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江戸季節そばの魅力11月『おかめ(阿亀)そば』

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かまぼこ・しいたけ・青菜などの具を入れたかけそば。具の並べ方がおかめ(阿多福)の面に似るところから『おかめ(阿亀)そば』と言います。 ただ最近では、これらの具が無造作に置かれたり、また無意味に使われている傾向が強く、店によって内容が違います。

<そもそもいつ、どこで生まれたものなのでしょう?> 

それは幕末の頃、江戸下谷七軒町(現在の東京都文京区根津)にあったそば店『太田庵』(明治時代に廃業)が創製したそばの種物(具材をのせたそば)で、この店屋号も『おかめ太田庵』でありました。当時根津には遊郭があり、太田庵のおかめそばが大人気となったそうで、「根津のおかめ」としてたいそう繁盛したようです。『おかめ』の名前の由来は、具(種)の並べ方がお多福(おかめ)の顔を思わせるところから始まったものです。手のかかった、そして福を呼び込む顔に見立てるという本当に洒落た名前の付け方だと思います。具の並べ方は、一番上に娘の髪にかたどって島田湯葉を置き、鼻は松茸の薄切りにして、鼻にみたてて元気よく傘の部分を上に置く、かまぼこを2枚左右に寄せ合わせて頬に作り、口に椎茸を用いた。したぶくれの顔の形となる。この三つの具を基本にして、さらに玉子焼きを口にみたてたり、あるいは三角形に切って、えり元にみたてたり、また髪飾りに椎茸や小松菜を添えたり色々とありました。戦前のそば店では、黒髪を思わせる湯葉の下に八つ切りの海苔を敷いたり、若い娘の頬を表すのに紅渦巻きの鳴門二切れをおいたりしました。

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元々は、蓋つきの椀に盛り付け、蓋を開けた時にユーモアのあるおかめの面が登場する趣向が江戸っ子の洒落っ気を感じさせる種物です。

<なぜ、『おかめ(阿亀)そば)』は11月の季節蕎麦なのでしょう?>

本来、松茸を用いることから、11月の季節蕎麦となりますが、もう一つの理由として名前のおかめが別名お多福とも呼ばれ、福の神で縁起が良い。当時は11月の酉の市とのかかわりも深く、11月の酉の市頃から出回る種物だったとの事です。

当初は松茸の季節だけ売りましたがのちには現在のように年中手繰(たぐ)れるようになりました。


<それではしっぽくとおかめそばの違いは?>

「しっぽく」というのは、長崎の郷土料理にしっぽく料理というのがあります。それと同じで、いろいろな種類があるという意味で、江戸時代の五目そばです。これは元々はうどんの種類で、上に、鶏肉、厚焼き卵、麩(ふ)、湯葉、しいたけ、かまぼこ、三つ葉、ノリを置くという豪華版でした。このしっぽくそば、今はほとんど見ません。そのあとに出てきた今回取り上げた『おかめ(阿亀)そば』に追われ、消えていきます。


今回『おかめ(阿亀)そば』を調べてみて、おそばの名前一つにも、私たち日本人の長い文化や伝統が反映していることが良くわかります。

これからも江戸っ子の『洒落(しゃれ)』と『粋』を少しでも多く『江戸蕎麦』を通して伝えていきたいと思います。

これからの時期、『おかめ(阿亀)そば』はお薦めの一品です。特に寒い日は暖まりますね。

【参考】
そばの知恵袋
蕎麦の事典 新島繁
【訪問店】
麻布永坂更科本店 
万葉そば(おかめそば)

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