文献メモ「青年期における多元的な自己とアイデンティティ形成に関する研究の動向と展望」

参考文献:「青年期における多元的な自己と
アイデンティティ形成に関する研究の動向と展望」(木谷智子, 2015)
https://ir.lib.hiroshima-u.ac.jp/files/public/3/38994/20160129144411179618/BullGradSchEduc-HiroshimaUniv-Part3_64_113.pdf

引用

アイデンティティの探求とは

アイデンティティの問いに対する答えを模索する際には,「これまでのアイデンティティのすべての要素を最終的に集合し,そして規準から外れたものを放棄する作業がある(Erikson,1959)」とされている。

青年期におけるアイデンティティ形成について

つまり,青年期におけるアイデンティティ形成は,児童期まで,親や教師といった重要な他者の価値基準を通して構築してきた同一化群を,自らの価値基準で再構築していく必要に迫られる(溝上,2008)。(())

アイデンティティ拡散から抜け出すために

青年は,アイデンティティ拡散の混乱を抜け出すために,「思い切って自分でやってみる」といった形で社会的な遊びを通した役割実験を行うことになる(Erikson,1959)。

((コミットメント?広い探求?))

現代の青年のアイデンティティの多元性

役割において自分が異なることに対して葛藤を抱かず,「どれもがどれも本当の自分らしい(浅野,1999)」と複数の自分を並列させている。

多元的アイデンティティについて

多元的アイデンティティは「場面において異なる自己をもつこと,明瞭な自己意識をもつこと」と定義される。「多元的アイデンティティ」は自己の不明確感を持たない点で,従来言われていたようなアイデンティティの拡散状態とは異なるものであるされている。
(のちの素顔複数化型は多元的アイデンティティと同義である。)

(↑アイデンティティ拡散の状態とは異なる)

消費社会のアイデンティティに与える影響

消費社会になるにつれて,個人に与えられる役割は増加する。例えば,1人の個人に対して...多様な自己が含まれることにより,自己は多元的なものにならざるを得なくなる。Gargen (1991)はこのように,1人が多様な役割を持つことを「飽和した自己」として述べており,消費社会がもたらす多様な役割は,良くも悪くも自己の多元化に影響を与えると考えている。そしてこのような多様な役割を生きる人間にとって,自己は他者との関係性の中でのみ生じ,関係性の中で構築されるとされている(Gargen,1991)。
また,村瀬(1999)は,みんなが一同に乗るプレートは消失し,結果として人は自分だけの,ないしは自分を含む小さなコミュニティのプレートをいくつもつくり出しながら生きていかなければならなくなっていると指摘し,自己が関わる場所の増加だけでなく,自己が関わる場の分化を指摘している。自己が関わる場所や役割の増加と分化が,自己の多元化に影響していると考えられる。

((「分場」とでも名付けるか?))

プロテウス的人間(プロティアン)とは?

社会学者の Lifton(1969)は社会が消費社会へと変化していくにつれて複数の自己を持つプロテウス的な人間が増加することを示している。プロテウスとは,ギリシャ神話に出てくる変幻自在に変化する老人のことであり,場面に応じて自分を変化させるような在り方を示したものである。

自己の多面性のポジティブな側面

・ストレスイベントから生じる抑うつ感情に対する緩衝効果 (Linville, 1985, 1987) 。外的な出来事から受ける否定的感情に対しては,肯定的な影響を持つ。

⇔一方、アイデンティティの問題などの自己から派生する問題に関しては自己の多面性はネガティブな影響を持つ

日本人の持つアイデンティティの特徴

日本人の特徴として,他者関係に敏感で,周囲の意向に合わせて行動する傾向が強いことが挙げられる。そのような特徴のため,構造的な強さを持たないアイデンティティが形成される(鑪,1994)。

相互協調的自己観(interdependent construal of self)
→他者と互いに結びついた人間関係の一部として

自己を捉える
→日本を含むアジア文化に典型的

相互独立的自己観(independent construal of self)
→西洋に典型的

多様な役割の中でどうアイデンティティを形成していくかが重要となり,多元性とアイデンティティの統合をどう結び付けて理解していくかが重要。

複雑化した社会におけるアイデンティティの形成の2重プロセス

①特定領域における自己定義の形成
②特定の自己定義間の葛藤・調整という意味での統合形成

人によっては自己定義間の葛藤を抱きながらも,とりたてて第二のプロセスに移行して調整せず全体のアイデンティティ形成となることもあるが,人によってはそこから第二のプロセスを加えて徐々に全体のアイデンティが形成されることもあると述べられている。辻(2004)が述べるような多元的アイデンティティは,第二プロセスに移行しない状態におけるアイデンティティ感覚とも捉えられるだろう。(溝上、2008)

今後のアイデンティティ研究に関して

今後のアイデンティティ研究においては,アイデンティティ形成の共通項を見出すだけではなく,多様なアイデンティティ形成のプロセスを見出していくことが重要。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?