高円寺酔生夢死 第02回

「お前、気が利いていないなあ」とか「気ィ利かせろよ!」なんて声をごった返す飲み屋で聞いた事がある人もいるだろう。店が客に対して気を利かせるというのは接客業だから当然とはいえ、酔って無体な事を言うお客に対して、あくまでも『お客様』として会計を済ませるまでは我慢をしているお店の人はエライと思う。更には、そんな迷惑なお客を相手にしつつ、他のお客が不快に思わないように上手く仕切るマスターや女将、店長に店員…そんな神業を間近に見た日には「いいもの見たなあ」と酔いも進み、気分も朗らかになる。

 ではその逆、『気の利く』お客というのはいるのだろうか?

 答えは「いる」、或いは「そうなる事もある」としておこう。例えば些細な事。カウンターで一人客がバラバラに飲んでいるとする。そういう時は大抵席を一つおきにしている場合が多いので、空席はあるが漫然と埋まっている。そこへカップルが一組やって来た。店員に促されることなく、自ずから客達が腰を上げて席を詰めてスペースを作る。これは初歩の気の利き方である。

 例えば、店が満員でオーダーも滞りそうな気配。そこへ一人の客が煮込みをオーダー。すかさず他の客も「俺も煮込み」「俺も!」と便乗オーダー。集中して迷惑と思いきや、これは忙しい店にとっては大助かり。お客も比較的オーダー待ちをしなくてすむしで有る意味ラッキー。但し、それは店のオペレーションや規模にもよる。かえって店員がテンパってしばらく何も出てこない事もあるだろう。その辺り、ちょっとした観察力と想像力が必要になってくる。自分も気分がイイし、他人も気分が良さそうだ、その場の雰囲気もイイ感じ…そんな『場』の雰囲気がイメージ出来ないと、『気が利く』お客への道は遠いだろう。

「面倒くせえ、そこまでしないといかんの?」

 文章で書くと確かに面倒くさそうだが、本当にちょっとした事だ。別に店に媚びろなどと言っているわけでもない。変に腰の低いお客もかえって周りが気持ちが悪いだろう。ほんの少し、心のゆとりを持つと、何より自身がいい気分で飲めるというだけのことだ。しかし、いい気分になるというのが肝心で、次に飲むときの指針になる。以前のイメージを覚えているからこそ、席を詰めたり、背後に人が通りやすいように身を引く事が当たり前に出来るだろう。飲む時くらい自分の勝手に飲ませろや、テメエの金で飲んでるんだからさ、と思われる向きもあるだろうが、他人の気分を害して飲んでいると、廻り廻って自分に返ってくる。それがどういう形であれ、何時になるかはわからない。だが、そのしっぺ返しは確実に気分の悪い事請け合いである。

 例えば、飲み屋をアニメのファンイベントに置き換えればわかりやすいだろうか。楽しむためにやって来た挙げ句に出禁になってスゴスゴ帰っていくのは非常に寂しい。お店にしてもお客の諍いをみるのは結構落ち込むものだ。チェーン店ならドライに処理できるかもしれないが、意外とこじんまりなアニメ業界、なかなかそうも割り切れない。

(2010年3月1日公開分)

読んで下さってありがとうございます。現在オリジナル新作の脚本をちょうど書いている最中なのでまた何か記事をアップするかもしれません。よろしく!(サポートも)