なぜ相続や終活が家庭内でタブー視されるのかを考えてみた

親子間での意見のすれ違い

家庭内で相続や終活を話題にすることは、避けられがちだと言えます。
親が積極的に終活をしているのであれば問題ありませんが、オープンに話ができない関係であればなおさらです。
親からすると「いきなり自分の死後の財産の話をするなんて、自分の死を望んでいるのではないか」と勘ぐってしまうこともあるでしょう。
極端な反応の場合「親を殺す気か!」と警察沙汰にもなりかねません。
一方で子供からすると、親がまだ元気でいる間に相続や終活の話をするのは、「親の心配をしているつもりでも、実は亡くなった後の財産に興味があると思われるのではないか」という不安があります。
このような感情の摩擦が、相続や終活の話題をタブー視させる一因となっていると考えられます。

親の経験不足が一因かも

そこで今回はその理由を相続税の観点から考察してみました。
親と子供の間のこの論点の違いは、親世代が自分の親から相続を受けた経験がない場合に特に顕著ではないかと推論してみました。
実際、相続税の基礎控除はそれまでは2000万円+法定相続人の数×400万円でしたが、昭和63年の抜本改正により4000万円+法定相続人の数×800万円、その後の数回の改正で平成24年には5000万円+法定相続人の数×1000万円まで引き上げられました。
つまり4人家族でお一人が亡くなって相続が発生した場合、基礎控除額は30年前には8000万円あったわけです。
基礎控除額内に相続財産が入っている場合は相続税の納付をする義務がないので調査票の提出で終了となります。
つまり基礎控除内で収まっている場合、相続税の申告をする必要がないため、相続という概念自体が家庭内で具体的な問題として取り上げられることが少なかったと考えられます。
また相続登記の期限も今年(令和6年)の改正まで事実上黙認されていたため、相続に対する意識がさらに薄れていたと考えられます。
このような背景が、親世代において相続についての具体的な話を避ける傾向を助長しているのではないでしょうか。

ちなみに私の場合は父が平成5年に亡くなって相続が発生しました。
土地があったため小規模宅地の控除を利用しない場合では基礎控除額内に収めることができなかったため、相続税の申告を行い、少額ですが納税もしました。
人が一人死ぬことで、どれほどの手続きが発生するのかを身をもって体験していますから、もし子供が遺産に関しての話をしたとしても歓迎こそすれ邪険にするようなことはありません。

自分は関係ない、では済まなくなってきています

平成6年までは基礎控除額は右肩上がりで、その後も高水準でした。
しかし、バブル期に高騰した地価が下落したことでの課税基準の見直しや少子高齢化による税収の減少、さらに消費税の引き上げ(税率5%から8%へ)による国民の不満の高まりを富裕層への課税強化で軟着陸させようとの狙いもあってか、平成25年の改正で基礎控除額は大幅に引き下げられました。
現在では3000万円+法定相続人の数×600万円となっており、昭和63年の抜本改正以前の水準まで下がっています。
例えば法定相続人が3名の場合、8000万円あった基礎控除額が4800万円まで下がっているので、少しでも不動産や金融商品を所有している場合は相続税の申告をする確率が高くなっていると考えられます。
実際、平成24年までは相続税納税者は全体の5%以下でしたが、平成25年からはその割合が8%を超えるようになりました。
つまり相続が発生した場合は相続税の申告や納税を意識せざるを得ない状況になっています。

自分ごととしての相続を考える時期にきています

これまでの話を総合的に考えてみると、今の65歳以上の親世代の方々が終活や相続に関して具体的かつ現実的に考えることが難しい理由が浮かび上がってきます。
まず、親と子供の間での避けようのない感情の摩擦があります。
その根底には親世代が相続を現実問題として経験していないことが大きな要因となっていると考えられます。
これにより、相続や終活の話題が家族内で取り上げられることは少なく、疑心暗鬼も相まってタブー視されることが多いのだと思います。

今後は11年前の相続税の基礎控除額引き下げの影響はもとより、今年から罰金が科せられるようになった相続登記の期限の厳格化など、相続を身近な問題として捉える必要性が高まるでしょう。
明るく前向きな家族内でのオープンな対話が促進されることが望まれますが、それには感情の摩擦を解消し、相続や終活をタブー視しない文化を育むことが重要です。
その第一歩として終活を前向きに捉えて、自分のためだけでなく家族のためにもなるエンディングノートの作成が効果的だと考えます。
そして人にやさしい文化が根付くことで、家族全員が安心して未来を見据えた計画を立てることができるようになると良いなと思います。

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