ワタクシ流業界絵コンテ#08

 さて、途方に暮れてもフィルムは出来上がるモノではありません。8月より作業が始まって約4ヶ月、11月には『がきデカ』はフィルム初号を迎えました。余裕のなかったその頃ですので、何をどうやって演出チェックをしていたのか全く憶えておりません。とにかく一生懸命に机に向かっていたとは思うのですが、訳の分からぬままにそれらしく台詞の間を変えたり、カメラワークを変えたり──まぁ、撮影するための素材を揃える作業(〝撮出し〟といいます)が「何か俺、仕事してるなあ」という気にさせてくれたので、それなりにやり遂げた気でいたのです。しかし、そんな思い込みは初号フィルムで微塵にも砕かれ、がっくりと落ち込んでしまいました。実はギャグに関しては当時、自信があったのです。他のギャグ作品を見て「つまんねえなァ、滑ってるなァ」と思っていた僕は、自分が演出になったらすぐにも〝名作〟を連発して売れっ子監督まっしぐらだねえ、などと生意気なことを思ってはほくそ笑んでいたわけです。その当の僕自身の作ったフィルムが正に、「つまんねえなァ、滑ってるなァ」という代物…だらっとした流れはメリハリも無く、役者さんの熱演もイマイチ浮き気味です。作画は決して悪い上がりではありません。つまりは僕の演出がまずかったというのは明白でした。先輩演出家にも「コンテの方が面白かったねえ」と言われて更にガックリです。
「まぁ、それなりに面白かったから最初はいいんじゃないの。その内色々わかってくるよ」という励ましの言葉も戴きましたが、その本当の意味が実感として解ってくるのはもうしばらく後のことでした。
 ところでTVアニメの場合、一本作ったら次のフィルム、ぶつ切りなスケジュールで進むことはありません。それでは毎週放映など厳しいスケジュールでは夢のまた夢です。かくして演出処理をやりながら次のフィルムの絵コンテを描くなどして、前後の仕事とダブる感じでスケジュールを立てていきます。新米とはいえ、僕も何本か他社の作品の絵コンテをやりながら『がきデカ』の演出処理をしていたのですが、フィルムもそろそろラッシュが上がろうかというとき、プロデューサー氏から
「来年の新番組『ちびまる子ちゃん』のローテーションに入るように」と言われました。その頃はまだ、『がきデカ』初号前だったので、自信満々。早速原作を読んでみるとこれが面白いのです。「これは巡り合わせなのかもしれない」と思い上がるまでに至った僕は六話を担当することになり、絵コンテのための打ち合わせに臨みました。
「原作者のさくらももこさんは佐藤君と年がほとんど同じらしいからこの作品はピッタリかもしれないね」
須田裕美子監督からもそう言われてまんざらでもない僕は、さあどうだ、とばかりに絵コンテを描き上げました。しかし、監督から言われた言葉は…
「最初から描き直し」   (つづく)

NHK出版『放送文化』2000年11月号掲載


読んで下さってありがとうございます。現在オリジナル新作の脚本をちょうど書いている最中なのでまた何か記事をアップするかもしれません。よろしく!(サポートも)