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緑黄色社会『さまざまな色が混在し合うことで一体化する音楽の世界』(前編)人生を変えるJ-POP[第34回]

たったひとりのアーティスト、たったひとつの曲に出会うことで、人生が変わってしまうことがあります。まさにこの筆者は、たったひとりのアーティストに出会ったことで音楽評論家になりました。音楽には、それだけの力があるのです。歌手の歌声に特化した分析・評論を得意とする音楽評論家、久道りょうが、J-POPのアーティストを毎回取り上げながら、その声、曲、人となり等の魅力についてとことん語る連載です。

今回扱うのは、男女混合の4人組ポップ・ロックバンドである緑黄色社会。昨年のNHK紅白歌合戦で歌ったことで記憶にある方も多いのではないでしょうか。結成11年目、メジャーデビューして5年目というバンドですが、独特のサウンドを持ち、若い世代から絶大な人気と支持を受けています。彼らの作り出すサウンドの特徴や、楽曲作り、また、ボーカルを担当する長屋晴子の歌声の魅力についても書いていきたいと思います。


そのユニークなバンド名はどこから?

緑黄色社会は、その字の通り、「りょくおうしょく社会」と読みます。メンバーは、ボーカルとギター担当の長屋晴子、ギターの小林壱誓、キーボードのpeppe、ベースの穴見真吾の4人で、コーラスは長屋以外の全員が担当しています。

このように、それぞれの持ち味を十分に活かしながら、全員で音楽を作り上げるというコンセプトのグループと言えます。また、ドラムスがないという珍しい形態になっています。

このバンドは、元々、高校入学以前からSNSで知り合いだった長屋と小林が高校生になったら一緒にバンドを組もうという気持ちで、同じ高校に入学。その後、たまたま入学式で出会ったpeppeに声をかけ、2012年に同級生3人(長屋、peppe、小林)と小林の幼馴染を加えた4人で結成されました。

バンド名の「緑黄色社会」に深い意味はないとか。いつも長屋晴子が飲んでいるジュースの名前を元メンバー(ドラムス担当)が尋ねたところ、「緑黄色野菜」と答えたのを、「緑黄色社会」と聞き間違えたとか。

もともと、バンド名を考えるのに「日本語表記というか、漢字表記の名前がいいよね」という話をしていたとのこと()そういう軽い気持ちでついたバンド名のようですが、非常にインパクトのある名前で、通称「リョクシャカ」と呼ばれています。(以降、ここでもリョクシャカと表記します)

一気に知名度を上げた紅白歌合戦

彼らは、2018年、HERE、PLAY POPから1stフル・アルバム『緑黄色社会』を発売、同年ミニアルバム『溢れた水の行方』をEpicレコードジャパンから発売し、メジャーデビューしました。

2020年に発売された2ndアルバム『SINGALONG』収録の『Mela!』は、ストリーミング再生数が2億回を突破し、彼らの代表曲になっています。これらの順調な活躍によって、2022年年末の「NHK紅白歌合戦」に『Mela!』で初出場を果たしたのです。

紅白歌合戦では、白組の郷ひろみとの対抗で長屋晴子の伸び伸びとした歌声と共に記憶にある方も多いのではないかと思います。長屋晴子のパワフルで飛び抜けた歌唱力は、このグループの存在感を一気に多くの人に示したと言えるでしょう。

1つのグループに多彩なジャンルの音楽が存在するという奇跡

高校時代の同級生3人と幼馴染みというグループ構成は、彼らの音楽作りにも生きています。それは、リョクシャカの楽曲は、全てメンバー全員の総意で作っているということ。

4人で話し合いながら作るという楽曲は、高校時代の軽音楽部のノリのような、皆でワイワイ言いながら1つの曲を完成させていくという流れが彼らの中に自然にあることがわかります。

普通は、バンドの中で1人が作詞も作曲も担うか、作詞と作曲のメンバーがいて、役割が固定されているのですが、彼らの場合は、曲によって、歌詞を作るメンバーや曲を作るメンバーが変わったり、2人ずつで担当したり、さらには、全員が話し合いながら1曲を作っていく、という共同作業によって音楽が作り上げられていくのが特徴です。

そうやって、それぞれの音楽が混ざり合って、さまざまな音楽を醸し出しているのがリョクシャカというバンドなのです。

その為、音楽のジャンルは実に多岐に渡っています。ポップスはもちろんのこと、ジャズもあれば、ヒップホップの要素もある、バラードもあれば、ロックもある、R&Bもあるというように、実に多彩な音楽の世界が繰り広げられていきます。

このように、1つのグループの中で音楽のジャンルがいくつも存在しているというのは珍しく、ロックバンドであるなら、ロックを中心とした楽曲になり、決してポップスやR&Bなどの違うジャンルを演奏するということはないという常識を超えた音楽作りがなされているのです。

これは、リョクシャカというバンドのイメージを固定化しないことに非常に有効だと言えます。すなわち、リョクシャカの音楽というのは、多種多様、雑多な音楽の世界で、そこからさらに新しい発展を見せていく、今後どのように、発展していくか予想がつかないという可能性を秘めたものになっているのです。

どの楽曲にも通じる清涼感

例えば、2018年にメジャーデビューしたときのミニアルバム『溢れた水の行方』には、6つの楽曲が入っていますが、『サボテン』や『Bitter』『リトルシンガー』などはポップテイストの曲であるのに対し、『Never Come Back』は完全にロックテイストの楽曲であり、まるで異質な音楽を放っています。

2020年に発売されたテレビアニメ「僕のヒーローアカデミア」のエンディングテーマである『Shout Baby』は、非常にリズミカルでアップテンポなロックの強さを持った曲ですが、その楽想はポップステイストです。

リョクシャカの場合、どんなジャンルの楽曲であっても、そのアレンジによってポップステイストを漂わせてくる、という独特のアレンジャー力を持つように思います。

これが、彼らがどんなジャンルの曲を作っても、清涼感のある音楽に仕上がってくる要因なのではないかと感じるのです。
その清涼感の大きな要因に、長屋晴子の歌声とそれを支えるサウンドがあると感じます。

後編では、ボーカリスト長屋晴子の歌声の魅力と彼らの独特のサウンドについて書いていきたいと思います。


久道りょう
J-POP音楽評論家。堺市出身。ミュージック・ペンクラブ・ジャパン元理事、日本ポピュラー音楽学会会員。大阪音楽大学声楽学部卒、大阪文学学校専科修了。大学在学中より、ボーカルグループに所属し、クラシックからポップス、歌謡曲、シャンソン、映画音楽などあらゆる分野の楽曲を歌う。
結婚を機に演奏活動から指導活動へシフトし、歌の指導実績は延べ約1万人以上。ある歌手のファンになり、人生で初めて書いたレビューが、コンテストで一位を獲得したことがきっかけで文筆活動に入る。作家を目指して大阪文学学校に入学し、文章表現の基礎を徹底的に学ぶ。その後、本格的に書き始めたJ-POP音楽レビューは、自らのステージ経験から、歌手の歌声の分析と評論を得意としている。また声を聴くだけで、その人の性格や性質、思考・行動パターンなどまで視えてしまうという特技の「声鑑定」は500人以上を鑑定して、好評を博している。
[受賞歴]
2010年10月 韓国におけるレビューコンテスト第一位
同年11月 中国Baidu主催レビューコンテスト優秀作品受賞