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瀬戸内のアートに触れる旅 #5|豊島の「母型」で瞑想に耽る

3日目の概要

いよいよ豊島に移動する。この一連の記事を書き始めたのは、他でもない、豊島美術館の感動を文字として残しておきたかったからだ。

高速旅客船で豊島へ向かう

直島の宮浦港を後にし、9時20分発の高速旅客船に乗って、豊島の家浦港へ向かう。高速旅客船といっても、高松から直島に移動した際のものとはサイズが全く異なり、人のみ乗船(車が乗れるものではない)可能の50人くらいが乗るといっぱいになってしまうような規模感。

そして豊島美術館へ

わずか20分ほどで豊島に到着すると、ここでまた、天気は多少の雨である。

豊島美術館に向かうにあたって、当初はその他も自由に動けるようにレンタサイクルを利用するつもりであった。しかし、雨のせいでバスに乗るかを迷ったものの、どうせまたすぐやむでしょう!と思い、自転車を選択。荷物も預けてペダルを漕ぎだす。

やみますかねぇ、なんてことを係の方と会話したっけ。

電動自転車だったので、進みは良好。人生で初めて乗ったかもしれないが、最初の一漕ぎを踏み出したときに、これほどの推進力があるとは。とはいえ、意外と登りの箇所もあって、ちょっと頑張る。いうて20分くらいで到着したのかな、美術館直前の棚田が展開されているような坂道が、おそらく一番の眺めスポットなのだろう。

大きく広がる海を前に、自転車を止めて写真をとっておくものの、やっぱり曇っているなあ。笑

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遊歩道を抜ける

カウンターでチケットを入手すると、そこから奥のほうに白い物体が見えるものの、一旦迂回する遊歩道を抜けることになる。焦らされる。笑

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ただ、やっぱりこうやって歩く過程があると、少し期待感が高まるんですよね。徐々に心の準備をするというか、ゾーンに入っていくような感覚。

例えるならなんだろう、構造は全く異なるものの、六本木の森美術館に入る際に、エレベーターで上層階へ上がるときにも感じるような独特の緊張感。余談ではあるが、前の記事で記載した李禹煥さんは、いつかの森美術館で開催されていたSTARS展でも目にした。

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そしていよいよ、空洞の内部へ。内部は撮影が禁止なので写真がないのだけれど、ここでもスタッフからの説明を受けた後、靴を脱いで内部へを足を踏み入れる。

この瞬間も、やはり恐る恐るなんですよね。入口のアーチをくぐったところから、完全に人様、というかコンクリート様(?)の領域にお邪魔するような感じ。その不思議に開けた空間を進んでいくと、左前方に一つの吹き抜けとその下部に溜まった水。そしてさらに右奥前方に目をやると、さらに広い吹き抜けと水の輝きが見える。

雨が降っていたこともあって、吹き抜けの直下の地面には、雨によって作られた水滴が多く存在している。もともとの展示として用意されている水とは異なる自然の要素が人工物のコンクリートと重なり合うことで、まさに再現不可能な、この瞬間にしかない景色を作りだしている。

そう、このインスタレーション「母型」の仕組みとしては、まず、地中深くからくみ上げた地下水が、地面に空いた幾多の穴から一定の間隔のもとで少しずつ吹き出す。そして、撥水加工がなされた床面の傾斜に沿って、表面張力と水自身の重さとのバランスのもと、水滴が流れ去って他の水滴に合流したり、あるいは一部だけが分割したりする。最終的には、大きな水たまりに取り込まれるか、あるいは、水を回収するための穴に流れ込んだりする。

その不思議な光景は、こんな拙い日本語ではなく、実際の映像を見てもらうほうが何倍も伝わりやすいだろう。だけれども、自分自身この映像を事前に見ていたが、実際にそこに足を踏み入れると、映像で見るものとは全く異なる圧倒される空気感がそこにあるのだ。

そして、これまでの描写で触れたのは主に視覚によるものであるが、聴覚でも十分に楽しむことができる。

まずは風が吹き込む音。吹き込む風は、吹き抜けの脇に吊るされたテープも揺らすため、さらに視覚としても感じることができる。そして、風が外の木々を揺らすことで、その葉がこすれる音がさらに聞こえてきて癒される。

そして、水が管に流れ込む音。「ココココ....」という形容であっているだろうか、細い管の中を水が流れる時のあの音が不定期に空間に響くことで、なんともいえない心地よさを覚える。

この空間、ものすごく内部で音が反響する。そのため、少しでも音をたてようものなら、たとえば服のファスナーを上げるくらいの音でも、油断すると大きな音として空間にこだましてしまう。

その結果、静寂がさらなる静寂を生み出し、その中で放心状態を味わうことができるのだ。そんなこんなで、気が付くと1時間くらいはその空間に没頭してしまっていた。

湧き上がる水滴、流れる水、そこを歩くアリやムカデ。そんなものを眺めていると一向に飽きることはないんですよね。

カフェ&ショップ

そして、カフェ&ショップのスペースへと向かう。2つの白い母体のうち、小さいほうがこれということ。

内部の空間もすごくおしゃれだったんですよね。空気清浄機はPanasonic、サーキュレーターはBALMUDAというチョイスだったので、おしゃれ家電として参考にしたいと思います。笑

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再度戻ってくる

で、結論から言うと、一度後にしたはずの豊島美術館に、再度戻ってきました。フェリーの時間を2時間30分遅らせてまで。笑

初回のチケット発券の時に、当日中であれば再入場可能と聞いていて、その瞬間から心が揺れていたんですよね。

この後、また街中に自転車を走らせて、心臓音のアーカイブささやきの森を回っていたのだけれど、その間に天気が晴れに変わってきていたので、また新しい表情を見られるのではないかと思って、舞い戻ることに決めました。(クリスチャン・ボルダンスキーさん、2021年に訃報がありました。)

で、せっかくなので、先ほどは立ち寄っただけだったカフェでランチをいただく。オリーブライス(アイスコーヒー付き)なるものを注文。独特の深みのある香りがして、不思議な味を感じる一品でした。

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そして再び遊歩道をぐるりとし、再入場。期待通り、気持ちの良い日光が射し込む空間へと表情を変えており、追加で1時間くらい滞在した後、ようやくその場を離れることができたのでした。

当初は人様の家とか言っていたくせに、2度目の滞在では堂々と座りこんで、しばらくの間、目を閉じて瞑想するという、少し慣れたような振る舞いをしてしまった気がする。笑

今日の一曲

あの空間でこんな音楽でも聴いたら、きっととろけてしまうだろう。

雨のパレード - Hwyl


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