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電子教科書を活用したオンライン授業の展開:実践例④ 中規模講義の場合

2020年8月30日に実施した碩学舎デジタル教育研究会「チュートリアル:電子教科書を活用したオンライン授業の展開」で瀨良兼司先生(京都橘大学・近畿大学)の発表の文字起こしです。発表の動画はこのリンクからご覧頂けます。

1. 講義の概要


 私は大学生協のシステムを採用しており、基本的には西川先生が実施している講義の進め方を踏襲しています。今回は授業の内容と学生の反応を中心にお伝えできればと考えています。
 私は本年度、京都橘大学の他に近畿大学で非常勤を担当しており、2科目を同じような形で進めているので、その内容を取りまとめてお伝えしたいと考えています。それぞれの科目に特性があるのですが、そのあたりは時間の関係もあるので省きます。
 講義はZoomを用いてリアルタイムで行っていました。京都橘大学では前半8回はTeamsを使っていたのですが、途中からZoomのライセンスが付与されて、それ以降はZoomを使っています。MacBookにiPadを接続し、iPadで電子教科書の教員画面を投影(画面共有)することで、学生にはZoom上で共有された画面を見てもらう形で行っています。
 授業の組み立てとしては、紙と電子版を併用してしまうと電子版の利用期限が生じてしまうことから、今回は電子版のみ(※これにより、学生は卒業後も利用可能)の運用となっています。その場合、どうしても紙との比較になってしまうので、電子版の教科書を、「本屋で買ったり図書館で借りたりして読めるだけでなく、履修者各自の工夫によって自分だけの本になる」ということを冒頭のガイダンスで説明し、できれば教員側と学生間の学び合いの中でテキストを創っていこうということを考えながら進めていました。
 実際、単に一方通行、知識伝達型の授業というよりも、学生のコメントを拾いながら、そこに肉付けし枝葉を付けていくような組み立てで進めていきました。予習を前提とした進め方にしているので、文章にしっかり目を通して参加することが前提となっています。しっかり丁寧に取り組んでいる学生であれば、予習で文章を読んで、講義をしっかり聞いて帰ると思うのですが、予習を行わずに、教室で配られたスライドを見て帰るだけで終えてしまう学生も一定数いるかと思います。今回の場合、予習として電子教科書の本文に目を通したうえで講義に参加しているので、学生の反応を見る限り、文章に目を通して、しっかり理解を深めるために講義に参加する習慣が身に付いたのではないかと思います。
 当該科目だけではなくて関連している科目の紹介も適宜拾いながら、この授業だけでなく他の授業で学んだ内容を共有しながら、皆さんが持っている知見を共有するという進め方をしていました。

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2. 講義の進め方


 具体的な進め方としては、西川先生の方ではコメント機能を活用していましたが、生協のシステムには付箋機能もあるので、私の方では教員側で事前に付箋を用意して、それを電子テキストにぺたぺたと貼っていく形にしています。学生側は講義前に、貼られた付箋と本文を読みながら内容を一通り確認したうえで、講義で扱う章の本文中から用語を一つ選選択し、「関連する具体的事例や自身の体験、他の関連する科目で学んだことや質問など」を、コメント機能を使って共有してもらっています。これが予習であり、予習を成績に含めることにしています。
 講義中は、基本的に教員の端末のみを共有しています。学生は、遠隔授業の場合、手元のスマートフォンで自身の端末を見ながらだったり、パソコンで教員の画面を見ながらだったり、授業中は教員の画面を見ながらだったり、それぞれあったと思います。私の方では、基本的には画面を共有しながら、教員の画面に学生が予習として共有したコメントが出てくるのでそれを拾い上げ、その内容について、学生のマイクをオンにして音声で説明してもらいました。ですので、多くの学生は基本的に聴いているだけなのですが、その中の10名ほどが授業で一度発言して、その内容を説明し、言葉足らずだったところはZoomのチャット機能などを使いながら、他の学生に発言を促してフォローしてもらいました。
 講義が終わった後は、コメントシートを用いて、その講義を踏まえた中で新しい気付きや学びを書いてもらうようにしました。これも、そこまで多くの文字数を書かせると他の科目との兼ね合いで負荷が増えるので、100字以上ということで下限だけ設定しました。
 その他に、あらかじめ教員側で設定している付箋の中に「確認用の付箋」ということで、PowerPoint資料のような形で授業時に配布する内容の説明を、授業終了と同時に共有しました。学生には、それを後で自分の付箋などにメモをすることで復習に役立ててもらう組み立てをしています。
 講義後は、提出されたコメントシートを確認し、内容や質問に対するフィードバック、良く書けているコメントなどを、授業内に紹介するのはなかなか難しかったので、PDFなどでLMS上に配信するという流れにしています。
 成績評価は、予習コメントの共有を40%としました。「授業に参加し、かつ電子教科書をしっかり活用しないと単位取得が難しいかも」ということで、積極的に採用してもらうための仕掛けを作りました。

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 履修者数は京都橘大学164名、近畿大学85名だったのですが、授業が進んでいくと4回生が来なくなるということがあり、最終的な出席者数は京都橘大学134名、近畿大学75名でした。
 その中で予習は、多くの方がしっかり取り組んでいたと思うのですが、書き込みをした人は京都橘大学で9割以上、近畿大学の場合はほぼ100%の実数で参加していただきました。ですので、多くの学生が、授業に対してしっかり予習をして、コメントを書き込んで取り組んでくれていました。

3. 講義の様子


 実際の講義内容を簡単に紹介します。まずは、付箋機能の活用についてです。

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 教員側で4色の付箋を配置しています。「予習」という付箋は、授業前に読んでほしいもの、例えばYouTubeの関連動画リンクや企業サイトのリンク、補足説明などをピンク色で配置しています。そのうえで、いきなり「予習コメントをしろ」といっても、何を書けばよいか分からない学生も多いと思うので、そのアシストになるような形で「質問」という青い付箋を作りました。私から学生に幾つか質問の付箋を貼っておいて、その内容に学生が答えることでも、予習コメントとして認めています。
 黄色の付箋は「確認」で、講義中の説明用です。実際の講義では、これを私が読み上げながらテキストの内容を解説し、学生のコメントを都度拾うことで、学生にも参加してもらう、という流れになっています。この確認用付箋は、講義終了後に、学生に共有し、学生は復習として、この付箋の内容を各自の端末やノートにメモをしてもらうよう勧めています。
 緑の付箋は、事前のコメントで疑問や質問があった場合、そこにひも付ける形で、Q&Aとして解説する付箋です。

 続いて、実際の講義における画面共有の様子です。

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 電子教科書上には、学生の予習コメントと教員による付箋が幾つか付いています。これらを私が拾いながら講義を進めていきます。都度、大事だと思うコメントを選択して、「○○さん、発言をお願いします」というふうに発言を促します。例えばSPAの話であれば、そもそもPL(Private Label)の話からプライベート・ブランド(ストア・ブランド)の話に関連させたり、ニーズとウオンツの違いは何かといったことを少し拡げたりしながら、学生の理解を促すような運営をして、これを90分間進めていく流れになっています。

4. 学生の反応

 学生の反応としては、これは基本的にしっかり取り組んでいる学生から出た意見ですけれども、「電子教科書に書き込まれた内容をしっかり見ながら授業・学習を進められた」など、事前に予習を行ってから講義に参加することのメリットが一つ得られたと思っています。

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 予習の実施についても、発言を講義内で求めるので、「答えられないと困るからしっかり頑張ります」や「分からないところを中心に授業で聞こう」という姿勢が見られました。
 学生間の学びあいに関しては、他の学生がコメントしているものを見たうえで、「自分にはこういう気付きがあった、知らない視点があった」ということで、他の学生が書いている内容を踏まえて、履修者自身が理解を深めていくという現象が見受けられました。

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 あとは、実際に学生が参加することの反応や、講義の進行上のちょっとしたポイントに対するコメント、導入に際して生協担当者の協力が不可欠であり、しっかり対応いただいたことに対する反応がありました。

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5. 電子版教科書を採用して


 基本的には、事前に教員が用意した全てのシナリオを通りにストーリー進めるというよりも、学生の話を90分間で膨らませながら、時間内に何とか収まるようにしていくということを心がけました。遠隔であっても、事前に学生の予習状況を確認でき、講義中に双方向型のコミュニケーションを行うことで内容を深めることができたため、教員自身も非常にやりがいを持って楽しく進められたというのが所感です。
 また、リードしてくれる学生のコメント内容を見習って、他の履修者が参考にする流れができており、予習コメントだけでなく、講義後のコメントシートの内容も、回を重ねるにつれて質が向上しました。これは、おそらく、講義時やフィードバックにおいて、教員や他の学生から、自分のコメントを承認してもらうことで、意欲的に取り組む学生が増えたと考えています。もちろん学生側には、ただ書いて終わりではなく、コメントには説明責任が生じることを伝えていたため、しっかりと準備してもらえたこともあると思います。
 さらに大事だと思うのは、大学生協のシステムを使っているので、生協担当者との連携を密にしていくという点です。実際に採用する場合には、授業が始まる前に生協担当者とミーティングを行って、方針の擦り合わせなどをする機会もあります。事前ミーティングを行うことで、授業が始まった後も運用にかかわるアドバイスやサポートをより的確に実施してもらえます。私自身としては、電子版教科書を初めて採用しましたが、非常に有意義な前期を過ごせたと思っています。

※後期の場合は、遠隔リアルタイムではなく、事前に講義動画を収録し、完全オンデマンド型での実施となっています。それでも、授業の進め方は前期を踏襲しています。変更点としては、講義時間での直接の対話がなくなった分、ラジオDJ方式で予習コメントを紹介する形式にしています。
 第10回の週が終わった段階で、学生によるマイクの切り替えや接続の時間等が短縮されたことで、多くの予習コメントを紹介できています。コメントシートの方にも、教員の説明に対するコメントだけではなく、他の学生が書き込んだコメントに対する気づきや学びを共有してくれる内容も見受けられます。
 このように、教員と学生だけではなく、生協の電子教科書システムを採用することで、学生の学びあいにも繋がっていると考えています。

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