高円寺酔生夢死 第03回

 今年のこの季節がやって来た。花粉症?いや、新装開店の季節である。『トルネードベース版・拾伍の巻』にも書いたが、大抵不動産の更新時期が三月辺りであり、前の月或いは前年に閉店した物件に、内装業者が忙しく立ち働くのがこの時期だという事だ。

 以前は「高円寺は地元の人たちの比重が非常に大きい」と書いた。これは三年前の時点での認識であるが、ここ最近、何やら状況が変わってきている。まず、店構えが明らかに異なる雰囲気の所が増えてきた。こだわりの輸入品を揃えた雑貨屋や特定の海外ブランドに拘った古着屋など、何だか「明るい」のである。たまに店の方から話を聞くと、渋谷や下北沢でお店をしていたけれど、面白そうだから高円寺にやって来たという方が意外に多い。「渋谷は再開発が進むし」「下北沢は学生の街になってしまったので」とか理由は色々あるようだが、一様に「高円寺は古くて新しい街だ」と言う。「えー、高円寺なんて日本のインドじゃないか」と住んで数年、高円寺に馴染んだ人間ならそう思うかもしれない。しかし、馴染んでいるからこそ見落としている事が沢山ある。

 普段通い慣れた、歩き慣れた所が、その街の『今』では無い。そう言えばわかっていただけるであろうか。狭いようで高円寺だって実は広い。自身の活動範囲がそのまま街の全てでは無いという事だ。ここ二年あまりで、カメラを持ってぶらぶらと歩いている男女がずいぶん増えた。そういう子達は、通勤や通学で疲れて住人が気付かない街の今を、軽やかに鮮やかにファインダーに切り取る。かくして街の今を『外』の人間が先に知るという皮肉。

 とりわけ最近、南口ルック商店街の雰囲気がいい。看板建築が立ち並び、お世辞にも新しいとは言えない街並みであるが、前にも書いた新しい店々が、古びた雰囲気を一新している。正に古くて新しい趣き。週末休日にやって来る人々も増えた。ラーメン横丁の影響もあるかもしれないが、あきらかに目的は南口のカフェや古着屋などを見て歩く事を楽しむために来ている人も多いのだ。ここに至ってあらためてこの街の『今』に気付いた住人も多いのではないだろうか。「そんな事今までもあったじゃない」「変わってない変わってない!(笑)」そう思うのも自由である。住んでいる人間がどう思おうとも、気付かぬうちに街は装いを変えていく。「それでも街は廻っている」のだ。

 ただ、良い事ばかりではない。昼にやって来る人達が、そのまま夜も高円寺で飲もうと思ってくれるかというと決してそうではないのだ。あたかも引き潮の様に人気の無くなった飲み屋街では途方に暮れる店主の姿も時折見かける。そんな店の中にはランチ営業や開店時間を早めたり、色々対策を練っているようだが、どうなるかは阿波踊りが終わった辺りでないとわからない。その辺りも含めて楽しみである。筆者が高円寺に居を構えたのは「廻っていく」街を見届けようと思ったからなのかもしれない。

 今回は、話題が全くアニメと絡まなかったが、前回がアニメ話全開だったので、まあ勘弁──

(2010年4月1日公開)

※後述

かくして六年後、高円寺では様々なカフェが出来ている。昼飲み可能な立ち飲み屋やクラフトビールの店も数多く、何より様々な国のお客が増えた。相変わらず街は「廻っている」。

「それでも街は廻っている」というフレーズは、ちょうどこの頃にモーレツ宇宙海賊の収録が開始されており、マミ役の小見川千明さんが同名の漫画(こちらは「街」ではなく「町」)のヒロイン役に決まっていたのでその影響だと思われる。

読んで下さってありがとうございます。現在オリジナル新作の脚本をちょうど書いている最中なのでまた何か記事をアップするかもしれません。よろしく!(サポートも)