見出し画像

電子教科書を活用したオンライン授業の展開:実践例② 大規模講義の場合

2020年8月30日に実施した碩学舎デジタル教育研究会「チュートリアル:電子教科書を活用したオンライン授業の展開」で西川英彦先生(法政大学)の発表の文字起こしです。発表の動画はこのリンクからご覧頂けます。

1.  生協電子教科書の使い方

 私は、受講生の多い講義での生協の電子教科書の利用について話します。生協の電子教科書を使う場合、まずシラバスで告知する必要があります。大事なのは、生協の仕組みの場合はログデータを学生からもらうので、個人ログデータを使うということや、双方向の授業をきちんと実施することをシラバスにも書くことが必要です。また、テキストに関しても、講義や事前課題の評価は電子教科書を中心に進めるということをちゃんと宣言しておきます。そうでないと、紙版の教科書を買った人から、「紙版ではどうしたらいいですか」と質問が来てしまいます。
 次に、学生は大学生協の店舗で電子教科書のクーポンを入手します。今年は法政大学の生協サイトでの購入でした。クーポンの郵送かPDF送付かというのは各大学生協で異なると思うので、事前にPDFにしてほしい旨を生協に伝えておくことが大事だと思います。他の書籍と一緒に送られるため、間違えて廃棄する学生もいたので、PDFをお勧めします。
 学生は、生協の電子教科書のサイトからアプリ(ビューアー)をダウンロードします。パソコンもスマホもタブレットも全てアプリになります。教員も同様です。学生は会員登録をして、シリアルナンバーを入力します。QRコード読み取りでも可能です。教員が履修学生の学籍番号を生協に渡すと、講義グループに学生が登録されます。
 教員は、生協の電子教科書のサイトの「会員メニュー」をクリックすると、学生のグループ登録の確認や共有の設定、ログデータを見ることができます。まず、「グループ管理」画面では、学生が講義グループに登録できているかどうかの確認や、生協に依頼しなくても、教員自身が学生を講義グループに登録することもできます。
 「メモ共有設定」画面では、コメントやメモの共有設定を行います。私が作成したコメントは、参加学生が見えるようにしていて、学生同士は見えないような設定にしています。これは、この講義の受講生が多くて、データが増えるためです。ちなみに、ゼミではデータが多くないので、学生間も見えるようにしています。
 「ログ生成設定」画面では、期間を指定してログデータを検索することができ、学生がどれくらい読んだか、どれくらいマーカーをつけたか、どんなコメントをしたか、どんなメモ(付箋)をつけたかという履歴がCSVで確認できるようになっています。このあたりが丸善雄松堂の仕組みと異なる点だと思います。

画像1

 生協の電子教科書の機能ですが、マーカーやしおり、コメント、検索など一般的な電子書籍の機能は使えます。それから、マーカーやコメント、付箋の共有を選択できます。学生は、教員や学生と共有するのか(前提として、教員の講義全体での設定に依存しますが)、共有せずに自分だけが見えるようにするのかということが、都度設定できます。
 では、電子教科書を実際に私のiPadの画面で見ていきます。クリックするとアプリが開いて、登録している電子教科書の表紙が見えるようになっています。次に、これが実際の教科書の画面で、文章の波線の下にある2とか3という数字は、この文章に何人がコメントしたかを表しています。私が重要なキーワードにマーカーを付けてその箇所を共有したり、文章中に出てくる企業(トップナノックス)のサイトの動画を見てほしいと思ったら、コメントを付けてリンクを貼っておき、学生に共有できたりします。なお、コメントをする際に、「共有する」のチェックを外しておくと、学生には共有されません。それから、付箋という機能があり、重要な箇所に「こういう理由で、ここが大事」などと読書のガイドを付けることができます。こういった準備を事前にしておきます。参加学生は、教科書で共有されているので、先ほどのトップナノックスの画面を開いてクリックして、動画を見ることができます。

画像2

2. 講義の概要

 講義の履修登録者は403名です。参加者数は、録画したものをYouTubeにアップしていたものを観た学生もいるので重複ありですが、資料のように推移しました。
 それから書籍購入率に関しては、2018年度に事前課題なしで、PowerPointを使って講義していたときは、406名の履修登録者で14.8%(60名)しか買っていませんでした。
  2019年度は、電子教科書で講義を進めることを事前にシラバスで告知し、事前課題で加点があることを説明した上で、電子教科書を画面に映して、記述されている内容を解説し、学生の事前課題がある場合は紹介しつつ、講義を進めました。事前課題は、学生が面白いと思ったキーワードをいくつでも自由に選択し、その理由を電子教科書にコメントするというもので、それらの中から教員により指名され、講義中に発言した学生には加点するというものでした。なお、学生間でのコメントも共有していました。そうすると、437名の履修登録者で73.2%の購入になりました。
 今年は、全員に課すという事前課題に変更し、電子教科書を画面共有して講義しました。また、講義は、電子教科書を全員が事前に読んできているという前提で、学生のコメントの紹介や、そこからの発展的な話の説明のみに変更しました。なお、事前課題は後ほど説明しますが、前年度と内容を少し変えました。すると403名の履修登録者で84.9%と非常に高い購入率になりました。履修登録者が全て参加する訳ではないので、実際に参加している学生は、ほぼ全員が購入していることになるかと思います。また、キーワードを選ぶために、ほぼ全員が事前に読んできています。

画像3

 では、今年度の講義の進め方を説明します。まず事前学習です。学生が事前に教科書を読み、当該章で最も重要だと思うキーワードを一つ選択し、その理由と関連事例をコメントします。こうした事前学習には25点を配点しています。一方、教員は、教科書を補足する動画や資料へのリンクのコメントを付けておきます。
 次に、講義中です。講義では深掘りを目指し、ZoomはPCで操作して、iPadの電子教科書を画面共有します。事前に選択しておいた教員が良いと思うコメントをした学生に呼びかけ、当該学生から発言してもらい、議論を深堀りしました。補足の動画や資料を紹介し、PowerPointを1~2枚使うことはありましたが、ほとんど使いませんでした。それから、講義では、3~4問のクイズをしました。例えば、講義内容と関連する動画をYouTubeで見せて、このCMのターゲットやインサイトは何かという問いを出しました。そもそも正解がないというクイズが多いのですが、チャットで回答をアップしてもらい、それを発言してもらったり紹介したりして、議論を深めました。なお、発言には1点加点しています。
 最後に事後学習で、25点の配点です。まず、学生には、授業支援システム上にアンケートとして作成したコミュニケーションシートに、自分が発言した場合はその発言内容や、実際に参加したかどうかを確認するためにクイズの回答を書いてもらいます。それから、授業中での気付きや疑問点を800字以内で書いてもらいました。翌週の授業の前半では、書いてもらったコミュニケーションシートでの学生の気付きや疑問点を紹介しつつ、先週の振り返りをしました。学生の理解不足を補足したり、新たな議論に発展したりしました。
 最終レポートは、調査+コンセプト+プロトタイプをもとにした企画書です。50点の配点です。マーケティングリサーチなので、実際に調査するのはもちろんですが、その結果を分析して企画書にまで、まとめてもらいました。2週にわたって優秀レポートを報告して、早期レポート提出者には10点加点という工夫をしました。これにより、全体のレポートの水準が大きく上がりました。

画像4


 では、実際にどんなふうにやっているかを、実際の事例を、映像をもとに紹介します。まず、事前課題の学生のコメントからです。電子教科書の当該コメントをZoomの画面に映して、コメントした学生を呼びかけることから始まります。

(西川)「佐々木さん、いますか。『企画書とプレゼン資料は違う』の説明をぜひ。」
(佐々木)「プレゼンでは口頭での説明があるので、プレゼン資料にはあまり言葉を詰め過ぎなくても口頭で言うことができますが、企画書は企画書しか見てもらうことができないので、詳細まで書かないといけないという面があります。」
(西川)「そうですね。大事なことです。本書の14章と15章の違いですね。14章は企画書で、15章はプレゼンですが、その点が違います。
 つまり、資料だけが独り歩きしても分かるのが企画書です。皆さんの最終レポートも、評価する必要があるので、独り歩きしても分かる内容にしてくださいね。私はプレゼンを聞いているわけではないので、1行だけ書かれても分からないのです。やったことが分かるようにきちんと書いてください。その代わり、プレゼンする際は、全部の内容を話さなくて結構ですから。」
 次に、学生に事後学習でコミュニケーションシートに書いてもらった内容をもとにした、振り返りのときの映像です。授業支援システムからダウンロードしたエクセルをZoomの画面に映して、私が読み上げることから始まります。

(西川)「富岡凛さんもブレストの話を書いてくれているのですけど、『IDEOのブレインストーミングについての記事に「yes and」という話法が載っていて、興味深いと感じました。議論は収束する手法であり、ブレストは発散を目的とした手法であり、発散を加速させるマジックワードとしてyes and話法があると書いてあります。何を言われてもまずはyesと肯定して、「それに加えて」というふうに他者のアイデアを広げるブレストの場では、すぐに否定してはいけないので、yes and話法というのはコツを的確に指しているワードだと思いました』。富岡さん、いますか。」
(富岡)「ブレストというのは、いろいろな人がさまざまな意見を出していく場ではないですか。そのときすぐに『えっ、そうかな』と言ってすぐに否定されると意見を出しにくい雰囲気になっていくと思うので、やはり最初に『そうですね』という肯定があるだけで雰囲気が変わると思って、すごく面白いし、的確な言葉だと思いました。」
(西川)「しかも笑顔で言わないといけないのだろうね、きっと。」
(富岡)「そうですね。」

3. 講義の効果

 学生の感想を紹介します。まず、「教室よりもオンライン授業の方が発言しやすい」という感想です。動画で見たように、その場で8割ぐらいは発言してくれています。私が「○○さん」と言ったらすぐに反応してくれます。チャットでの質問も非常に多かったので、オンライン授業は発言しやすいと感じました。
 それから、「教科書で考えること、授業内、授業後で考えることなど、他の授業より圧倒的に能動的に考える時間が長かったように思います」という感想です。
 次に、「自分、事前学習をした他の仲間、先生という三つの視点から講義を学ぶことができてよかった」、最終レポートのことだと思いますが、「実践の場があったことも良かった」という感想です。
 最後の方は、「とにかく刺激を受けることが多い内容でした。教科書の内容を事前に読んでから授業に入ることで理解が増したと思います。本当は事前課題が出ていなくても自発的に読むべきなのですが、事前課題が出ていなければ絶対に読んでいなかったので、その意味でも事前課題にしてくれてよかったと感謝しています」という感想です。
 私の方でも事前課題・事後課題でのアクティブラーニングによる深い理解と気付きがあったと思っています。事例を学生に挙げてもらったのですが、私自身が新たに知ったケースが非常に多くて、これは次の教科書や研究などにも使えると思いました。それから、電子教科書のコメント数や読んだページの多い学生が成績も高いという因果関係が出ているので、やはり読むことは成績に関係していると改めて思いました。

4. 課題と今後

 今後の課題としては、受講数が多いためにダウンロードや同期できないトラブルが発生したことです。こうした課題には、都度、生協の方も改善を図っていただいています。
 事前課題が提出できたかどうかを本人が確認したいという要望も結構ありました。昨年はなかったのですが、今年は、加点ではなく通常の成績評価にしたためかと思います。そのため、コミュニケーションシートに事前課題を書き込むという対応にしました。ただ、これは学生も教員も双方の負荷につながりました。
 事前課題のコメントも多いと読むのが大変です。PCでは学生のコメントは一覧できますが、どのキーワードに入れたのかが特定しにくいためです。スマホやiPadは場所を特定しやすいのですが、全文を読むには一つずつコメントを開かなくてはいけないので、これも大規模講義でコメントが多いと大変です。
 そこで来年に向けてですが、学生にも教員にも深い理解と気付きがある事前課題・事後課題でのアクティブラーニングがお勧めだと思いますが、事前課題への対応案を2つ考えました。
 案1は、事前課題を全員に課す方法です。その場合は、学生の事前課題は授業支援システムのアンケートにアップしてもらう方法が良いのではないかと思います。さらに、事後課題のコミュニケーションシートとセットにした方が、一度に上げられるので学生にも負荷が少ないでしょう。教員は、授業支援システムからダウンロードして、キーワードもソートできて、学籍番号の記入間違いもないので、管理しやすいかと思います。良いと思うコメントについては、教員が学生の名前なども入れて、事前に電子教科書にコメントとしてアップしておけば、学生に共有できるので、こういう方法が一番スムーズだと思います。
 案2は、事前課題を希望者のみにする方法です。加点方式にして、希望者のみが電子教科書にコメントする方法で、昨年実施したパターンです。これもありだと思っています。そうするとコメントが多くないので、学生間のコメントも共有可能だと思います。ただし、電子教科書を買ってはいるのだけれども読んでこないという学生が増えるのではないかと思います。
 事前課題を全員に課すという案1がお勧めなのですが、私の講義規模だと事前課題が毎回350名ぐらいあり、毎回2時間程度読み込むのに時間がかかるので、大変であれば案2からでもいいと思います。ご自身の講義にあった方法で、進めてみてください。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?