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「世界はジャズを求めてる」2021年5月第一週(5月6日)放送分スクリプト(出演 村井康司)#鎌倉FM


テーマ曲:What A World Needs Now Is Love/Stan Getz


*こんばんは、毎週木曜午後8時からお送りしている「世界はジャズを求めてる」、第一週は音楽評論家の村井康司がお届けします。
週替わりのパーソナリティが進行役を務めるこの番組、今日で5か月目を迎えます。みなさん、楽しんでいただけてますでしょうか。番組の感想、リクエストなどは、鎌倉FMホームページの送信フォームや、ツイッター、フェイスブックなどでどしどしお寄せください。ツイッターでは、ハッシュタグ「#世界はジャズを求めてる」を付けていただければ助かります。また、noteにもこの番組のページがありまして、番組の選曲リストや概要などをご紹介しています。Noteで、「世界はジャズを求めてる」で検索していただければ、私たちのページをご覧になることができます。そちらもよろしくお願いします!

*今日は5月6日、ゴールデンウィークはいかがでしたでしょうか。コロナウィルスのことがあるので遠出はなかなかできなかったかもしれませんが、緑の季節の連休は気持ちいいですよね、やっぱり。
さて今日は50年前にタイムスリップしてみようと思っています。ちょうど50年前、1971年にリリースされたジャズを聴きましょう。50年前、私は中学二年生で、まだジャズは知らなくってロックやフォークに夢中になっていました。ジャズを聴き出したのはその2年ぐらい後でしたね。
まずは、ソウルフルなコテコテの曲からいきましょう。テナー・サックス奏者キング・カーティスの『ライヴ・アット・フィルモア・ウェスト』から、史上最もかっこいいメンバー紹介と思っている「メンフィス・ソウル・シチュー」をお送りします。

M1 Memphis Soul Stew/King Curtis

*キング・カーティスの『ライヴ・アット・フィルモア・ウェスト』から、「メンフィス・ソウル・シチュー」でした。紹介された順にメンバーを上げますと、ベースのジェリー・ジェモット、ドラムスのバーナード・パーディ、ギターはコーネル・デュプリー、オルガンのビリー・プレストン、ホーン・セクションはメンフィス・ホーンズ、コンガのパンチョ・モラレス。そして最後にキング・カーティスがサックスを吹いて盛り上がります。
次の曲もソウルフルというか、ブラック・ミュージック系でいきましょう。ヴォーカリストで詩人のギル・スコット・ヘロンの代表作「The Revolution Will Not Be Televised」をお聴きください。

M2  The Revolution Will Not Be Televised /Gil Scott Heron

*ギル・スコット・ヘロン「The Revolution Will Not Be Televised」でした。「革命はテレビではやっていない」という、なかなかハードなタイトルのポエトリー・リーディングですね。ギル・スコット・ヘロンは、社会的・政治的なメッセージをいち早く楽曲に込めた人で、ラッパーたちの尊敬を集めています。
ちなみに1971年という年は、アメリカのニクソン政権が中国と接近をはじめた年です。60年代的な状況が変化する兆しが出てきた年だったのかもしれませんね。あ、カップヌードルが発売されたのも71年のことでした。

さて次も黒人ジャズの極み、みたいな曲です。サンラー・アーケストラの「Watusi, Egyptian March」です。

M3 Watusi, Egyptian March /Sun Ra and his Archestra

*サンラー・アーケストラの「Watusi, Egyptian March」でした。サンラーという人は自分のことを土星から来た、と自称していて、それでいてコスチュームはなぜか古代エジプトの神官みたいという謎の人でした。3月に公開された映画『サンラーのスペース・イズ・ザ・プレイス』を観たんですが、サンラーたちが宇宙船に乗って理想の星に旅立つ、というなかなかすごい映画でした!
さて、今の曲は「エジプトのマーチ」というタイトルでしたが、次の曲も不思議な曲名です。ファラオ・サンダースの「Astral Traveling」です。日本語にすると「星の旅行」でもあり「幽体離脱」という意味でもあります。では、お聞きください。

M4 Astral Traveling/Pharoah Sanders

*ファラオ・サンダースの「Astral Traveling」でした。ファラオはジョン・コルトレーンの晩年のバンドにいたサックス奏者ですが、激烈な演奏だけでなく、この時期は、のちに「スピリチュアル・ジャズ」と呼ばれる瞑想的で平和なサウンドの音楽を演奏していました。
もう80代ですが、今でも元気に活躍しています。
次はイギリスで活動していた南アフリカ出身のジャズ・ミュージシャンをご紹介します。クリス・マクレガーズ・ブラザーフッド・オブ・ブレスの「アンドロメダ」をお聴きください。

M5 Andromeda/Chris McGregor’s Brotherhood of Breath

*クリス・マクレガーズ・ブラザーフッド・オブ・ブレスの「アンドロメダ」をお送りしました。イギリスには現在でも南アフリカ出身のジャズ・ミュージシャンがたくさんいますが、彼らはその先駆者というべきバンドです。
さて、今までソウル・ミュージックやフリー・ジャズ、そして南アフリカと「黒い」フィーリングの曲が続きました。次の曲もブラック・ミュージック的なんですけど、雰囲気はぐっとポップというか大衆的になります。クインシー・ジョーンズの「アイアンサイド」、えー「鬼警部アイアンサイドのテーマ」です。

M6 Ironside/Quincy Jones

*クインシー・ジョーンズの「鬼警部アイアンサイドのテーマ」でした。これはテレビドラマのテーマ曲で、日本でも放映されていました。あと、71年より何年か後に、「ウィークエンダー」というテレビ番組があったのを覚えてらっしゃる方もいるかと思いますが、この曲はその中で使われていたんですね。あの「ちゃっちゃらっちゃちゃーーー」というリフです。新聞の社会面の記事を採り上げておもしろおかしく紹介する、という番組で、エンディング・テーマもクインシー・ジョーンズの「ホワッツ・ゴーイン・オン」だったんですよ。ディレクターがクインシーのファンだったのかなあ。ちなみに「アイアンサイド」も「ホワッツ・ゴーイン・オン」も、71年にリリースされた『スマックウォーター・ジャック』というアルバムに収録されていました。

M7 Where Are You Now? Picture1/Chick Corea


*今後ろで流れている曲は、チック・コリアのピアノ・ソロ「Where Are You Now? Picture1」です。今年惜しくも亡くなったチックが71年に出した『ピアノ・インプロヴィゼイションVol.1』の中の曲です。今日はこの曲をバックに、1971年に発表された広瀬正の長編『ツィス』をご紹介します。広瀬正さんは1924年生まれ、もともとはジャズ・サックス奏者で「広瀬正とスカイ・トーンズ」というバンドのリーダーでした。ミュージシャンをやめて作家になり、SFを主に書いて注目されたのですが、72年に48歳で急死しました。
この小説のタイトル「ツィス」というのはドイツ語の音の名前、英語だと「Cシャープ」、日本の音名だと「嬰ハ音」、わかりやすく言うと「ドのシャープ」のことです。神奈川県のある町で、かすかにずっと鳴っている「ツィス」の音に気づく人がいて、最初は小さかったその音がどんどん大きくなって東京にも広がり、大パニックになっていく、という話。コロナ禍の今読むとなんとも複雑な気持ちになりますね。あと、1971年の段階で「ワイアレスのイアホンで音楽を聴く」話が出てくるのも、今のブルートゥースを予見していて興味深いです。広瀬正『ツィス』、集英社文庫から出ておりますので、よかったら読んでみてください。


さて、1971年に世に出た曲、次はゲイリー・バートンとキース・ジャレットの共演作から「Grow Your Own」を聴きましょう。

M8 Grow Your Own /Gary Burton and Keith Jarrett

*ゲイリー・バートンとキース・ジャレットの「Grow Your Own」でした。この時期のバートンもキースも、同時代のロック、ザ・バンドとかクロスビー・スティルス・ナッシュ・アンド・ヤングとかによく似たサウンドを指向していたのだと思います。
次は、カーラ・ブレイとジャズ・コンポーザーズ・オーケストラの大作『Escalator Over the Hill』から、そのタイトル曲「Escalator Over the Hill」を聴きましょう。LP3枚組のこの作品は、詩人のポール・ヘインズがテキストを書いたオペラでして、フリー・ジャズとロックのアマルガムに歌が入っている、みたいなサウンドです。これもなかなか謎の音楽なんですが、今聴くと新鮮じゃないかな、という気がします。ではカーラ・ブレイとジャズ・コンポーザーズ・オーケストラの「Escalator Over the Hill」をお聴きください。

M9 Escalator Over the Hill /Carla Bley and The Jazz Composer’s Orchestra

*カーラ・ブレイとジャズ・コンポーザーズ・オーケストラの「Escalator Over the Hill」でした。次の曲も、プログレッシブ・ロックのようなサウンドです。イギリス出身のギタリスト、ジョン・マクラフリンが結成したマハヴィシュヌ・オーケストラの1作目『The Inner Mounting Flame』から「Awakening」です。

M10 Awakening / Mahavishnu Orchestra

*ジョン・マクラフリンのマハヴィシュヌ・オーケストラの「Awakening」でした。ハードな音色と変拍子がすさまじいんですが、この変拍子はインド音楽からの影響のようです。
次の曲は、70年代半ばに流行するフュージョンのさきがけみたいなサウンドです。ギタリスト、ガボール・ザボのアルバム『High Cotrast』から「Breezin’」を聴きましょう。

M11 Breezin’/ Gabor Szabo

*ガボール・ザボのアルバム『High Cotrast』から「Breezin’」でした。この曲は76年にジョージ・ベンソンが採り上げて大ヒット、フュージョン・ブームの象徴みたいになった曲ですが、実はどちらもプロデューサーはトミー・リピューマなんですね。最近出たリピューマの伝記『トミー・リピューマのバラード』によりますと、ベンソンをプロデュースするときに、71年にガボール・ザボが演奏したこの曲がいいんじゃないか、と思いついてやらせてみたら大ヒット、ということだったそうです。このザボのヴァージョンでは、作曲したボビー・ウーマックが実にかっこいいリズム・ギターを弾いています。

*さて、今日のお別れの曲です。71年にウェザー・リポートを結成したジョー・ザヴィヌルがその前にソロで出したアルバム『Zawinul』から、ザヴィヌルがマイルス・デイヴィスに提供した「In A Silent Way」をお送りします。

M12 In A Silent Way /Joe Zawinul

*「世界はジャズを求めてる」、5月第一週のお相手は、音楽評論家の村井康司でした。50年前のジャズのあれこれ、いかがでしたでしょうか。来週の進行役は、音楽書籍編集者の池上信次さんです。
では来週も木曜午後8時から、鎌倉FMにチューンインを! またお会いしましょう!

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