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【日常会話】特別な普通の一日

「よし、じゃあ二軒目いこうか」

「いや、俺明日早いし今日はもう帰るわ」

「え?」

「悪いな、また今度」

「え? ……なんで?」

「だから明日仕事早いんだって」

「え? ……なんで?」

「日本語通じねぇのか」

「えーいいじゃん。もう一軒いこうよー」

「また今度、な」

「あ、まって。ほら唐揚げが一個残ってる」

「ん? ああ、そうだな」

「知ってる? これ関西では『遠慮のかたまり』って言うんだって」

「遠慮のかたまり?」

「そう。大皿とかで出てきた料理の最後の一つのこと」

「へぇ。確かに飲み会とかでよくあるよな」

「みんなが遠慮しあって、結局誰も食べないんだよな」

「あるあるだね」

「やっぱり最後の一つっていうのがポイントなんだろうな」

「うん? どういうこと?」

「ほら、人って『限定品』みたいな言葉に弱いじゃない?」

「ああ、確かに」

「他にも『ラスト一つ』とか『日本に一つしかない』とか『ここでしか手に入らない』とかさ」

「うん」

「プレミア感が出て、そこまで欲しくなくても買っちゃったりするよな」

「わかるわかる」

「でもさ、みんな忘れてるよな」

「うん? なにを?」

「今日という日は一生に一度しかないってことをだよ」

「はい?」

「今日という日はもう二度と来ないんだよ?」

「いや。まぁ、わかってるけど」

「わかってねぇよ」

「え?」

「元日とかクリスマスとか誕生日とか。そういうイベントのときだけ重要視してるけどさ。そうじゃないんだよ。お前いま25歳だよな?」

「……そうだけど」

「高二の夏は二度と来ないって聞くとちょっと実感湧くだろ? でもさ、それは大人も同じことだから。お前の25歳の3月の第4週の日曜日はもう二度と来ないんだよ。二度と」

「……う、うん」

「今日という日は一生に一度なんだよ。どれだけプレミアといわれているものでも比べ物にならないくらい、特別で唯一無二のものなんだよ……」

「……あんまり意識したことなかったけど、言われてみればそうだよな。一日一日大切にしなくちゃだよな」

「……そうだよ。だからさ……二件目、いこう?」

「は?」

「俺は今日というスーパー特別な日をお前ともっと過ごしたいんだよ!」

「はぁ……」

「いこうよーいこうよー。今日というスーパーウルトラ特別な日を楽しまないでどうするんだよー」

「わかったわかった! いくよ。いくいく」

「よっしゃー! そうこなくっちゃ!」

「なんかそれっぽい話で丸め込まれた気がしないでもないな……ま、いっか」

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