ワタクシ流業界絵コンテ#07

 かくして初演出作品が決まったわけですが、その原作である『がきデカ』というギャグ漫画についてちょっと説明させていただくと、1974年より週刊少年チャンピオンに長期連載された人気作品であり、「死刑!」「八丈島のキョン!」等の流行語を生み出したことでも有名──まぁ、当時を御存知な方にとっては言わずもがなのことでしょう。1989年当時、『がきデカ』を初めとする昔の人気漫画をアニメ化しようという動きが各所にありました。僕の所属していたアニメ制作会社もそのうちの一本を請け負ったわけです。TV放送以外にも、ビデオ市場(セルorレンタル)を見越した作品作りも注目され始めた頃なので、とにかく売れそうなものは何でも出しちまえ、という勢いに任せた企画だったのかもしれません。何はともあれ、これは願ってもないチャンスでありました。
 演出というと、まずしなければならないのことは脚本を読み込み、〝絵コンテ〟なるものを作ることです。7月号にも書きましたが、絵コンテというのはシナリオを基礎として各場面(カット)の区分・構図・位置・動き・台詞などを詳しく記し、各セクションの作業の指針にするものです。更に具体的に言うと、コマ漫画のような絵の連続にト書きが書き添えられたもの、という感じでしょうか。この場合描かれる〝絵〟というのはピンから切りで、そのまま原画に出来るのではないかと言うぐらいにキチンと完成された構図とデッサンによって描かれたものから、それこそ丸チョンの、殴り書きのようなものまで絵コンテを描く人によってそれぞれです。ト書きにしても心情表現に音響演出辺りまで細々と書き込まれたものから、キャラのせりふ位しか書かれていないものまで人それぞれ。TVアニメが漫画の原作を下に始められた経緯があるため、絵コンテを漫画のようなものと勘違いする人がよくいるのですが、作業表としての役割を考えた場合、これが正しい絵コンテの描き方、というものはありません。要は描き上げた後の実作業がいかに円滑に、自分の考えた演出プランを各セクションに理解してもらえるか、そして更によりよいものにフィルムを仕上げて行くことが出来るかが勝負なわけですから。僕自身、具体的に絵コンテはこう描け、みたいな〝教え〟は今まで殆ど受けずにやって来ました。動画をやっていた頃に覗き見ていた担当作品の絵コンテやらスタジオに転がっていた昔の作品の絵コンテを参考に「おそらくこんなものかな」と描き始めて十年余、といった感じです。今では他の演出の方の絵コンテをチェックしたり、場合によっては描き直したりする身分になりましたが、『がきデカ』の頃は正に初めて。演出を「やれ」とは言われたけれど「こうやれ」と言われたわけではありません。今にして思うと最上の〝鍛え方〟だったと思うのですが当時の僕にしてみればやる気半分、途方に暮れるのが半分でした。 (つづく)

NHK出版『放送文化』2000年10月号掲載


読んで下さってありがとうございます。現在オリジナル新作の脚本をちょうど書いている最中なのでまた何か記事をアップするかもしれません。よろしく!(サポートも)