「見えなくなっているだけ」
セイヤの心は弾んでいた。
今にも手に届きそうな満天の星空を仰ぎ見て、体がひっくり返りそうになった。
目の前の星に手を伸ばしては掴み、つま先立ちをしながら足が地面から離れそうな感覚だった。
「どれほど広大な宇宙に住んでいるのだろう。」
吸い込まれるような居ても立ってもいられない感じと、果てしなさを前にした無力感に襲われていた。
懐中電灯の明かりがサーチライトのように夜空を走る。
星空好きの高校の先生が懐中電灯を片手に流暢に喋っていた。
「星の光は、いつもこの地球に届いているんだよ。昼間は明るくて見えないけれど、街の明かりが届かない山の上ではよく見えるんだ。」
上の空のはずが、何故だかこの言葉だけ頭に残っている。
街に帰り夜空を見上げたが、数えるほどの星しか見えなくなっていた。
しかし無くなったわけではない。見えていないだけなのだ。
今、溢れんばかりの星を仰ぎ見てあの時の感覚を思い出し、吸い込まれてしまうようだ。
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