【日常会話】どうせ分かってもらえないんでしょ?
「ハッックション!! うぇぇい!!」
「おお、おお。派手にやってるねぇ」
「ああ……しんどいわ。ああ、もう!」
「きつそうやね。大丈夫?」
「大丈夫じゃねえよ! 鼻水は止まらないし、目は痒いし!」
「大変やねぇ」
「他人事かよ。お前にはどうせこの苦しみは分かんねぇよ! ったくよぉ!」
「うん……まぁ。俺は花粉症じゃないからなぁ。その辛さを分かってやることはできないけど……」
「そうだろ? この常に顔あたりにある不快感が分かんないだろ!? ハックション! うぇ……あぁ、もう!」
「うん……。でも、その“どうせ”っていう言い方は良くないと思うよ」
「グズッ……。え?」
「確かに俺は花粉症じゃないから、その症状を実際に体験することはできないし、その辛さをリアルに感じることはできないよ? でもさ、しんどそうだなぁ、とは思うし、大丈夫かなって心配するわけじゃん。でも、そこで『どうせ分かんねぇだろ!』って突き放されちゃうとさ、こっちも、もうどうしていいか分かんないし、嫌な気分になるよ」
「……うん。グズッ……」
「例えば、ある夫婦がいてさ。奥さんが専業主婦で、旦那さん仕事から帰ってきてさ、すごく疲れてそうだったから、奥さんが『お疲れ様。大丈夫?』って声かけたらさ、『お前は働いてないんだから、仕事の辛さなんて分かんねぇだろ!』って怒鳴られたら、もう大問題だろ? 離婚まっしぐらだよ」
「ズズッ……」
「確かに、奥さんに本当の意味で旦那さんの辛さを体験することはできないけど、想像して心配してるわけじゃん? それに、そんなこと言い出したら、旦那さんは奥さんの日々の家事とか近所付き合いとか、そのへんの辛さは分かんないわけじゃん」
「ハッ……クシュん」
「もしかしたら、旦那さんは昔、仕事が辛いっていうことを誰かに相談してさ、その相手に『そんなの甘えだ、みんな辛いんだから』とかなんか、そんなようなことを言われたのかもしれない。確かにそれは辛いよね。分かってもらえないっていうのは。でもさ、それはその相手が悪かっただけで、みんながそうなわけじゃないじゃん。特に奥さんは全く関係ないわけじゃん。旦那さんは拗ねてるだけだよね。“どうせ”ってさ。大人気ないよ、そんなの」
「クチュン……。ごめん……」
「まぁ、例えば、の話なんだけどね」
「ズズッ……。花粉症でイライラしてた。八つ当たりしてるだけだった。大人げなかった。心配してくれてたのに。ごめん」
「いいんだよ、別に。辛いのは本当に大変だろうし。俺もかなり回りくどい言い方しちゃったし」
「じゃあ……これで“ちゃら”ってことでいい?」
「うん。“ちゃら”だな」
「よし! 俺も気をつけるよ。あ、そうだ。今日は雨だけど、お前大丈夫? 雨の日は頭痛がするってよく言ってるけど」
「ああ、そうなんだよ。実は朝からちょっと痛くてさ。今も少しガンガンしてる」
「そうなんだ……。大変だね。あ!! そうだ!! 俺、痛み止め持ってるよ!! 市販のやつだけど!!」
「ちっ……。大きい声出すなよなぁ。頭に響くから。……ったくよぉ。どうせ、この頭の痛みはお前には分かんないんだからよぉ……」
「……えぇ……。ハッックション!! うぅ……」
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