ワタクシ流業界絵コンテ#02

 コンピューターでアニメを作る、いわゆるデジタル化というやつがここ2、3年急ピッチで進んでいます。計算機としてのコンピューターがアニメ制作に使われたことはかつてもありました。ただし、それは座標計算を動画制作に応用しようとするものでした。モノの動きというものはそんな杓子定規にはいきません。結果は、まぁ、ハッキリ言って使えなかったわけです。無機質なコンピューターの作画を逆に狙いとして使用した作品もありましたが、それは海外の個人作品レベルのもので、日本の、ましてや〝産業〟としてのTVアニメ界への本格導入はずっと見送られてきたのです。
 それは突然やって来ました。国内でのセルの生産が全てストップ(といっても一社だけだったのですが)するというのです。セルが無ければセル画が作れない──セルアニメによって週何十本ものアニメ番組を作っているのですから各製作会社も大慌てです(幸い、外国産のセルが確保できたのでパニックにこそなりませんでしたが)。折りからキャラクターの色塗りから撮影までをパソコンで処理することの出来るシステムが開発されましたが、機器並びにソフト一式をそろえるとなると下請けの制作会社にとってはかなりの出費です。しかし、そこに神風と言おうかパソコンの低価格高性能化の波が……。
「コンピューター? 金かかるんでしょ」と渋っていた会社の社長さんもデジタル化を真剣に考えるようになりました。テレビ局への納品もフィルムではなくビデオが主流です。だったら全てをデジタルベースで作業を進めれば効率も上がるし省力化も図れる。それに「デジタル!」と謳えばアニメ業界のイメージアップにつながるし新しい人材もどんどん入ってくる──そこまで考えてのことかはわかりませんが、一気にデジタル化の炎は燃え上がったのでありました。が……
「デジタル、大変だよねえ……」
 先日、知り合いの監督さんと話した際に出た話題──
「いろんな人が入ってきたのは刺激になってイイと思うんだけどさ、アニメを知らない人と話し合って仕事してもらわないといけないのって疲れるよ」
〝アニメ〟を知らないと言っても別にTVで流れている番組をエアチェックすべし、とかアニメビデオを借りて見ろ、とか所謂アニメのマニアになりなさいということではありません。アニメの特質、方法論。要はアニメを〝作ること〟を好きになって下さいということです。ただその辺りは経験を積むしかないので叱咤激励、胃の痛い思いもやむを得ず。
「いや、それはいいんだけど……如何に僕たち演出家がセルアニメーションのシステムの上に胡座をかいてやってきたかを思い知らされちゃってねえ」
 むむ、セルアニメのシステム? 胡座? ここがこの話の肝なのですが、ちょうど行数も尽きてきて……というわけで、この続きはまた来月。

NHK出版『放送文化』2000年5月号掲載


読んで下さってありがとうございます。現在オリジナル新作の脚本をちょうど書いている最中なのでまた何か記事をアップするかもしれません。よろしく!(サポートも)