〈連載〉発達障害についてつっちーが考えていること(その1)
いずれは居酒屋のおやじに
みなさんこんにちは、土屋徹です。知り合いからは“つっちー”なんて呼ばれています。私は精神科病院で働く看護職からスタートして、国の研究所で学び、現在ではフリーランスとして活動しています。月日の経過は流れは早いもので、精神保健福祉の業界に入って40年が経ちました。気がつけば、赤いちゃんちゃんこがもうすぐ目の前の年齢です。
フリーランスとしての活動は、医療から福祉・学校教育・更生保護などさまざまです。特に自分から進んで分野を広げているわけではないのですが、喜ばしいことに、いろいろな分野や人たちからお声をかけていただいています。ほんと、何歳になっても学び続けているような感じです。
もともと看護職ではあったのですが、精神保健福祉士・公認心理士、それに調理師などの免許もあって、『なんでもできるソーシャルワーカー』を目指しています。将来的には1000円でべろべろに酔える居酒屋(センベロ屋のおやじ)を経営したいなと思っています。話が脱線してしまいそうなので、本題に戻そうと思います。
最近では精神科のクリニックでのお仕事や福祉サービス事業所でのかかわりのなかで、発達障害や発達が気になる子どもたちや大人の方々、その保護者・ご家族の支援をすることが増えました。ご本人やご家族へのSST(社会生活スキルトレーニング)・就労支援・ペアレントトレーニングなどをしています。この連載ではこのあたりのことをお伝えしていこうと思います。
「発達」というけれど
最近、学校の先生でもクラスの中で目立つ行動を取ったりする子どもがいると「あの子は発達かもしれない」とか、福祉サービス事業所の職員と話していても「発達が重いかもしれない」「発達系のお薬を出してもらいたい」とったように「発達」という言葉がよく聞かれます。気になってインターネットで「発達」と検索すると、発達障害というタイトルの書籍なんかが並んでいます。私がこのようなお仕事をしているので、そのような言葉に目がいってしまうのかもしれませんが、あんまり「発達」という言葉がマイナスなイメージとして定着しなければいいなと思っていますがどうでしょうか。
これを読んでくれているみなさんは「、発達」という言葉をどのように捉えたり、普段使っているのでしょうか。そもそも「発達」という言葉を私自身が使い始めたのは、昔の歴史の授業のなかでは、『文明が発達している都市』というようなときですね。あとは、子どもが検診を受けたときに、心や身体が成長していく過程を表すときに「発達」って使っていたなと思い出しました。
精神保健福祉のお仕事なんてしていると、発達障害という言葉を多く目にします。なんとなく意識するようになったのは、2004年に発達障害者支援法が施行されたあとくらいかもしれません。もちろん、その前から発達障害という言葉を使う方もいたと思います。しかし、その法律が施行されてから、世間では「発達障害・発達が気になる子」など「発達」という言葉に「障害」という言葉がプラスされて多く使われるようになってきたのかもしれません(あ、土屋の勝手な思い込みかもしれませんが)。
発達障害者支援法が施行された2004年といえば、私はACT(包括型地域生活支援プログラム)の初代チームリーダーをしていました。ちなみにACTとは(Assertive Community Treatment,ACT:包括型地域生活支援)のことで、重い精神障害を抱えた方が地域のなかで安心して暮らしていけるように、多職種で構成されたチームがAssertive(積極的に)支援を提供する方法です。多職種であるほか、1日24時間、週7日間途切れのない体制での支援提供が特徴です。そのACTに属していた頃に聞いた話です。息子さんが統合失調症と診断されたお母さんからこんなふうに言われたのを覚えています。
「息子は統合失調症と診断されました。なので、家族教室に行くことになったのです。でも、医師の話を聞いても、同じ経験をしているはずの他のご家族の話を聞いても、息子の症状とはなんか違うことが多くって。・・・いま発達障害ということがいろいろなところで聞かれるようになってますよね。そっちの症状の方が当てはまることが多いんですよ。これからは、発達障害を対象とした家族会も増えるかもしれませんね。
こんなふうに、その当時は発達障害ではなく、統合失調症と診断された方もいたと思います(そのお子さんがどうだったかは覚えていません)。ご家族からすると、家族会などに参加しても、「なんか違う」って不安になるばかりだったのかもしれません。
話を戻します。
いま「発達」という言葉に対しては、やっぱりマイナスなイメージをもつ人のほうが多いのではないでしょうか。「あの子は発達っぽいよね」という場合、そんな感じですよね。あんまり笑顔でそう言っているイメージはありません。
でも、実際に発達障害と診断されたり、発達が気になると方と接している私としては、マイナスの面ばかりではなく、プラスの面(得意なこと、いい意味でみんなが驚いてしまうこと)が多くみられることを知っています。ただ、おかれている環境やかかわる人たちとの関係で、しんどい思いをすることが多くなってしまうことがある。
ご家族からすると「普通でいてくれたらいいのに」「目立つと恥ずかしい」というような声も聞かれるのですが、世間の多くの人たちが考える“普通”とのギャップによって目立ってしまうのかもしれません。
「行動」ってどんなふうに考える?
私が発達に特徴をもつ子どものご家族や支援者向けの研修では、こんな数式について伝えています。
『①行動=②その人の体質や特性×③環境など×④本人のスキルと経験』
これは実は私自身が考案した数式ではなく、自分が受けた研修で聞いたのですが、実際に自分がかかわりをもっている人たちにあてはめてみると、けっこう納得できる数式なのでちょっと具体例をもとにして説明していきましょう。
A君は小学校4年生から特別支援学級に入りました。それまで通常学級で過ごしていたのですが、他の子と比べて目立つことが増えたので学校から促され、両親は納得のうえで移動となりました。4年生と5年生の頃はクラス担当の先生からは「A君はほんと大人しくて、問題なく過ごしていますよ」と言われていました。ところが、6年生になってからは先生から「下級生に手を出しました。大声で怒鳴ったりしました。教室から勝手に出ていくこともありました」と言われるようになってしまったのです。その先生から私が相談を受けたときに、先ほどの数式にA君のことを当てはめてみました。
A君の例で「行動」についてみていこう
『①行動=②その人の体質や特性×③環境など×④本人のスキルと経験』
「行動」は「下級生を殴る・大声を出す」です。
まずA君の「②体質」について。どうやらA君は小さい頃から耳が敏感で、大きな声があると家でもイライラしたり、人混みの中にも行くのが厳しかったようです。それにプラスして皮膚が敏感という『②特性』があるようで、ちょっとでも触られたりすると「なんで殴るの?」と親御さんに言ったり、お遊戯や体操などでもお友だちと触れるのを嫌がっていたそうです。
次に「③環境」です。6年生になると上級生がいなくなりました。そして下級生が何人か入ってきて、A君に対して「おにーちゃん遊ぼう」と大きな声で話しかけてきたり、ベタベタしてくることが増えたそうです。
そして、「④本人のスキルと経験」です。下級生が耳元で遊ぼうと言ってきたりベタベタしてきたとしても「みんな、静かにしようね」「先生、下級生に離れるように言ってもらえますか」「つらいので教室の外に出ていいですか」というようなことが言えなかったり、経験として身についていなかった。
その結果として下級生に手を出したり、「下級生を殴る・大声を出す」いう「行動」を取ってしまったのかもしれません。
こうした見立て(アセスメント)をして、先生と私でいろいろな工夫を考えました。こんな工夫です。
①A君が休める場を教室のなかにつくる。上級生と下級生が別々に過ごせるような場所をつくる(など)。
②A君が「先生しんどいので、休んでいいですか」などの言い方や伝え方をSST(Social Skills Training:ソーシャルスキルトレーニング)で練習してみる。
③体質に関しては、イヤマフを使ったり、主治医に相談してみる。
こんな風な取り組みをしたところ、徐々に、A君は下級生に手を出さなくなるとか、大声を出さなくなるということではなく、「しんどくなった時に1人で過ごせるような時間をもつことができる」ようになったそうです。
連載の初回ということで、まとまりのない話になってしまいました。今回は「発達」という言葉の捉え方・ご家族のちょっとしたエピソード・行動には意味があるということを書いてみました。次の回からはもう少しまとまりをもった話を紹介しますね。
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