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『養性訣』解説 - 江戸の養生書を読む 01

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江戸時代の名医、平野重誠の『養性訣』の翻刻と、内容の解説をしていきます。
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2019年5月の記事一覧

食材や薬材の性質の偏りについて - 養性訣解説04

健康増進のために、私たちは何を食べるとよいか? 東洋医学従事者としての私に向けて、時々こういった質問がくる。実はなかなか難しい問いで、いつも気のきいた答えがみつからない。これは東洋医学的にみて、誰にでもよい健康食材がそれほど多くないからなのだろう。 通常、東洋医学的な食養生は、個人の体質に合わせて行われる。症状の同じ人が集まったとしても、全員に同じ食材をすすめることはなく、個別に効きそうなものを選ぶ。 例えば身近なものだと、スイカには利尿作用があるため、むくみによいとさ

こころのかたより - 養性訣解説05

ここ10年ほど、ほぼ新聞を読んでいない。これは私に限ったことではなく、同じような方はきっと多いだろう。 普段はほとんどスマホでしかニュースを見ず、アプリやSNSがなければ、世の中で何が起きているか、全くわからない。ネットはそれくらい情報を集める方法として、頼りになるし、頼りきっている。 好きなことをさらに好きに、嫌いなことをさらに嫌いによく言われることだけれど、ネットのニュースにはどうしても偏りが出てしまう。それは思想的な偏りというよりかは、嗜好的な偏りで、ほとんどのウェ

その悩みは、幻かもしれない - 養性訣解説06

昔話昔々、中国の随の時代に、陳箴(ちんしん)という人がいました。ある日、陳箴は仙人の張果(ちょうか)に占われ、ショッキングなことを告知されます。 あなたは一年もたたないうちに必ず死ぬ、と。 困った陳箴は、弟の顗禅師(きぜんじ)に相談しました。すると顗禅師は、食(たべもの)眠(ねむり)体(からだ)息(いき)心(こころ)の五つの事を調和することなどを、兄にすすめました。 弟のアドバイスを守り、陳箴は五事の調和を真面目に実行します。そして数ヶ月が経ったときのこと。 再び張果

満腹の害 - 養性訣解説07

1.満腹の害「腹八分に医者いらず」という諺がある。なんとなくそれは正しいことなのだろうと、皆さんも認識しているだろう。ただ、八分目を守らないと一体どうなってしまうのか。そのあたりが曖昧だ。 今回の『養性訣』解説は、食について。八分目の利点と、それを守らないとどうなるのかが説かれる部分を読んでいく。 では早速、満腹の害からみてみよう。 (1)なにもかも面倒くさくなる【原文】 身体(からだ)自(しぜんと)沈重(おもく)、起居(たちい)もわれしらず懶堕(ぶしょう)になり (『