マガジンのカバー画像

新科目「歴史総合」をよむ

103
新科目「歴史総合」に関する”資料置き場”です。
運営しているクリエイター

記事一覧

固定された記事

【総目次】 新科目「歴史総合」をよむ【みんなの世界史】 関連年表付き

0. 歴史の扉0-1.歴史と私たち ◆「自分は歴史なんて関係ない」って、本当? 0-2. 歴史の特質と資料 ◆ 大昔に起きたことなんて、確かめようがないんじゃないの? 1. 近代化と私たち 1-1. 近代化への問い ◆「近代化する」って、何が、どうなること? 1-1-1. 労働と家族/1-1-2. 産業と人口/1-1-3. 交通と貿易/1-1-4. 移民/1-1-5. 権利意識と政治参加や国民の義務/1-1-6. 学校教育 5つの観点から考える問い 1-2.

ニッポンの世界史【第10回】:京都学派の世界史(その1)

京都学派とはなにか  京都学派とは一般に、京都帝国大学を拠点とした西田幾多郎と、その後継者である田辺元、さらにかれらの弟子たちを総称した呼び名です。  西田と田辺を受け継いだ第二世代のうち、哲学者の高山岩男、西谷啓治、高坂正顕、さらに西洋史家の鈴木成高の4人は「京都学派四天王」と呼ばれることもあります。  彼らの共通点は、仏教的な概念と西洋哲学の概念を重ね合わせて、西洋近代を批判し、西洋中心主義をのりこえた新しい「世界史の哲学」を構想しようとしたところにありました。  し

ニッポンの世界史【第4回】東洋史の「再発見」 : 宮崎市定・古代文明・トインビー

宮崎市定 「ヨーロッパは後進国だ!」  戦前の日本における東洋史は、中国史のウエイトが多くの割合を占めていました。  しかし、いわゆる京都学派の宮崎市定のように、アジアが世界史に果たした役割を重視し、アジアを射程にいれた世界史を描こうとする試みも、すでに戦前からありました。  たとえば、文部省の要請により宮崎も編纂委員として関わった『大東亜史』(未完)の冒頭部分をもとに戦後刊行された『アジア史概説』は、東洋史の学習指導要領(試案)でも参考図書に挙げられています。  オリエント

ニッポンの世界史【第3回】世界史の「氾濫」

「教科世界史」は、なぜ暗記地獄化したか?  前回みたように、「科目」としての世界史は、戦後まもなくの混乱期に、学問的に深い議論が交わされることなく誕生したものでした。  そもそも学問としての世界史自体、未確立だったこともありますが、その輪郭が不確かであったからこそ、文部省の教科書調査官や歴史学者、教員、予備校講師、それに作家に至るまで、さまざまな人々の手が加わり変化し続ける余地ができた面というもあるでしょう(注1)。  とくに戦後まもなくは、教員がみずから世界史という科目

【第2回】ニッポンの世界史:日本人にとって世界史とはなにか?

「世界史」という科目は、どのようにして生まれたのか?  前回、1949年に「世界史」という科目がつくられたと述べました。  どのような経緯で「世界史」という科目が置かれたのでしょうか?  今回はちょっとお堅い内容にはなりますが、「科目世界史」がどんなふうに誕生したのか、その秘話をきちんと確認しておかねばなりません。  まずは戦後まもなくの状況を確認しておくことからはじめましょう。 戦後の新科目「社会科」  1945(昭和20)年9月2日、1945(昭和20)年9月2日、東

【はじめに】ニッポンの世界史:日本人にとって世界史とはなにか?

2010年代の世界史ブーム—疫病・戦争・生成AI  まもなく22世紀を迎える2100年の人々が21世紀初頭の世界をふりかえったとしよう。そこではどのような出来事がとりあげられるだろう?  「まもなく終わる21世紀」の幕開けにふさわしい出来事として選ばれるのは、いったい何になるのだろうか?  疫病の流行、大国による戦争、それとも生成AIに代表されるイノベーションか。あるいは気候変動、難民危機、持続可能な開発目標、新興国の台頭、あるいは権威主義やポピュリズムの拡大か—。  こう

歴史の扉Vol.11 ポテトチップスの世界史

ライターの稲田豊史さんによる『ポテトチップスと日本人—人生に寄り添う国民食の誕生』(朝日新聞出版、2023年)を読んだ。ポテトチップス好きの私としては、カバーの装丁がポテトチップスのようであるのも良い。思わず手にとってしまうではないか。 世界史的な観点から、いくつか気になった点を紹介がてら整理してみよう。 ポテトチップスと有色人種 ポテトチップスの歴史はそんなに古くないようだ。一般には「アフリカ系アメリカ人の男性を父に、ネイティブアメリカンであるモホーク族の女性を母に持つ

【作業用】授業でつかえそうな青空文庫 約50選

青空文庫(著作権が消滅した作品や著者が許諾した作品のテキストを公開しているインターネット上の電子図書館)から、歴史総合や日本史探究・世界史探究で使えそうな史料をピックアップしてみました。これら新科目は、ともすれば文字優位となりがちですが、ビジュアル資料と組み合わせたり、適宜言い換えたり、さらに「やさしい日本語」化することも含め、ものは使いよう。一貫性はありませんが、結構いろいろあるぞ、ということで、今後も追記していきます。 1. アルベルト・アインスタイン(石原純・訳)『相

新科目「歴史総合」入門(5)参考になるもの

さて、ここからは「近代化」「国際秩序の転換と大衆化」「グローバル化」のそれぞれについて順を追ってみていく前に、参考となる書籍をちょっとだけ紹介しておきたいと思います。 よみやすいもの 個別のテーマや歴史学、歴史教育について、どのような問題意識があるのかをつかむには、これがおすすめ。1冊120ページ程度で、読みやすいです。山川出版社のリブレットは高校生向けのつくりではないので、この清水書院のシリーズのレベル感で間口をひろげたシリーズがあればいいなあと思います。 観やすいも

新科目「歴史総合」入門(6)1つ目のしくみ:近代化

■「近代化」の時代の大前提 では、ここからは各論です。 まずは、1つ目のしくみである「近代化」について見ていきましょう。 これまでの日本史の教科書では、近代という時代のはじまりは「開国」に設定されていました。 ところが、世界史の教科書では、産業革命が近代のはじまりとなっています。 歴史総合では、「近代」という時代がいつ始まったのか明示されているわけではありませんが、産業革命が大きな意味を担っていることはたしかです。 ではどうして産業革命が、そんなに重要なできごとだと言

【目次】 新科目「歴史総合」入門

「歴史総合」の重点は、定型的な知識を教授することよりも、生徒が歴史を使える(歴史する=doing history)力を育てるところにあります。  ひとりだけで授業を受け持つのではなく、チームで担当する現場も多いはずですが、それを新科目でやるのですから、やはり共通前提、目線合わせが肝心になると思います。  得意な人や苦手な人もいる中で、教員の側も協働しながら、問いを喚起する授業をどうやって組み立てていけばよいか、考えながらすすめていきたいと思います。 2023/04/01 公

歴史総合入門(12)3つ目のしくみ:グローバル化 1970年代〜

■1970年代の地殻変動  高度経済成長をむかえた先進国とは反対に、途上国ではなかなか思うように経済成長がはじまりませんでした。  どうしてそうなってしまうのか?  それは途上国から先進国が富を吸い取っているからじゃないか?  そんな問題意識から、途上国が団結して、先進国を中心とする世界のしくみを変えていこうという動きが生まれます。  この動きが盛り上がるきっかけとなったのは、1970年代の石油危機。  石油を産出する産油国が欧米諸国に反旗をひるがえし、先進国の高度成長

歴史総合入門(10)2つ目のしくみ:冷戦の開始

■冷戦の開始  第一次世界大戦とともに現れた「大衆」を戦争に動員するしくみは、世界に第二次世界大戦という破局をもたらしました。  しかし戦争の終結とともに、新たなしくみが出現します。  「大衆」を経済成長のために動員するしくみでした。  これはまったく新しい代物ではなく、前者の体制の多くが引き継がれていたという視点が重要です。  戦争への動員を可能にする総力戦体制では、戦場で傷を追った軍人や、のこされた遺族を救うために、厚生労働省が中心となってさまざまな年金制度が整えら

歴史総合入門(9)2つ目のしくみ:世界恐慌と第二次世界大戦

■世界恐慌と「大きな政府」  このように第一次世界大戦は、国際秩序を大きく転換させましたが、1929年に世界経済の中心地に躍り出ていたアメリカで世界恐慌という史上最悪の不景気が勃発すると、世界各地で不穏な空気が立ち込めます。    中学校でも習うように、植民地などの勢力圏をたくさん持っていた国(持てる国)は、比較的はやく立ち直っていきました。けれども持っていない国(持たざる国)の状況はなかなか苦しい。  「こんなひどい状況になったのは、第一次世界大戦の戦勝国のせいだ」「みん