ワタクシ流業界絵コンテ#04

 どうやら演出をやる人は絵コンテというものを描くらしい──最近は普通の人でもかなりの数が、このような事を知識として理解しているようでなかなか油断がなりません。絵コンテとは、簡単に言うと脚本とフィルムの橋渡し、様々な作業の目安になる設計図のようなものです。絵コンテが出来たら演出家はそれに基づいてアニメーターと打ち合わせをして画面設計と演技プランを再確認。以降、美術、色彩設計、撮影など各セクションと打ち合わせ。編集の後、音響監督と話し合いながらのアフレコ、ダビング。更には現像所でフィルムのカラータイミングについて担当者と打ち合わせです。何だか打ち合わせが多いなあと思った方は実に鋭い。アニメの演出というのは打ち合わせに限らず、己の内にある理想の映像に現実を近づけるためにひたすらコミュニケーションするのが仕事です(オオ、カッコイイ)。とはいえ、単なるおしゃべりを楽しむのならいざ知らず、人に自分の考えを伝えるというのはかなりエネルギーを使います。打ち合わせはもとより、他のセクションの人と電話で連絡事項を確認することすら苦痛な場合もあるでしょう。前号で触れた、TVアニメ独自の「制作システム」というヤツは演出にとっても都合のいいものでした。絵コンテさえキチンと描き上げれば、あとはそれを見て各セクションそれぞれの良心と技術にかけて極上のフィルムをあげるべく奮闘してくれる──演出は極端な話、右から左へと交通整理のみに努めていればいいわけです(実際においては交通整理も結構大変なのですが)。
 デジタル化の影響でその辺りの阿吽の呼吸にリセットが掛かってしまいました。アニメ畑ではない、〝外〟からやって来た人たち(主にCG関係)には、以前のような馴れ合いは通じません。
「じゃあ、ここよろしく」
「よろしくとは、どの位なのでしょうか? 具体的な数値なりイメージがあると助かるのですが……」
「あ。(カンガエテナカッタ……)」
 作業効率的には、以前に比べると融通が利かなくなった分、悪くなったと言えるでしょう。ですが、それは一時的なモノです。右から左に交通整理だけに専念するのが演出の仕事ではありません。融通が利かない、といってもきちんと演出意図を伝えれば相手は動いてくれるわけです。事実、テキパキとナイスな指示出しをしてデジタルならではの効果的な画面作りを生み出している演出家もいます。そういう人が仕切る現場は、スタッフ一人一人のスキルが見る間に上がっていくので、最近では
「ここ、こうやってみたんですが……」
「じゃ、あとよろしく」
 という会話が再びされているようです。
 ここで前々回の監督さん再度登場。
「そういう人はいいけどさ、これから口ベタな演出家は苦労するよなァ」
 確かにその通り。しかし、これで口ばっかり達者な演出家が増えてもそれはそれで困るような気もしますね。

NHK出版『放送文化』2000年7月号掲載


読んで下さってありがとうございます。現在オリジナル新作の脚本をちょうど書いている最中なのでまた何か記事をアップするかもしれません。よろしく!(サポートも)