見出し画像

電子教科書を活用したオンライン授業の実践例① 大規模講義の場合

2020年8月30日に実施した碩学舎デジタル教育研究会「チュートリアル:電子教科書を活用したオンライン授業の展開」で廣田章光先生(近畿大学)の発表の文字起こしです。発表の動画はこのリンクからご覧頂けます。

1.はじめに

 私は履修者数が比較的多い講義のオンライン実践例についてお話ししたいと思います。後で実際に電子書籍のプラットフォームについて説明しますが、私からは丸善雄松堂のシステムを使った実践例、西川先生からは生協のシステムを使った実践例についてお話しします。
 私は近畿大学で、実は1年半ほど前から生協の仕組みを使って導入を進めていましたが、今年は春から3講義で導入しています。一つ目は「製品戦略論」という講義で、今年は3、4回生298名の履修がありました。これは丸善雄松堂の仕組みです。二つ目の「マーケティング戦略論Ⅰ」は2~4回生198名の履修で、生協の仕組みを使っています。三つ目の「基礎ゼミⅠ」は新入生が対象で、丸善雄松堂の仕組みを使っています。
 今日の報告ではオンライン講義の取り組み方と電子書籍ビューアーの概要、講義の運営、学生のオンライン講義の環境について説明していきたいと思います。

2. オンライン講義を始めるに当たって考えたこと、実践したこと

 多分、今日お集まりの先生方もそうだったと思うのですが、3月になって急に新型コロナウイルスの感染が拡大したことで、大学でオンライン講義を行うという話になり、慌てて準備をしなければならなくなったと思います。多くの先生方は多分、同じようなことを考えたと思うのですが、私と大学の仲間でまず考えたことは、Zoomで一体何ができるのだろうということです。初めてZoomに取り組んだので、Zoomでできることをまず理解しなければということで、私は2、3、4月とゼミで週に3~4回ぐらい、ゼミ生を使ってZoomとオンラインのホワイトボードを使ったさまざまな実験を行いました。そのときに分かったことは、大人数でも全員の顔を見ることができること(後に、大学の方針によって講義での学生の顔出しが禁止になってしまいましたが)、チャットとアンケートは学生の意見を逐次収集できるツールとして使えるということでした。
 ただ、講義の形は何とかできるけれども、今までの対面講義のやり方をそのままで行うと一方向で単調になってしまうと感じました。そこで、何か講義運営のベースになるものが準備しなければならないなと思いました。対面の講義では、私もPowerPointをベースにした講義を進めていました。しかしPowerPointだとどうしても知識を確認する場所がないので、やはりテキストをベースにした方が良いと判断しました。
 オンライン講義でテキストをベースにするため、少なくともテキストの画面共有はきっちり行うことにしました。これまでも講義で「何ページを開いて」と言うと、学生は隣の人に「何ページだったっけ」と話したりすることがありました。そこで、画面共有をすることで学生は、正しい準備ができているかどうかが確認でき、かつ安心できます。
 ところが、実際やってみると、われわれの大学はオンライン講義では画面をオフにしろという指示が出るのです。これはいろいろなトラブルがあったからそうしているのですが、真っ黒な画面に向かって講義をせざるを得ないのです。これでは学生の顔が全く見えないので、ちょっと困ったということで、チャット機能をもっと使うことにしました。顔が見えないため、一方的に話をしがち。そうなれば学生には退屈な講義になってしまう。そこでチャット機能を使って学生から意見を求めながら講義を進行し、一方向にならないように注意しました。オンラインだからこそ双方向を積極的に取り入れたり、アクティブラーニングを取り入れたりしていく必要があると思いました。
 新しいことを始めるときには他者の経験を共有すること解決できます。そこで、Facebookでページを使って非公開のオンライン教育ラボと言う名称の問題共有ページを、学内の学部の先生ごとに立ち上げました。ここでさまざまな問題や知見を共有する形を作りました。これは非常に効果があって、今でも先生方の問題解決や問題共有の場になっています。

3. ActLearn(丸善雄松堂)を使った講義


 丸善雄松堂のActLearnはビジュアルがうまくできていて、ダウンロードした本が画面上の本棚に並んでおり、それぞれのタイトルをクリックすると、そのテキストに飛ぶことができます。
 さまざまな機能があって、私が主に使った機能はまずマーカー機能です。5色ぐらいの線を引くことができます。それからメモ機能は、枠を作って、そこにキーボード入力などができるようになっています。学生はここにメモを取ることができます。もう一つは検索機能です。一つのキーワードで検索をすることができます。これらを積極的に活用しました。
 私の講義の進め方は、まずテキストを節ごとに読んでいってもらいます。ただ、「読んでおいてよ」と言っても学生もなかなか視点が定まらないので、各節で重要なポイントとなる視点を最初に説明します。それを私はメモとして書いておいて、共有するようにしました。電子書籍はテキストの機能はあたりまえですが、このようにホワイトボードのように注意事項、要点などを教員が書き込むような使い方もできます。
 テキストを読んでもらうために、読み方のルールを作りました。一つは、重要と思うところには緑のマーカー、初めて聞く言葉には赤のマーカーを引いてもらうことにしました。それから、聞いたことはあるけど自分できちんと説明できないと思える言葉、例えばマーケティングはよく聞くけど、自分の言葉で説明できるかというとなかなか説明できない学生が多いです。そういった箇所には青のマーカーを引いてもらいました。
 これは何のために引くかと言えば、マーカーを引いてもらってから、マーカーを引いた単語や箇所をチャットに記入してもらいます。すると、多くの学生が記入してくれ、チャットが活性化します。同じ節を読んでもマーカーを引く箇所は違ってあたりまえ、チャットに記入してもらうとこの違いを共有できるのです。オンライン学習の一番のポイントは、学生はとても孤独なので、このチャットを使うことによって「ざわつき感」を創り出します。他の学生もこんなに分からないところがあるのかということで結構安心するのです。それから、アンケート機能を使って、ある事項が分からない人がどれぐらいいるかを聞いたりしています。
 先ほど細井先生からワークブックの話がありましたが、「製品戦略論」では『1からの商品企画』を使いました。例えば観察調査やインタビュー調査という章があるのですが、それぞれについてワークシートを作って、テキストを確認しながらその場でワークをしてもらってレポートを作っていきます。ワークシートは20枚ぐらいあるのですが、最終講義が終わるとレポートがほぼ完成できて、最後に仕上げをして、それを提出してもらいます。

4. オンライン講義における学生の受講環境


 今回気になったのが、学生の受講環境です。学生もさまざまな環境の下でオンライン講義を受けています。講義環境が必ずしも充実したものであるとは限らない学生も多くいます。そこで調べてみました。
 すると、スマートフォンとノートパソコンの組み合わせ、あるいはどちらかという人がとても多くて、デスクトップパソコンは8%ほど、タブレットが10%ほどです。スマートフォンだけという学生は27人(5.6%)いました。実は、私のゼミ生にも1人、スマートフォンしか持っていないという人がいます。慌ててそのうち買うのですが、買うことができない、あるいは買わないという学生もいます。つまりひたすらスマートフォンだけでオンライン講義を受けている学生もいることも考えておかなければならないと思いました。
 通信環境は無線LANが圧倒的に多いのですが、インターネットにつながらない環境の学生も中にはいます。われわれの大学ではWi-Fiルーターを貸し出しているのですが、途中で離脱してしまう学生もたくさんいるので、動画をどんどん使う環境はなかなか構築しにくいのが現状です。

5. さらなる活用に向けて


 まとめると、オンライン講義こそ一方向で行うのではなく双方向を意識しなければなりません。学生が自宅にいながら手を動かすアクティブラーニングをどんどん組み込んでいかないと、なかなか教育効果は上がってこないでしょう。
 そのため、テキストはやはり大事です。私の大学でも使用しているGoogle Classroomは資料のアップロード、ダウンドーもできる便利なツールです。しかし教員は、資料をGoogle Classroomにアップしたら学生がダウンロードしてくれていると思うのですが、実は思いの外、ダウンロードしてくれていません。必要だったらダウンロードするという感覚です。なぜなら、多くの先生がアップするので、どうなっているのか全然分からないという学生が結構多いのが実情です。そうなったときにやはりベースになるようなテキストはものすごく大事だと思います。講義の順序をナビゲートする仕組みとして、また講義外の時間に自習をする、レポート作成の手がかりとしても活用できます。
 ただし、電子テキストの場合、課題もあります。一つは細井先生も先ほど指摘されていましたが、現状は購入方法が煩雑です。そのため先生も説明し切れず、学生も途中で嫌になって買うのをやめてしまったという話を聞くので、今後改善が必要だと思います。使い方の共有です。
 それから、電子テキストの特性を活かした講義方法を試行錯誤し、それを素早く共有してよりよい方法を素早く見つけていく。こんな場が必要です。今回のデジタル研究会はまさにこの場だと思っています。先生方の工夫をオープンにする場、みんなで共有して知見を高めていく場が必要です。今回、多くの先生方が、日本の教育のデジタル化がこんなに遅れていたのかということに気付いたと思うのです。その点でも碩学舎のデジタル教育研究会は非常に重要な場になると思いますので、こちらもできるだけ継続しながら皆さんと一緒に質を高めていきたいと思います。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?