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農業業界はなぜ若者が辞めるのか

新生活がスタートして約2か月が経過します。新入社員であれば長い長い研修が終わり、やっと現場に出始める頃でしょう。4月入社の中途社員であれば新しい環境に慣れてきたことでしょう。これからどんどん自分が属している会社の良いところ・悪いところが見えてくる時期です・・・(泣)

私の属する農業業界も人の入れ替わりが激しい業界です。特に志を持った若い世代が入社から数年で退職することが多く、生産者だけでなくメーカーも高齢化が問題視されています。飲食・小売業界など人材不足・若手の早期退職が深刻な問題として捉えられている業界もありますが、農業業界とは状況が違います。農業業界の離職率が高い要因は「オールラウンダーでなければならない」、「癖の強い生産者とのかかわり」「古い慣習」の3つにあるのではないかと思っています。


①オールラウンダーでなければならない

施設園芸において必需となるのは栽培を行うハウス、遮光や保温を行う内張カーテン、肥料や水を流す潅水設備・・・。挙げればキリがないほど様々な設備の知識が必要となります。さらに栽培の話になると、トマトやイチゴ・・・様々な作物の情報を持ち得ていないといけませんし、土壌の話になると大学レベルの知識を持ち得ていないと太刀打ちできません。

右も左も分からない新卒社員・他業種から転職してきた人にとってこのような膨大な知識を習得することは苦痛でしかないでしょう。膨大な知識を要すると理解していながら、充分な勉強会・研修の機会を設けず、「現場で学んで来い」という企業も多く、このような企業の姿勢は時代に逆行しているように感じます。


②癖の強い生産者とのかかわり

日々の営業活動を通して感じるのは、農家さんそれぞれ人情味があり、とてもいい人なのですが、世間一般からすれば「かなり癖の強い方」が多いなということです。近年は一般企業を退職し、志を持って新規就農する若い農家さんも多いですが、依然として大多数は経験豊富なベテランの農家さんです。ベテラン農家さんは営業マンよりも農業資材・栽培に詳しく、一昔前まではご自身で工事を行ってたほどです。

そのような方々へ商品を売り込むのだから、一苦労です。とてもきつい口調で「こんなものいらん!」「こんな工事俺でもできるのにこんなに金取るんか」など言われたら誰でも委縮します。このような農家さんは多くいるので、日々何度もお客様からきつい言葉を掛けられたら若手社員ならすぐに落ち込んでしまうことは目に見えています。

農家さんも悪気は悪いわけではなく、このようなやり取りが普通なのである。この話は3つ目の要因でも触れるが、農家さんからのしごきに耐えることで信頼を得ることができるのである。私の会社でも、「いつも怒ってばかりの農家さんのお困り事を解決したら、その途端に対応が180度変わった」という話があるように、ある程度の耐える時間が必要なのかもしれません。その時間を大卒・高卒の子たちが耐えられるとは思いませんが。


③古い慣習

農業業界はある意味で一昔前の風習が根付いています。一般企業のように週休二日制を敷いている農家さんは少数派で、ほとんどの方々が不定休で働いている状態です。農家さんを相手にしている営業マンは土日祝日関係なくお客様からひっきりなしに電話が掛かります。電話ならまだしも、「水が出ない」「保温資材が動かない」などの連絡があれば、緊急対応のため現場に駆け付けなければなりません。

毎日のように残業を行い、土日は農家さんからの電話が鳴り響き、何かあれば駆け付けなければならないという状況ではいつまでも気が休まらず、私生活に支障が出ることは確実でしょう。私自身も休日の彼女とのデート中に、鬼のように電話が鳴り、デートを中断しなければならず、嫌な顔をされた思い出があります。昨今叫ばれている残業ゼロ、完全週休二日制という働き方とは程遠い勤務体系が一般化しているのが農業業界なのでしょう。


作物相手の農家さんに一般企業のような労働形態を敷くことは不可能です。ですがその両者の齟齬を「仕方がないもの」と決めてしまうのはいつまで経っても農業界の問題を先延ばしにしていることに変わりありません。ではどのようにすればよいのか。私は2つの解決策があるのではないかと思います。


自分でできるようになる

営業マンはお客様から困りの電話があれば駆けつけます。現場に駆け付けるとボルトの緩みが原因であったり、単純な部材の付け直しで解決したりということが多々あります。不測の事態であれば、専門の私たちが駆けつけることは必須ですが、簡単に農家さんでもできる作業のために出勤するのは正直避けたいです。一昔前の農家さんはビニールハウスの張替からトラクターの修理までなんでもやったように、現代の農家さんもある程度の修理や対処を行うことが出来れば、営業マンの負担も減るでしょう。

一方で電話口で我々営業マンが「こうしてくださと説明がしっかりできれば、ある程度のトラブルも解決するように思います。起きている症状の原因何かをケーススタディとして日々学び続け、現在の状況をしっかり把握できるようなヒアリング力・農家さんが作業できるようにわかりやすく説明する力を補う施策に力を入れるべきでしょう。


対価を支払う

簡単な修理であれ、休日や深夜早朝に現場に駆けつけて対応したのであれば、しっかりと対価を払うべきです。これはお客様だけでなく会社も同様です。農業業界に数年身を置いていみて、日々感じるのは「いつもお世話になっているんで」という営業・サービスマンの厚意への依存です。農家さんは「いつも商品を買ってるんだから、これくらいサービスでやってもらって当然だ」という想いを持ってる方も多くいます。サービスでやることは時には必要ですが、毎回のようにサービスでは営業マン・サービスマンが疲弊し、退職を余儀なくされ、修理に行くことができなくなる可能性も高いです。「農家さんが困っているときにすぐ駆け付ける」という仕組みを守るためにも対価を支払うという考え方を持つべきです。

依存しているのは雇い主の企業も同様です。個々の営業マン・サービスマンがサービス修理、休日対応をしていることに対して、問題視しておらず、「お客様のことを思った行動だから素晴らしい」と称賛しています。農家さんへ対価をお支払いいただく、会社としても動いた人間に対して対価を支払うことへの認識が薄い業界でもあるので、この部分を変えるだけで農業業界全体が一歩前進するように感じます。


農業業界に身を置いて数年経過しますが、毎日のように思うのが「一般企業で常識であるものが一切取り入れられていない」という点です。紙でのデータ管理から始まり、イレギュラーな体系に対応できない勤務体系・・・。他の業種から来た人間はビックリするほど後進的なのは否めません。ですが視点を変えれば新技術・他業界での一般化している仕組みなどを導入すればドラスティックに変革を遂げる可能性も秘めているとも言えます。数年前に流行った本田圭佑のモノマネをするじゅんいちダビッドソンさんが言っていたギャグ「伸びしろですね」という言葉通りです。農業業界は悲観する状況ですが、伸びしろしかないと思って前向きに思える人が増えれば魅力的なものになる可能性が高いでしょうね。

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