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M-1グランプリと格闘し続けた10年-「和牛」の栄光と挫折

2023年12月12日、お笑いコンビ「和牛」が翌年3月末で解散すると発表され、そのニュースはお笑いファンに大きな衝撃を与えた。

二人のコメント文が掲載され、水田信二は「きっかけは、3年程前に気の緩みから複数回の遅刻が重なったこと」「漫才への取り組み方について川西との差を感じるようになった」と綴っている。

川西もまた「彼との漫才に対する姿勢の違いが目立つようになりました。徐々に彼を信頼できなくなり、節度を保てず厳しく言葉をかけることもありました」と記しており、ともに「漫才への取り組み方・姿勢」に埋めることのできないギャップが生じたことが解散の主な原因であったようだ。

そこでふと思ったことがある。和牛は2019年にM-1グランプリから「卒業」しており、残り2回の挑戦権がありながら、そこで「やりきった」という理由で以降の出場は行っていない。もしも和牛が、「M-1グランプリで優勝」していたのならば、「解散」という選択以外の結末が待っていたのではないだろうか、と。

「M-1グランプリでチャンピオンになった」という達成感が得られれば、それ王者であることのプレッシャーはあるものの、自分たちのやりたい漫才ができるではないか、今のように思い詰めてしまうこともなかったのではないか。

和牛のM-1グランプリでの漫才にスポットを当て、その栄光と挫折について今回は書いてみたいと思う。

和牛がもたらした「M-1漫才」の進化

NON STYLE・石田明は、和牛の漫才について、2018年12月および2022年12月にコメントしている。和牛の漫才は「コント寄り」であると指摘する石田は、次のように語っていた(*1)。

「和牛もどちらかというと、やっぱコント寄りなんですよね。2本目の、オレオレ詐欺のネタですか。1回、『オレオレ詐欺、騙されたらアカンで』って言って、どっか行くじゃないですか。どっか行って、何もなかったかのように、2人でまた戻ってくるんですよ」

「戻ってきて、それでまた『もしもし?』って電話かけるんですけど、これって実際は、暗転なわけじゃないですか。暗転してもう一回明転して、また違うシーンってことなんで」

「衣装来て、照明とか使ってやったほうが、もしかしたら面白くなるかもしれないんですよ。なんですけど、それを漫才でして。それも、本末つけるんですよ。『コントやん』って言おうと思ったら、言えるかもしれないんですけど、それを言われへんぐらいの演技力、構成力」

また、マヂカルラブリーのM-1グランプリ優勝で沸き起こった「マヂラブの漫才は、果たして漫才なのか?」論争について触れ、「もうね、漫才とコントの垣根がなくなったっていうか…でも新しい時代がきたなって思いますね。これは和牛効果やと思うけどね」と、新たな漫才時代の幕開けに、和牛が大きく寄与していることについても語っている(*2)。

M-1で優勝できなかった敗因

漫才の進化について、和牛が一役を買っているとしている一方、3度の準優勝で優勝を逃し続けていた敗因についても石田は指摘している。

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