 宗谷線・問寒別駅
都会であれば誰もが最寄り駅を持ち、駅に行けばすぐに電車は来て、あとは適当に飛び乗って移動するだけ。至極当たり前のことだ。
しかしそれが、6時間に1本しか電車が来ない田舎だったら話は変わる。
筆者は年越しを毎年、北海道のかなり北の方・問寒別(といかんべつ)というところで過ごす(厚意で泊めて頂いている宿は去年の記事で紹介した"ウタラといかん")。最寄りの問寒別(といかんべつ)駅は、各方面に1日3本ずつ、計6本という全国トップレベルの過疎ダイヤである。
筆者は車を持っていないので、他の住民の車に同乗する以外は基本電車での移動となる。
宿から駅は徒歩5-6分と近いのだが、いかんせんこの少ない列車で、なんとか生活をやりくりしなければならない。
過疎ダイヤ生活あるある
以下、これだけ本数が少ないとどんな生活になるかをまとめていく。
1.時刻表丸暗記
まずは都会では絶対あり得ないこれ。数が著しく少ないのと、ダイヤに伴って生活リズムが組まれるので、どこに行くならどの電車、と発想が直結するため、すべての電車の時刻を覚えてしまった。
(ちなみに豪雪やエゾジカとの衝突で、数時間遅れはデフォである。20分以内の遅延はもはや定刻。)
2.予定が組みやすい
意外にもメリットで、都会にありがちな「本数があるゆえ何時に出てもいい」でズルズル出発時間が遅れることが許されないため、出発時間がきっちり決まったハリのあるスケジュールになる。
買い物に行くなら、最寄りの市街地での滞在時間は何がなんでも1時間半とおのずと決まる。一日一回きりのチャンスなので、買い物リストも綿密なものになる。
3.出先からの終電は遅くて18時
最寄りの都会は2時間弱かけて行く稚内市だが、そこからの最終普通電車は18:10。反対側の名寄市に至っては14:59、おやつの時間が終電だ。いずれも乗り遅れたら当然帰宅難民である。
4.降りる時の緊張がすごい
通常、電車を降りるときはドアが開く間際に席を立つが、乗り過ごした時のリスクが並じゃないため、前の駅から降りる準備を始める。
乗り過ごしたら次の駅まで20分、戻る電車は翌日である。日によっては家に誰もおらず、送迎も頼めないため、見知らぬ暗闇と極寒の町でブルブル震えながら過ごす羽目になる。
新幹線を乗り過ごすよりも痛い目に遭うかもしれない。
5.車の取り合い
現在宿には2台車があり、うち一台は仕事用にほぼフル稼働しているため、もう一台(5人乗り)は、いろんな用途に駆り出される運命にある。
ある一日では、これらの用事をすべて一つの車で賄わなければならないことがあった。
隣町(15km先)に夕食の買い出しに行く
その隣町(50km先)に人を迎えに行く
さらに離れた市街地(100km先)のホームセンターで資材を買い、先に列車で向かい終電の無い3人を拾って問寒別に帰る
この時はまず1.を済ませてから一旦家に戻り、もう一度出発して3→2の順番でミッションを完了させた。
人数や荷物量、所要時間、消費ガソリンへの配慮と、運転手の並々ならぬスタミナが要求される生活なのである。
ちなみに走行距離は計230km、東京駅起点なら群馬の高崎まで往復するのと同じ距離である。さすがはでっかいどう、距離感がバグっていることも忘れてはならない。
実際に生活してみて
今回滞在したのは18日間。"宿泊"というには長すぎるくらいの期間、実質この駅を最寄り駅として"生活"した筆者の体験をまとめた。
この駅は特定日調査で乗降客数が1人以下の、廃止間近の閑散駅なので、かなり貴重な体験をした気がする。
車がないとかなり生活は困難であると思った。が、たまにリフレッシュで長期滞在するなら限られた便だけで暮らす楽しみはある。
上では触れなかったが、この生活の一番の特徴はやはり非日常。筆者は普段東京23区内に住んでいるが、いつも聞いている”次は新宿...”みたいな感覚で、鉄道旅の予定組みの時しか目にしない秘境駅の名前が淡々と車内アナウンスされる。普段とは似ても似つかない場所を生活圏にしているという実感が湧いてとてもワクワクする。
総じての感想は、普段の生活でこれをするのは流石に不便。やってられない。でも、過密ダイヤに慣れた都会人からすれば、たまにはこういう過疎ダイヤに合わせて計画的に動く生活をすることで「足るを知る」体験をするのも、意外と新鮮でいいのかもしれない。