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『養性訣』解説 - 江戸の養生書を読む 01

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江戸時代の名医、平野重誠の『養性訣』の翻刻と、内容の解説をしていきます。
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2019年6月の記事一覧

眠りすぎの江戸の人から、睡眠不足の現代人が学ぶこと - 養性訣解説08

今回の養性訣解説は「睡眠」について。睡眠というと、現代では睡眠不足が問題になることが多い。 一方で、江戸時代の養生書である『養性訣』では、睡眠不足よりも、過眠の害を説いている。恐らく江戸時代は、慢性的な睡眠不足の人は、現代よりもはるかに少なかったのだろう。 では睡眠不足の現代人は、眠りすぎの江戸時代の人から、何を学び取ることができるのだろうか。まずは睡眠の役割についての部分を読んでみよう。 眠りは心身の疲れを癒やし、眼の食事である【原文】 眠は眼の食と古人も言(いえ)ば

理想の腹はどんな腹? - 養性訣解説09

「腹の内をさぐる」「腹がたつ」「腹がすわる」など、心情を表す慣用句には「腹」という言葉がよく使われる。東洋医学においても腹は重要視されているが、今回の養性訣解説のテーマは腹と心身の安定について。 言葉の上でも関係の深い腹と心を、心の健康を重視する『養性訣』では、どのようにとらえているのだろうか。 理想の腹の状態腹は全身と関係しており、その腹にも理想の状態がある。腹はお臍を境にして上下に分けられ、『養性訣』では下腹が充実し、上腹部は綿のように柔らかいのを良い腹とする。 こ

淡々と今を生きる - 養性訣解説10

面白おかしく暮らしたい、華やかな生活がしたい、有名になりたい。誰もがもつ正常な欲求だろう。ただ、これらの欲には際限がなく、求めすぎると体を病んでしまうことがある。 今回の『養性訣』は、欲望と心に関することがテーマになる。心の摂生は五事調和の最終目標で、ここで上巻も終わる。それでは、欲にとらわれすぎると、身体にどういった影響が出るか、まずは以下を読んでみよう。 【原文】 人々安逸(おもしろきこと)に耽(ふけ)り、歓楽(たのしみ)に習(なれ)て、ただ富貴栄華を慕い、名声功利競

江戸後期の養生書にある健康器具を再現し実際に使ってみた - 養性訣解説11

アップルの創業者のひとりが禅を学んでいたというのは、誰もがご存知だろう。 また、グーグルやインテルなどの世界的なIT企業でも、マインドフルネスという、禅のような瞑想呼吸法を取り入れている。これは社員の集中力を高めたり、心の不調を緩和させるためだ。 このような禅をもとにした呼吸法は、現在世界的に広がっており、当noteで解説中の『養性訣』においても、心身を調える重要な方法として紹介されている。 『養性訣』の呼吸法は、白隠禅師という、江戸中期以後、多くの養生家に影響を与えた