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第六講 アルミニウムの原料「ボーキサイト」はどこで採れる?

地理講師&コラムニスト
宮路秀作

教科書などでも貿易品目としてよく耳にする「ボーキサイト」。でも、みなさんはボーキサイトが「どこで採れるのか?」、そもそも「それが何なのか?」を説明できるでしょうか。

3カ国がボーキサイトの7割を産出

USGSの統計によると、2021年の世界のボーキサイト産出量の順位は以下の通りです。

  • 1位 オーストラリア(26.8%)

  • 2位 中国(23.4%)

  • 3位 ギニア(22.4%)

  • 4位 ブラジル (8.6%)

  • 5位 インドネシア(5.5%)

  • 6位 インド(4.5%)

  • 7位 ジャマイカ(1.5%)

下の図は、これらの国の地理的位置を表したものです。

産出量の割合を見ると、オーストラリア、中国、ギニアの上位3カ国で全体の7割以上を占めていることがわかります。

では、ボーキサイトの産出量上位国には、どんな共通点があると考えられるでしょうか?

「ボーキサイト」という名前の由来

ボーキサイトが発見されたのは1821年のことでした。フランスの地質学者であったピエール・ベルチェが、フランス南部の街、レ・ボー・ド・プロヴァンス(Les Baux-de-Provence)にてボーキサイト(bauxite)を発見します。

それぞれの綴りを見れば一目瞭然ですが、ボーキサイトという資源の名前はこの街の地名に由来するのです。

現在のフランス南部には地中海性気候が展開しているので、何億年前の話かはわかりませんが、大陸移動によって現状の大陸の配置となる前は熱帯気候が展開していたのかもしれません。

ボーキサイトとはアルミニウム鉱石のことであり、酸化アルミニウム、二酸化ケイ素、酸化鉄、二酸化チタンなどを含みます。

要するにアルミニウムの原料となる鉱石ですが、単独の鉱物や鉱石として考えるのではなく、「様々な鉱物や鉱石が集まって固まりつつあるもの」と理解するほうが適切です。

アルミニウム鉱石であるボーキサイトですが、一般的な鉱石とは異なり、また「アルミニウム」という言葉から想像されるような見た目や硬さはありません。ボーキサイトは粘土のように比較的軟らかく、赤褐色や黄褐色をしています。

ボーキサイトは鉄鉱物やアルミニウム鉱物が集まったもの

日本語でボーキサイトは「鉄礬土(てつばんど)」と呼ばれていますが、いつからこの名称で呼ばれるようになったかは定かではありません。

また、アルミニウムはかつて「礬素(ばんそ)」と呼ばれていました。現在でも呼ぶ人がいるかもしれませんが、これは「明礬(みょうばん)」に由来します。

明礬(みょうばん)は、硫酸アルミニウム(Al₂(SO₄)₃)と硫酸カリウム(K₂SO₄)が結晶化したもので、アルミニウムを含む化合物の一種です。

そのため、アルミニウムが発見された際、その性質を示すために「礬素」という漢字が用いられました。また、ボーキサイトには酸化鉄(Fe₂O₃)が多く含まれているため、化学的性質から「鉄礬土」と名づけられました。

さらに、ボーキサイトは残留鉱床の一種です。風化や侵食作用によって、元の岩石に含まれていた成分の中で、水に溶けやすい成分や分解されやすい鉱物が除去され、残った鉱物が集まって残留鉱床を形成します。これは特定の鉱物が風化や侵食作用に対して耐性を持っているためです。

風化が進むと、雨水などによってカルシウムやナトリウム、カリウムなどの可溶性成分が溶けて流されます。これを溶脱と呼び、年降水量の多い地域、特に熱帯気候下で顕著に見られます。

この時に溶け残った鉄鉱物やアルミニウム鉱物が集まって残留鉱床が形成されます。

長石類や雲母類といったアルミニウムを主成分とする鉱物でも、アルミニウム含有率は10~20%程度です。しかし、溶脱が進んで可溶性成分が流され、次いで二酸化ケイ素(シリカ)が溶脱されることで、アルミニウムの含有率は60~70%にまで達します。

こうして、アルミニウムの化合物であるギブサイト(Al₂O₃・3H₂O)やベーマイト(Al₂O₃・H₂O)が残留したものがボーキサイトです。

ギブサイト岩質のボーキサイトのほとんどは熱帯気候下に存在します。温帯気候下にもいくつか散見されますが、形成された当時の気候が熱帯気候、もしくは亜熱帯気候だったと考えられます。

一方、ベーマイト岩質のボーキサイトも同様に熱帯気候下に多くみられますが、ジュラ紀や白亜紀に形成されたものが多く、ギブサイト岩質のボーキサイトより古い地質時代に多い傾向があります。

時代が古い分、熱帯気候下から離れたところへと大陸移動しこともあり、南ヨーロッパや旧ソビエト地域、トルコなどで埋蔵がみられます。

さて、先ほどの図に、「赤道」を引いたものが次の地図です。

産出上位国が赤道付近に多いことわかります。ボーキサイトの埋蔵、産出は熱帯気候、またはかつて熱帯気候が展開していた地域で盛んです。これを知った上で見るのと、知らずに見るのとでは認識がずいぶん違ってきます。

何事も「次を理解する」ためには基礎知識が必要だということですね。

産出も輸入も消費も多い中国

世界最大のボーキサイト産出量をほこるのはオーストラリアです。オーストラリアのボーキサイト産地といえば、やはりウェイパとゴヴではないでしょうか。

両産地とも、オーストラリア北部に位置しているため、熱帯気候下でありボーキサイトの埋蔵が豊富です。三大資源メジャーの一つ、リオ・ティントが鉱山を所有しています。リオ・ティントがそれぞれ操業を開始したのは、ウェイパが1963年、ゴヴが1971年と長い歴史があります。

熱帯気候は両回帰線の間に展開しているので、上の図より、両産地が熱帯気候下であることがわかります。

世界2位の産出量をほこるのが中国です。

中国の国土には広く熱帯気候が展開しているわけではありませんが、南部地方は亜熱帯気候が展開しており、特に貴州省はボーキサイトが豊富に埋蔵されているとされていて、採掘が盛んです。

貴州省といえば省内の広い範囲が石灰岩に覆われていて、顕著に発達するカルストは「中国南方カルスト」として世界自然遺産に登録されています。

世界的な産出国である一方、中国はボーキサイトの輸入が盛んです。近年の自動車産業の成長から、アルミニウム需要が増大していることが背景です。

もちろんアルミニウムの輸入量も多い(世界2位、2021)のですが、「中国」という一つの人格があるわけではないので、アルミニウムを輸入して何かを製造する企業があれば、ボーキサイトを輸入してアルミニウムを生産する企業もあるということなのでしょう。

膨大な埋蔵量を誇るギニア

世界三位の産出量を誇るのがギニアです。みなさん、ギニアがどこに位置する国かご存じですか? 1枚目の地図にある通り、西アフリカの大きな膨らみの部分に位置します。

下の図はボーキサイトの埋蔵量の上位国(2019、USGS)を表したもので、ギニアは世界最大のボーキサイト埋蔵量を誇ることがわかります。

埋蔵量のパーセンテージを上から順に足していった「累積比率」を見ると、世界の上位5か国でおよそ70%を占めています。ボーキサイトは埋蔵に偏在性が大きい資源だといえます。

ボーキサイトの埋蔵量

ギニアでは、国土西部のサンガレディ鉱山で産出が盛んです。ここで産出されたボーキサイトは、ボケ鉄道を利用して沿岸部のカムサルまで運ばれ、海外へと輸出されます。

2016年のギニアの輸出統計を見ると、1位「金(非貨幣用)」(63.9%)、2位ボーキサイト(25.7%)となっていて、鉱産資源への経済依存度が高くなっています。

また主要輸出相手国の最大がアラブ首長国(27.6%)、次いでガーナ(15.3%)となっていますので、安価な電力の供給が可能な国へと輸出していると考えられます。

「ボーキサイトを安価な電力供給が可能な国へと輸出する」とはどういう意味なのか、次回の第七講でお話しましょう。

ギニアは西部のサンガレディ鉱山だけでなく、東部にも「未だ手つかず」の鉱山が存在します。名前はシマンドゥ鉱山といい、埋蔵量は200億トンと見積もられています。

シマンドゥ鉱山の本格的な開発に向けて、2022年にはシマンドゥ鉱山からフォレカリアという都市まで延びる鉄道の敷設、そして鉱山の採掘に関する協定が海外企業との間で締結されました。参画するのは、中国

シマンドゥ鉱山は鉄鉱石だけでなく、金700トン、ダイヤモンド3000カラットの埋蔵も見込まれており、海外企業の投資熱は今後高まっていきそうです。

しかし、650kmにも及ぶ鉄道の敷設、フォレカリアでの港湾施設の整備には総額150億ドル、日本円にしておよそ1兆9920億円(2022年当時)が必要と見積もられています。

鉱山開発となると採掘のための「仕込み」をして終わりではなく、それを運ぶ鉄道、資源を積み出す港湾の整備、そして周辺地域の治安維持など、「関連産業」というものがあるものです。

大西洋に面したギニア最大の都市であるコナクリからは
ボーキサイトや鉄鉱石、金、ダイヤモンドなどが輸出されている

雨季に閉鎖されるボーキサイト鉱山

ボーキサイトの埋蔵は熱帯から亜熱帯の気候下、もしくはかつて熱帯気候下だった地域に多く、そこで産出が盛んであると話しました。

みなさん、ここで疑問が生じませんか?

採掘作業は屋外で行われます。つまり、熱帯気候は年間降水量が多いため、強い雨季でも採掘作業は行われているのかということです。

雨季になると、地面が濡れるため採掘作業が困難となります。また鉱山の崩壊の危険性もあり、実際に死亡事故に繋がるようなケースが後を絶たないのです。

特に露天掘りなどの地上採掘においてはその影響が大きく、降雨は露天採掘の生産性を著しく低下させる要因の一つです。

例えば、大雨による坑内浸水が発生し、坑内活動が一時的に停止し、生産時間が大幅に減少するなどします。そのため坑内浸水は操業に直接的かつ長期的な影響を及ぼすため、脱水給水システムの実施が不可欠となります。

また、運搬道路も降雨の影響を受けます。道路の状態が悪化し、復旧作業に多くの時間を要することになります。

熱帯の国に行くと、陥没した道路を目にすることが多々あります。これを防ぐためには、排水システムや道路舗装の強化が必要です。暗渠や水溝の使用は、運搬道路の状態を改善する有効な手段といえます。

われわれは自然環境に制約を受け、そして手にした技術で自然環境を改変してきました。農業しかり、そして鉱業しかりです。

鉱山開発とは「自然を相手にする仕事」であることが理解できますね。


宮路 秀作 地理講師、日本地理学会企画専門委員会委員、コラムニスト、Yahoo!ニュースエキスパート
現在は、代々木ゼミナールにて地理講師として教壇に立つ。代ゼミで開講されているすべての地理講座を担当。レギュラー授業に加え、講師オリジナルの講座である「All About 地理」「やっぱり地理が好き」も全国の代ゼミ各校舎、サテライン予備校に配信されている。また高校教員向けに授業法を教授する「教員研修セミナー」の講師も長年勤めるなど、「代ゼミの地理の顔」。最近では、中高の社会系教員、塾・予備校の講師を対象としたオンラインコミュニティーを開設、地理教育の底上げを目指して教授法の共有を行っている。
2017年に刊行した『経済は地理から学べ!』(ダイヤモンド社)の発行部数は6万4500部を数える大ベストセラーとなり、地理学の普及・啓発活動に貢献したと評価され、2017年度日本地理学会賞(社会貢献部門)を受賞。2023年にはフジテレビのドラマ「教場」の地理学監修を行った。学習参考書や一般書籍の執筆に加え、浜銀総合研究所会報誌『Best Partner』での連載、foomiiにてメルマガを発行している。

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