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オンラインにあふれる「死にたい」気持ちに向き合う。『自殺対策の新たな取り組み SNS相談の実際と法律問題』編者まえがき公開

自殺対策の新たな支援として注目のSNS相談。「死にたい気持ち」に向き合うために知りたい相談実務と法律問題について紹介

近年のパンデミックや不況を受けた自殺者増加への対策が喫緊の課題として叫ばれるなか、新たな支援としてSNS相談が注目を集めている。本書では、自殺対策現場で実際に働くカウンセラーが実践するSNS相談の具体的な実務を開示し、自殺対策に関わる上で知っておきたい法律問題について、カウンセラーの法的責任論に詳しい弁護士による解説や対応法を紹介する。今後ますます需要が高まるSNS相談で「死にたい気持ち」に向き合う際に参考となる、カウンセラー必携の書。

▷書籍詳細

まえがき

 ある支援団体の方から,「カウンセリングに興味を持って勉強する人は多
いのですが,自殺対策となると,なかなか担い手が集まりません。何かあっ
たとき責任を負えないと感じることが理由のようです」と教わったことがあ
ります。
 そのとき,弁護士としては,対応したカウンセラーが法的責任を負う可能
性はかなり低いと感じましたが,そのような懸念が担い手不足の一因である
ならば解消できるのではないかと考え,カウンセラーの法的責任論について
執筆したり,研修会を実施したりしました。その縁もあって,自殺対策に取
り組んでいるNPO 団体とお付き合いが始まりました。
 一方,自殺対策の分野でも,従来型の電話相談に加えてSNS を通じた相
談が広がりつつありました。そのようななかで,心理職の皆さんと共に自殺
対策の最前線を紹介し,今後の発展につながる書籍を執筆しようと考えまし
た。
 本書では,心理職(14名),法律職( 3 名),研究者( 2 名),ジャーナリスト( 1 名)がそれぞれの視点で自殺対策に関する諸問題を取り上げ,それぞれの知識経験に基づき現状や課題を記しています。
 まず,第1 章「行き場のない心の声があふれるオンライン」では,オンラ
インにあふれる「死にたい」感情,SNS(オンライン)相談のはじまり,自
殺対策としてのSNS 相談の意義を説明しています。
 第2 章「自殺対策における法律と各種SNS 相談」では,自殺に関する法
律の解説,各種のSNS 相談の具体例を紹介しています。
 第3 章「相談実践にあたっての法律問題」では,まず心理職から実際の現
場で迷うことや悩むことを挙げてもらい,それを受けて法律職が法的視点か
ら解説・検討を加えています。
 第4 章「自殺対策SNS 相談の現場」では,セキュリティ対策など技術的
な問題,精神疾患,虐待,LGBTQ など自殺リスクが高いと言われる方々へ
の対応など,SNS 相談現場の生の声を届けています。
 第5 章「原因別にみる自死と法律問題」では,職場の過労,経済苦,いじ
めなどさまざまな自死原因に対して,法律でできること(法律でできないこ
と)という観点も交えて解説・検討を行っています。
 最後に第6 章「今後の課題」では,目覚ましい発展を遂げている人工知能
(AI)のカウンセリングへの活用可能性など,最新の話題や問題意識を記し
ています。
 本書が自殺対策に携わる皆さまの一助になることを願っています。

編者 鳥飼康二

■編著者紹介

鳥飼康二(とりかい こうじ)
1975年生まれ。京都大学農学部卒業,同大学院農学研究科修了。日本たばこ産業株式会社勤務を経て,一橋大学法科大学院修了後,2011年より弁護士登録(東京弁護士会,中野すずらん法律事務所)。2016年産業カウンセラー資格取得(一般社団法人日本産業カウンセラー協会)。

著書:『 事例で学ぶ発達障害の法律トラブル Q & A』ぶどう社2019年,『Q&A で学ぶカウンセラー・研修講師のための法律――著作権,契約トラブル,クレームへの対処法』誠信書房2021年,『裁判事例で学ぶ対人援助職が知っておきたい法律――弁護士にリファーした後に起きること』誠信書房2022年,『対話で学ぶ対人援助職のための個人情報保護法』誠信書房2023年

新行内勝善(しんぎょううち かつよし)
1969年生まれ。東洋大学社会学部卒業。株式会社大地を守る会勤務を経て,東京成徳大学大学院心理学研究科カウンセリング専攻修士課程修了。NPO 東京メンタルヘルス・スクエア副理事長,東京メンタルヘルス株式会社法人事業部長代理,千葉県スクールソーシャルワーカー。

著書:『 メールカウンセリング――その理論・技法の習得と実際』(分担執筆)川島書店2006年,『ニート・ひきこもりと親――心豊かな家族と社会の実現へ』(分担執筆)生活書院2008年,『ここがコツ!実践カウンセリングのエッセンス』(分担執筆)日本文化科学社2009年,『SNS カウンセリングの実務導入から支援・運用まで』(分担執筆)日本能率協会マネジメントセンター2021年

■著者紹介(執筆順)

渋井哲也(しぶい てつや)
新行内勝善(しんぎょううち かつよし)
浮世満理子(うきよ まりこ)
久保木亮介(くぼき りょうすけ)
小黒明日香(おぐろ あすか)
鳥飼康二(とりかい こうじ)
森本純代(もりもと すみよ)
賀澤美樹(かざわ みき)
藤原朋弘(ふじわら ともひろ)
玉井 仁(たまい ひとし)
北村珠里(きたむら じゅり)
中野かおる(なかの かおる)
芝 順子(しば じゅんこ)
国広多美(くにひろ たみ)
金成伊佐子(かねなり いさこ)
田中謙二(たなか けんじ)
温間隆志(ぬま たかし)
小川妙子(おがわ たえこ)
菊池愛美(きくち まなみ)
今井 健(いまい たけし)

●書籍目次

まえがき

第1章 行き場のない心の声があふれるオンライン 【渋井哲也】
1 オンラインにあふれる「死にたい」感情
 (1)インターネットと自殺,インターネットと居場所
 (2)SNSの片隅で「死にたい」とささやく
2 自殺対策SNS相談のはじまり 【新行内勝善】
 (1)自殺対策のSNS相談がスタート
 (2)日本におけるSNS相談のはじまり
 (3)自殺対策強化月間におけるはじめてのSNS相談,実施結果概要
 (4)SNS相談は相談の入口にとどまらない
 (5)自殺対策におけるSNS相談事業ガイドライン
3 自殺対策SNS相談のセカンドステージ 【新行内勝善】
 (1)テレワークSNS相談スタート
 (2)コロナ1年目のSNS相談
COLUMN 1 全国SNSカウンセリング協議会と自殺相談 【浮世満理子】

第2章 自殺対策における法律と各種SNS相談
1 自殺対策基本法の意義 【鳥飼康二】
2 自殺関与・同意殺人罪について 【久保木亮介】
 (1)自殺への関与を処罰する現在の法制度とその根拠
 (2)裁判例の紹介と考察
3 自殺対策SNS相談ガイドライン 【新行内勝善】
 (1)実施団体向けの指針
 (2)相談員向けの指針
4 各種SNS相談
 (1)LINE,旧Twitter,Facebookでの相談 【新行内勝善】
 (2)Webチャットのメリット・デメリット 【小黒明日香】
COLUMN 2 茨城いのちの電話によるSNS相談 【森本純代】

第3章 相談実践にあたっての法律問題
1 緊急対応の実際
 (1)緊急対応で迷うこと 【賀澤美樹】
 (2)守秘義務が解除される場合 【鳥飼康二】
2 カウンセラーへの攻撃と対処法
 (1)相談現場での対処法 【新行内勝善】
 (2)法的対処法 【藤原朋弘】
3 カウンセラーが法的責任を感じるケース 【玉井 仁】
 (1)相談者の自殺
 (2)相談者から状態が悪化したと訴えられる・クレームになった
 (3)提供情報のズレや間違い
 (4)相談内容の開示や意見書の依頼
4 カウンセラーの法的責任論 【鳥飼康二】
 (1)基本的な概念の整理
 (2)裁判例でみる自殺防止義務
5 よくある疑問への回答 【鳥飼康二】
6 カウンセラーの法的責任のまとめ 【鳥飼康二】
COLUMN 3-1 不平不満クレームが生じやすいSNS相談 【新行内勝善】
COLUMN 3-2 遺族に対する損害賠償請求 【久保木亮介・鳥飼康二】
COLUMN 3-3 境界性パーソナリティ障害の裁判例 【鳥飼康二】

第4章 自殺対策SNS相談の現場
1 自殺対策SNS相談 【新行内勝善】
 (1)相談の基本と目指すところ
 (2)SNS相談の限界と,他の支援へのつなぎや注意点
 (3)自殺対策SNS相談の枠組み
2 SNS相談のセキュリティとテレワーク
 (1)セキュリティリスクに正しく対処するための3ステップ 【小黒明日香】
 (2)コロナ禍以降のテレワークSNS相談 【新行内勝善】
3 緊急対応とつなぎ支援 【賀澤美樹】
 (1)緊急対応
 (2)つなぎ支援
4 自殺リスクの高いSNS相談への対応
 (1)うつ病等精神疾患 【北村珠里】
 (2)ODとリスカ 【中野かおる】
 (3)性被害 【芝 順子】
 (4)虐待 【国広多美】
 (5)孤独・貧困・経済苦 【金成伊佐子】
 (6)LGBTQ 【田中謙二】 
5 カウンセラー教育とサポート 【新行内勝善】
 (1)カウンセラー研修の主な項目
 (2)SNS相談の基本スキル
 (3)相談現場でのカウンセラーサポート
 (4)継続研修,振り返り,フォローアップ,GSV,個人SV,事例検討会
 (5)カウンセラーのケア
COLUMN 4-1 SNS相談による全国のセーフティネット――話をちゃんと聞いて理解してくれる人がいる社会を作る 【温間隆志】
COLUMN 4-2 自殺や自傷の旧Twitter削除・凍結の善し悪し 【渋井哲也】

第5章 原因別にみる自死と法律問題
1 自死の原因と概要(調査結果) 【鳥飼康二】
2 職場における過労死 【藤原朋弘】
 (1)過労死・過労自殺とは
 (2)労災手続について
 (3)会社への請求
3 経済苦による自殺 【久保木亮介・鳥飼康二】
 (1)経済苦に対する法制度
 (2)自己破産
 (3)生活保護
 (4)法制度の存在は自殺防止に役立つのか
4 いじめによる子ども自死 【鳥飼康二】
 (1)学校いじめ問題への対処
 (2)学校側に求められるいじめ防止義務の内容
 (3)いじめと自殺の因果関係
 (4)過失相殺
 (5)まとめ――SNSカウンセラーの皆さんへお願い(裁判例からの教訓)
5 恋愛苦による自死 【鳥飼康二】
 (1)法律的な考え方
 (2)恋愛苦自殺の予見可能性
 (3)慰謝料算定と過失相殺
 (4)まとめ

第6章 今後の課題
1 SNS相談におけるAIの活用 【温間隆志】
2 カウンセラー不足とカウンセラーのスキルアップ 【小川妙子】
3 クライシステキストライン――米国の先進例から 【菊池愛美】
4 チャット分析ですべての人が相談できる社会に 【菊池愛美・今井 健】
5 AI(ChatGPT)とカウンセラーの共存の方向性 【菊池愛美・今井 健】
6 法律家の立場から 【鳥飼康二】
COLUMN 6 SNS依存 【渋井哲也】

文献
あとがき

▷本書の詳細はこちら

『自殺対策の新たな取り組み SNS相談の実際と法律問題』

出版年月日 2024/04/10
書店発売日 2024/04/15
ISBN 9784414417043
判型 A5
ページ数 250ページ
定価 2,860円(税込)

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