あなたへ向けた日記 No.9

10年前の自分へ

3月11日。君は地元の映画館で映画を見ているだろう。

忘れもしない,あの日は金曜日だった。友達と映画館で映画を見ていた。戦争の映画だったな。いいところで,ゆらゆら揺れ始めて,ずいぶん長いなと思っていたら停電になった。

当時,スマホ持ちは今ほど多くなかった。iPhone3GSを持っていた君は,とっさに地震速報を確認していた。大学の研究室で地震学を学んでいた君ならとっさにわかっただろう。三陸で起こった地震にしては揺れが大きくて長いなと。

今から数日間,君は不謹慎ながら言いようのない高揚感を抱くだろう。自分が勉強している地震学。まさにその学問の力が生かされる。一般の人がニュースを見て,難しいだなんだと言っていることは,今の君には簡単すぎるほど初歩的な知識だ。地震はプレート境界で起こった。すべりが海底に変動を起こして,それが津波になった。知っている。講義で聞いたとおり。

果たしてその知識が、どれくらい役に立つか、立たないか。これから嫌でも実感するだろう。

10年後、君は素敵な奥さんと息子と、3人で暮らしている。3人で住むマンションも買った。早く引っ越したいと毎日ワクワクだ。その家が地震に耐えられるかどうか、どこに住めば良いか、そういう事を判断する一助くらいにはなる。

君が思い描いていた将来はどんなだっただろうか。もっとバリバリの研究者になりたかったかな。ごめんよ、そんな力はなかったんだ。

でも、自分の周りの大切な人を守るくらいの知識にはなる。そして、それで十分だと思う。それで、いいと思う。

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