見出し画像

#20 お坊さんと風水

「幽霊っているの?」「運の正体とは?」などと思ったことは誰しもあるはず。そんな“目に見えないもの”にまつわる素朴な疑問や、仏教に関する知識を、SNS等で人気の僧侶、仁部(にべ)兄弟がゆるく解説。二人の掛け合いが楽しいインターネットラジオ「お寺ジオ」の配信内容をベースに、加筆・再構成してお届けします。

右:兄の前誠、左:弟の前叶

●前誠 友人から質問をもらったんだけど「風水」ってどう思う?

○前叶 風水か…現場でもよく聞かれるし、好きな人多いよね!

●前誠 仏教や日蓮宗の教えからは少し脱線するかもしれないけれど、風水に関して、先生からなにか一言ある?

○前叶 あーこのパターンね(笑)。
風水っていうと「開運」っていうイメージが強いよね。もちろん運を上げていくっていう側面はあるかもしれないけれど、もとは駄目なものを無くしていく、マイナスをゼロに変えていくっていうアプローチだと思う。つまり、人生が劇的に改善するというよりは、今ある自分の力でベストな状態に持っていけるように、一度フラットな状態にしましょうっていうスタンスのもの。

●前誠 よく言われる水回り、トイレ、玄関をきれいにするっていうのは?

よく言われていますが…

○前叶 それをすることで物事がすごく良くなるというよりも、自分らしく生活するための環境を整えるっていう感覚のほうが正しいのかもしれないね。

●前誠 「環境を整える」ね。たしかに風水上の改善点とかって、まずキレイに掃除をするところが大前提にある気がする。普段、目の届かない物陰のホコリを取り除いたり、乱雑に置かれているものをきちんと整理整頓したり。そのようにして環境を整えることでひいては開運に繋がっていくイメージかな。

○前叶 仏教的な観点だと何事にも原因があって結果があるということだけど、例えば水回りをすごくきれいにする=金運が上がってお金持ちになるっていう根拠を言えっていうと、難しいじゃない?
そして、仏教はどちらかというと、掃除によってきれいになったという目に見える部分よりも、きれいにする、或いはきれいにしたことによる心の動きの部分、目に見えない内側の部分にフォーカスする教えだよね。

●前誠 つまり、掃除をしたからといって、それがすぐになにか良い結果に結びつくかといえばそういう短絡的なものでもないといったところかな。
このあたりには当然、色々な因果関係があるよね。風水学の理論はさておき、私たちはすべての因果を追えるわけではないから、時としてどこかをキレイにしたことが、なにかの結果に直接的に結びついたのだと思えたりする。
そういう意味だと、まるっと大きな括りでジンクスやゲン担ぎ的な側面もあるのかも。

○前叶 さっきジンクスって言葉があったけど、なんか、そういうゲン担ぎというかルーティン的なものってある?お坊さんとして。

●前誠 うーんとね、2個あります。

○前叶 それって弟に言っても恥ずかしくない?

●前誠 大丈夫(笑)。お坊さんとしてでしょ?
1個目は、「お経を読む前は必ず歯を磨く」。
ご葬儀でも法事でも、お経っていうのは口から出るもの。お寺はお香をたいたり、清浄にするっていうことを大切にしているでしょ?だからお経っていう大切なものを読み上げる時には、口をきれいにしておくために歯を磨く。

○前叶 なるほど。

●前誠 もう一つはお寺の外に出向いてお経をあげる場合。その時は必ずお寺を出る前に「これから行ってきます」って思いながらお経をあげて、お寺の鐘を鳴らしてその間に出ます。お勤めをさせていただいて、帰ってきた時にも、「ただいま帰りました」という報告のお経を読むと。この三段構えでお経を読んでいるよ。完全にルーティンだよね。

○前叶 家に帰るまでが遠足じゃないけど、家に帰るまでが仏事みたいなかんじだね。

●前誠 まさにそう。本当にこれはやったからどうなるとかそういう感じではなくて。個人的な感覚の自分ルール。でもすごく大事にしてるかな~。

○前叶 鐘を鳴らしてその音が切れる前に本堂から出るとか、「音切り」っていう魔を払うことしてたり…いや~意外とプロっぽいね。お坊さんみたい(笑)

●前誠 こらこら(笑)

勝負下着は”陰徳”だ!?

●前誠 風水に質問をくれた友人は、他にも風水的に運が下がるから汚い下着はつけない。一方でその友人の旦那さんは外から見えないから破れたパンツでもいいっていうらしい(笑)けど、運気が下がるって言い続けたらきちんと捨てるようになったって言ってたけど…。

○前叶 ちょっとそれに似た話で、最近襦袢(じゅばん)を新しくしたんだよね。
襦袢っていうのはお坊さんが着る着物の一番内側のもの、下着に分類されるのかな。襦袢を着て、白衣を着て、帯を締めて、袴をはいて、衣を着てっていう…その襦袢を買い替えたのよ。

着物で一番内側に着る「襦袢」

●前誠 外からは見えないものだね。

○前叶 なんか首のところが破れちゃって。新しいものをおろして身につけると、誰からも見えないものなんだけど身が引き締まるんだよね。衣が新しいと外から見えるから、わかりやすく身が引き締まるんだけど。でも新しい襦袢って自分にしかわからないじゃない。

●前誠 自己満足っていう風にも言えちゃうかも。

○前叶 そうそう。でもねすごく身が引き締まるというか、新鮮な一日が過ごせるんだよね。で、友人の話だけど、ご主人のパンツが破れてても誰も気づかいないよね。だからこそどうでもいいって言ってるんだと思う。でも人から見えないところって、俺自身はすごく大事に思ってて。たとえば勝負下着っていう言葉あるじゃない。

●前誠 古今東西、どこの国にもあるらしい(笑)

○前叶 襦袢を買い替えて、人に見られないけど気合が入るっていう感覚。これ女性なら少しはわかってくれるんじゃないかな。勝負下着ってそういうものだと思うのよ。

●前誠 う~ん陰徳?

○前叶 目に見えないものがあって、結果に作用しているものだから確かに陰徳なのかも。

●前誠 努力をみせないってのは日本人の美学に通じるところがあると思うな。

○前叶 たとえば、お寿司食べても、職人さんが日ごろどんな修行をしているかは見えないよね。でも職人さんからしたら普段の修行も日常的に本来あるもので、表に出してないだけ、みたいな。

●前誠 そうそう。そういえば少し話は違うけど前叶がツイートしてた「占い」というのは「うらにない」、「裏をになうものだよ」っていう・・・

○前叶 あ~。占いは、要するに表の事象が整っていて、表はきっちりしているんだけど、どうにもならない時とか、そういう時にじゃあ裏側から見てみましょうよっていう、裏ワザみたいなもの。

●前誠 聞きたいな~。深堀したいな~。

○前叶 長くなるからね、それはまた改めて。

●前誠 さてさて、風水ではよく普段目に見えない部分の汚れを除くことで滞っていた「気」の循環が良くなるというように言われます。日常の中でも、陰の行い、陽の光があたらない、他人にはわからない部分にこそ気を使うことが良い結果に繋がるのかもしれません。
明日は明るい日と書きます。皆さまの明日がより良い1日となりますように。

○前叶 合掌。

仁部 前誠(にべ・ぜんじょう)
1988年埼玉県生まれ。立正大学仏教学部宗学科卒業。妙見山上原寺副住職。2012年より日蓮宗宗務院に奉職。2016年、日蓮宗加行所初行成満。2020年よりRadiotalkにて、弟の前叶氏とともに「midnight temple radio お寺ジオ」を配信。僧侶としてのモットーは、「法華経の話はほとんどしませんが、すべては法華経の話です」。 最近では、『あなたは尊い 残念な世界を肯定する8つの物語』(漫画・やじまけんじ/監修・佐渡島庸平×日蓮宗/徳間書店)制作プロジェクトに参加した。
仁部 前叶(にべ・ぜんきょう)
1991年埼玉県生まれ。立正大学仏教学部宗学科卒業。妙見山上原寺副住職。さいたま浦和地区保護司。2015年、日蓮宗加行所初行成満。2020年、仏教死生観研究会「死の体験旅行」講師を務める。同年、上原寺別院「祈誓結社」を設立。”ほとけ様との架け橋“であることを目指し、命の強さと有り難さについて伝えるべく活動している。 https://twitter.com/6SYAKU_HOUSHI