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きゃりーぱみゅぱみゅ『現代の日本文化を音と映像で切り取るアーティスト』(前編)人生を変えるJ-POP[第27回]

たったひとりのアーティスト、たったひとつの曲に出会うことで、人生が変わってしまうことがあります。まさにこの筆者は、たったひとりのアーティストに出会ったことで音楽評論家になりました。音楽には、それだけの力があるのです。歌手の歌声に特化した分析・評論を得意とする音楽評論家、久道りょうが、J-POPのアーティストを毎回取り上げながら、その声、曲、人となり等の魅力についてとことん語る連載です。

今回は、きゃりーぱみゅぱみゅを取り上げます。2021年、デビュー10周年を迎えた彼女は、今年、アメリカを始めとする海外4カ国7都市のワールドツアーを開催中。多くの海外ファンに支持される彼女の魅力と中田ヤスタカが彼女のためにプロデュースする世界に迫りたいと思います。

読者モデル、ブロガー、そして芸能界デビュー

きゃりーぱみゅぱみゅ(以降、きゃりー)は、1993年生まれの今年30歳。高校時代は、原宿ファッションの読者モデルとして雑誌に掲載されたり、アメーバブログで独特の言葉回しや写真のセンスなどで人気を博し、芸能人を抑えてランキング1位を取るようなブロガーでもありました。

そんな彼女が音楽界にデビューしたきっかけは、友人のフィッティングについて行った場所がイベント会社のアソビシステムで、中田ヤスタカのイベントに誘われたことだったと言います。

たまたま中田ヤスタカのイベントに出場する高校生DJを探していたアソビシステムの社長中川が彼女に好きなアーティストの名前を聞き、彼女が中田ヤスタカの名前を出したことから誘われたのでした。

実は彼女は、当時、中田ヤスタカの音楽ユニットCAPSULEを父親から勧められてよく聴いていて、とても好きなアーティストだったとか。その本人のイベントに誘われたことを非常に驚いたと言います。

こうやって彼女は、『TAKENOKO!!!』というイベントで芸能界デビューを果たしました。その後、中川は、彼女のプロデュースを中田ヤスタカに依頼。高校卒業後の2011年8月にミニアルバム『もしもし原宿』でメジャーデビューしました。(Real Sound/2021.11.16)

このアルバムに収録されている『PONPONPON』のMVをアルバム発売に先駆けてYouTubeで配信したところ、海外でも動画が拡散され、注目されるようになります。

翌2012年に発売したフルアルバム『ぱみゅぱみゅレボリューション』はオリコンや世界各国のiTunesのエレクトロチャートで1位を獲得し、エレクトロポップ歌手として一躍有名になりました。

また、この年には「第54回日本レコード大賞」の特別賞を受賞。NHK紅白歌合戦に「紅白2012きゃりーぱみゅぱみゅメドレー」として『ファッションモンスター』『つけまつける』の2曲を披露し、多くの人に自身の存在を印象づけました。

世界中が目を離せない存在として、ワールドツアーも大成功

デビュー後、非常に順調な滑り出しを見せた彼女は、2013年、8ヶ国13都市で初のワールドツアーを開催し成功を収めます。また翌2014年に2度目のワールドツアーを行うと共に3rdアルバム『ピカピカふぁんたじん』では、欧米を始め、世界15ヶ国(地域)で同時発売をしました。

その後、デビュー5周年の2016年、さらには2018年にもワールドツアーを開催し、日本国内だけでなく世界中にファンを持つアーティストとして成長したのです。

コロナ禍の2020年、レディー・ガガが国際女性デーを祝して公開したプレイリスト「ウーマンオブチョイス」には、きゃりーの『CANDY CANDY』が選出され、世界で力強い女性の1人に選ばれたりもしました。

このように、彼女は、デビュー当初より、日本だけでなく、世界をターゲットに活動してきたアーティストと言えるでしょう。

デビュー当時の彼女のイメージは、パステルカラーやピンクを基調としたワンピースにハイトーンな髪、そして頭には大きなリボンがついている、という、まさに、世界に「kawaii」を発信した原宿系のポップな衣装を着たポップアイコンとしての存在でした。

特に、デビュー当初の2012年頃は、原宿系ファッションの全盛期でもあり、読者モデル出身の彼女は、ミュージシャンであると共に、彼女が選ぶファッションや小物などのアイテムが非常に注目されるインフルエンサーとしての影響力も持っていたのです。

この彼女のキャラクターイメージは、中田ヤスタカの優れたプロデュース力によるものと言えます。

無類の天才プロデューサー中田ヤスタカ

中田ヤスタカは、テクノ・ポップのPerfumeをプロデュースしていることでも有名ですが、きゃりーももちろん、全曲を彼が担当しプロデュースしています。

彼女は、「中田ヤスタカに出会っていなかったら、今の自分はいない、彼がプロデュースを辞めたら、自分も辞める」と発言するほど、彼の世界観に信奉しています。

10代で芸能界にデビューし、下積み生活を全く経験することなく、今のポジションを築いた彼女にとって、中田は、「人生のパイセン」と呼ぶほど影響を与えた人物なのです。 (Real Sound/2021.8.29)

中田が作り出したきゃりーのイメージは、J-POPの中でも特別なものと言えるかもしれません。ポップで「kawaii」という彼女のキャラクターは、その衣装や大きなリボンという外観によって、アイドルと称されがちですが、彼女自身も言うようにあくまでも「アイドルではなくアーティスト」という位置づけなのです。

つまりは、彼女はどんなにその外見がポップで「kawaii」イメージであっても、中身はしっかり歌って踊れるアーティストである、ということなのです。

「聴かせる音楽」と「見せる音楽」

元来、J-POPは、ソロであってもバンドであっても、「歌って聴かせる」ということが主流の音楽です。

昨今の韓流ブームの中心的存在であるK-POPが「見せる音楽」であるのに対し、J-POPは「聴かせる音楽」ということが言えるでしょう。

これがJ-POPアーティストが何十年も活動を続けられる1つの要因です。楽曲そのものがしっかりした歌唱力、いわゆるボーカリストの力というものを要求する音楽作りになっているのが特徴なのです。

この特徴は、近年、増えているボカロ音楽にも言えることで、どのようなジャンルの楽曲であっても、それを歌うボーカリストの高い能力を要求するのがJ-POP音楽の共通の特色と言えるでしょう。

「見せる音楽」よりも「聴かせる音楽」作りを重視してきたJ-POPでは、MVというものにそれほどの重要性を見出さず、映像も凝った作りのものが多かったとは言えません(近年は凝った傾向が増えています)

これに対し、「見せる音楽」を重視したK-POPは早い段階からMVに非常に力を入れてきたと言えます。ことばが通じなくても、音楽とパフォーマンス、そして映像美で強いメッセージを伝えるMV作りに力を入れてきました。その結果がBTSの世界的ブレイクにあるように、韓国語の曲であっても欧米で人気を得られた理由と考えます。

中田ヤスタカのプロデュースの仕方も全くこれと同じことが言えるように思えるのです。

Perfumeにしてもきゃりーにしても、彼が作り出す世界は、アーティスト自身に強烈な個性を与え、徹底的にキャラクター化し、そのキャラクターが画面の中で作り出す世界を映像で伝えることに力を入れていると言えるでしょう。

例えば、Perfumeは、エフェクト(加工)した歌声と高いダンス力で日本のアイドルには見られなかったキャラクターを作り出し、彼女達をいわゆるアイドルからアーティストへと転換させ、映像と音楽が一体化したテクノポップの世界の魅力を伝えています。

また、きゃりーには、彼女が築いてきた原宿ファッションリーダーとしての特色をさらに強化し、2.5次元的キャラクターとおもちゃ箱をひっくり返したようなカラフルな色やグッズ、アイテムに溢れた映像を発信することで『kawaii』を世界中に広める伝達人としての役割を担っています。

このJ-POPの「聴かせる音楽」に「見せる音楽」をプラスした世界がPerfumeやきゃりーが海外で高い評価を受けている要因と考えます。

特にきゃりーの場合は、早くから海外で高評価を得てきました。現代の日本文化の強みである「アニメ」と「キャラクター」という2つの世界が彼女のイメージにピッタリ合致し、デビューわずか3年目にしてワールドツアーを成功させることが出来た理由と言えます。

では、その中田ヤスタカが作り出す世界は、それまでのJ-POPと何が違うのでしょうか。単に「見せる音楽」と「聴かせる音楽」という二つの視点からの違いなのでしょうか。

そのことについては、後編で詳しく書きたいと思います。また、きゃりーのアーティストとして優れた点や歌声の魅力についても分析したいと思います。


久道りょう
J-POP音楽評論家。堺市出身。ミュージック・ペンクラブ・ジャパン元理事、日本ポピュラー音楽学会会員。大阪音楽大学声楽学部卒、大阪文学学校専科修了。大学在学中より、ボーカルグループに所属し、クラシックからポップス、歌謡曲、シャンソン、映画音楽などあらゆる分野の楽曲を歌う。
結婚を機に演奏活動から指導活動へシフトし、歌の指導実績は延べ約1万人以上。ある歌手のファンになり、人生で初めて書いたレビューが、コンテストで一位を獲得したことがきっかけで文筆活動に入る。作家を目指して大阪文学学校に入学し、文章表現の基礎を徹底的に学ぶ。その後、本格的に書き始めたJ-POP音楽レビューは、自らのステージ経験から、歌手の歌声の分析と評論を得意としている。また声を聴くだけで、その人の性格や性質、思考・行動パターンなどまで視えてしまうという特技の「声鑑定」は500人以上を鑑定して、好評を博している。
[受賞歴]
2010年10月 韓国におけるレビューコンテスト第一位
同年11月 中国Baidu主催レビューコンテスト優秀作品受賞