サーチファンドにおける業界分析の " 4 + 1 フレームワーク" (Pacific Lake Partners)

サーチファンド業界のパイオニア Pacific Lake Partners (2019年には4号ファンド $175M を調達) がHP内にリソースとして紹介している業界分析手法の " 4 + 1 フレームワーク" について紹介します。元記事はこちら。

冒頭の部分から紹介していきます。

We believe that a thesis-driven, industry-focused search not only increases your probability of acquiring a business, it increases the probability that you will find a high-quality business in an attractive industry.

This search strategy is rooted in a “go slow to go fast” mindset. By first confirming that an industry is attractive, you increase the odds that when you examine a specific business it has the right industry fundamentals in place. As one of the most successful entrepreneurs in Pacific Lake’s history once said, a good search is all about “industry, industry, and industry.”

理論に基づいた業界分析がサーチフェーズにおいて非常に重要であるという説明から始めています。まず業界/産業が魅力的であることにより、個別企業を分析する際にも魅力的な企業である確率を高めることができる、と。最後のフレーズが印象的で、「a good search is all about "industry, industry, and industry." 」と書かれていて、邦訳すると、良いサーチとは、1にも2にも業界である、業界が全てを左右する、というような意味になるかと思います。

既に一定の利益が出ているビジネスについて、経営を一部改善することで利益を創出しバリューアップするというサーチファンドモデルにおいて、また、数多ある企業の中から対象となりうる企業を探す必要があり、そこをいかに効率的に効果的にサーチするかが重要となるサーチファンドにおいて、業界の選定が命運を分けるということを意味していると思われます。

Pacific Lake 4 + 1 業界分析フレームワーク

Growth
Is the industry growing? As you explore an industry thesis, you will need to quantify recent and future growth trends. It is not sufficient to merely note an industry’s projected growth rate. You need to understand the key drivers of that growth and how market forces are causing industry expansion. Are existing customers spending more? Or is the customer population itself growing? Whatever the case, identifying underlying causes for growth is your first priority.

一つ目の基準は Growth (成長性) です。業界の成長性について、直近および将来の成長トレンドを分析する必要があります。業界の予測成長率を分析するだけでは不十分で、その成長のキードライバーは何なのかを把握する必要がある、と記載されています。例えば、既存の顧客がより大きな支出をしているのか、もしくは、顧客の数が増えているのか、などです。

これは業界分析と個別の企業分析とに分解する必要もある気もしますが、バリューアップ戦略を考える上でも必須となる分析と考えられます。サーチャーとしては、マーケット平均の成長が何によってもたらされていて、自分が経営者としてその業界の一プレイヤーとして入った時に、マーケットの成長以上の成長を生み出せる理由は何なのかを考える必要があり、そのためには上記のドライバーの特定は必須でしょう。

Size
Is the industry big enough? When we talk about an industry’s size, we are referring to both its Total Addressable Market as well as its target density, or the number of companies operating in the space. While an industry-focused search often leads to looking at smaller sub-verticals and niches, you want to be confident that the space you are examining is big enough to provide enough “shots on goal” when reaching out to business owners. You also want to ensure that the industry is large enough that any company you acquire has ample room to grow.

二つ目は業界規模です。業界の市場規模を考える時、TAM (Total Addressable Market) とその密度 (その業界で事業を営んでいる会社の数) のことを分析します。業界にフォーカスしたサーチをしていると、小さい縦割りな業界やニッチな業界に目が行きがちですが、実際に売り手となりうる企業が十分に存在するような業界を選定することが重要です。また、企業を買収した後に、十分に成長できる余地がある業界であることが必要と記載されています。

この基準も精緻に戦略を検討する際には必須となる項目だと考えました。A Primer On Search Fund (Stanford GSB) の中に記載されている基準を サーチファンドにおける買収企業を絞り込むための手法 にまとめましたが、そこに出てくる Fragmented Industry や Sizable Market といった基準と非常に似通ったものだと思います。分散した市場であるものの、一定の規模があり、成長の余地がある業界ということになります。

Criticality
Do the companies operating in the industry generally offer mission-critical services? Look for difficult to replace services. Attributions of desirable search fund businesses – high margins, low churn, and contractually recurring revenues, to name three examples – are derivatives of a company’s ability to offer high-value products and services to its customers.

三つ目はその事業の重要性 (Criticality) となります。その事業が提供している価値は何らかの形でミッションクリティカルなバリューを提供しているか。代替が難しい事業を探すべきであると記載されています。高い粗利率、顧客離反率が低いこと、リカーリング収益があること、といった望ましい特徴は、その事業が顧客に対して高い価値を提供し代替が難しいことの証左であると書いてあります。

Penetration
Does the industry have a large number of underserved customers? Penetration is the most commonly underrated industry characteristic by searchers. An underpenetrated industry can be a fantastic place to buy a company, while a more mature space can present obstacles to growth. In many cases, penetration (or the lack thereof) goes hand in hand with industry growth.

四つ目はその事業の潜在顧客含めたマーケットへの浸透度 (Penetration) です。これはサーチャーによる業界分析において、見過ごされがちな点と記載されています。上記に業界内に成長余力があることという記載がありましたが、同じくまだ潜在顧客を含めたマーケットの中での浸透度が低い業界は、買収に非常に望ましい業界である、逆に成熟した業界はそれが成長の足かせになると記載されています。

The presence of high-quality business models
An industry can have fantastic fundamentals, but if it does not contain business models attractive for a search fund entrepreneur, it possesses little value for you. Thus, the last element of the Framework is the “Plus One”: the requirement for any industry you are examining to contain B2B models, recurring revenue, and high margin services businesses.

プラス1で最後の一つは、B2B、リカーリング収益、高い粗利率、のような、サーチファンドで買収するのに適したビジネスモデル上の特徴を持っていること、と記載されています。業界としてのファンダメンタルが優れていても、そこで買収する企業が上記のようなサーチファンドでの買収に適した基準を満たしていない場合、サーチャーにとっての企業の価値は限定的になってしまう、と記載されています。

今回、Pacific Lake Partners による、サーチファンドでの買収企業を探す際の業界分析フレームワークを紹介しました。上記にも記載の通り、以前私がまとめた サーチファンドにおける買収企業を絞り込むための手法 とかなり内容としては近いものが、別の言葉で記載されているという印象でしたが、実際に業界や企業選定の際に十分使えるフレームワークであると感じました。

以上、最後まで読んでいただき、ありがとうございました。