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『養生大意抄』- 江戸の養生書を読む 02

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多紀元悳(1732~1801)著の養生書で、全2巻。内容は医家向けではなく一般向けで、心、飲食、起居動作、性、鍼灸薬餌などの養生の要点がまとめられている。著者の多紀元悳(もとのり… もっと読む
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#江戸時代

『養生大意抄』の本文翻刻データPDF

個人的な学習のために翻刻した『養生大意抄』のデータをPDFにしました。多紀元悳による江戸後期の養生書で、「心」「飲食」「性」「起居」「鍼灸」「薬」などについて書かれています。 古い時代の健康本なので、今の医学的には妥当でない説もあるかもしれませんが、現代人にも役に立つ養生法もあると思いますので、ぜひご参考にしてください。 翻刻したのは本文のみで、序文は未翻刻です。序文は気が向いたら付け加えるかもしれません。また、誤入力など見つけましたらぜひご指摘ください。ご指摘が集まり次

食養生的には美味しいものとどう付き合うべきか? - 養生大意抄01

はじめに:『養生大意抄』について多紀元悳(1732~1801)著の養生書で、全2巻。内容は医家向けではなく一般向けで、心、飲食、起居動作、性、鍼灸薬餌などの養生の要点がまとめられている。著者の多紀元悳(もとのり)は官立の医学校である江戸医学館の初代館長で、将軍家斉の侍医であった。 『養生大意抄』(国立公文書館内閣文庫所蔵) 江戸の養生書を読むシーズン2では、本書の中から現代でも応用できそうな内容を選んで意訳し、訳者のひとことコメントを加えながら読み進めていく。原文の完全翻

魚の食べ方 - 養生大意抄02

今回は魚について。食養生的に魚は常食してよいものなのか。刺身は身体を冷やすというのは本当か。どのような食べ方をすればよいかなど。 【原文】 魚肉は米穀等とひとしく脾胃を養う物なり。少々ずつまじえ食すれば大に胃の気を養う。然れども其質よく脾胃に滞り易し。且原(もと)水中に生じたる物なれば、性に湿熱を蓄えり[1]。此故につづけて食し、或はおおく食すれば、脾気を塞(ふさぎ)て、内にては敦阜(とんふ)の病を生じ[2]、外にては、癰疽(ようそ)等の病を発す[3]。晏食(ゆうはん)に

鶏肉の本草学的効果 - 養生大意抄03

鶏肉も滋養作用が強い食材で、食べ過ぎは禁物とのこと。体によい食材を食べるときほど、過食には気をつけないといけない。 【原文】鳥の肉にも性よろしき品あり。然れども皆消化がたし。此故におほく食すべからず。性よからぬ品殊に多し。其物の性の善惡と肉の堅(かたき)脆(やわらか)とを考へ性よく肉こはからぬ物を食すべし。昔より食物にせし鳥肉に食すべからざる品多し。鶴鵠(はくちやう)の類の大鳥は故なくして食すべきものにあらず。 【意訳】鳥の肉にも性質のよいものがある。しかしながら、みな消

疲れている時や、なんとなく調子が悪い時の食べ方 - 養生大意抄04

今回は食事の取り方と、食後にするとよいことについて。 1.忙しくせわしい心のまま食事をすると、身の養いにならない【原文】 食は細(こまか)に嚼(かみ)緩(しつか)に咽(のむ)を法とす。細にかめば化(こなれ)やすく緩(しづか)に咽(のめ)ば滞らず。よく食物胃府(いのふ)に落着て気血と成てよく身をやしなふ。心忙くせわしく食すれば滞り易く化(こなれ)がたくして身の養にならず。却て害あり。此故に凡食事は万事をやめて心静に食すべし。故に聖人も食するときは語(ものが)たりしたまわずと郷

胃腸炎後の食事の取り方 - 『養生大意抄』05

冬場に多い胃腸炎後の食事の取り方について、江戸後期の『養生大意抄』からご紹介。江戸の本草書に記載される、胃腸炎後におすすめのレシピもあり。 1.胃腸炎後の食事の取り方 【原文】 若(もし)食傷吐瀉(はきくだし)せし事ありし後、早く粒食(つぶのめし)を食すべからず。飢極りて米飯(おもゆ)をのみて少しく腸胃を潤すべし。其後消息(みはからい)て稀粥(うすきかゆ)を進め、又はるか程ありて少し輭(やわら)なる飯を白湯漬(さゆづけ)にして食し、漸々(だんだん)に食量を倍すべし。一時に粒

半酔の人は長寿なり - 養生大意抄06

1.食後に暖かいお酒を少し飲む【原文】 ○酒は百薬の長と古人いへり。少しく飲ば陽気を助(たすけ)、血気をやすらげ、食気をめぐらして大に益あり。多飲(のめ)ば血脈を乱し腸胃を傷(やぶ)りて大に人を損す。必多く飲べからず。人の性にて節(ほど)あり。其節を考えてほろほろ酔を度として其うえを飲すごすべからず。食後に少し飲ば食気をめぐらして益あり。温酒(かんざけ)をのむべし。陽気をかりて気をめぐらす故なり。冷酒はよろしからず。熱酒固(もと)より飲べからず。 【意訳】 「酒は百薬の長」

偏って同じ味のものばかり食べた時の害 - 養生大意抄07

1.偏って同じ味のものばかり食べた時の害【原文】 ○五味偏勝(かたよる)とは、五味の内にて唯(ただ)一味を常に多く食すれば、其一味の気偏にかつをいふ。假令(たとえば)甘物をつづけて多食すれば、中焦(ちゅうしょう)の気滞りて痞(つかえ)満(はり)腹痛等の病を発す。辛物をつづけて多く食すれば、気上逆して眼病瘡瘍(できもの)等の病を生ず。鹹物多ければ、血乾く。故に嗌かわき湯水多く飲て脾胃を傷る。苦物多ければ、脾胃の生気を損ず。酸物多ければ、気ちぢみてのびず。此故に内経に気を積て偏な

養生は我が心にあり - 養生大意抄08

1.養生の基本は心にあり【原文】 ○養生というときは殊々しく聞ゆれども、左にあらず。惟(ただ)今日立居食男女の上に就て、少く心を用ゆる迄の事にして、事はおこなひ易く益は甚多し。 然(しか)れは我心にありて他にあらず。素問(そもん)と云(いう)古き医書に、心は君主の官といえり。其他の蔵府四支百骸は、臣下にして各(おのおの)其(その)掌(つかさどる)職あり。 假令(たとへば)手よく把(にぎ)り脚よく走(はし)るは、各自其職なれども、心に走らんと思わざれば、走らす。是(これ)臣

慢性的な自己解決できない悩みから身を守る方法 - 養生大意抄09

1.暇、ひま、ヒマ 【原文】 ○凡(およそ)徒(いたづら)にうっかりとして日を曠(むな)しく暮すことを深く戒(いましむ)べし。徒にうかうかとして暮せば気たるみ、精神抜て筋脈ゆるみ其うえに心に主(あるじ)なき故、種々の妄念慾心(よくしん)萌(きざし)動(うごき)て果(はて)は病を生ずるに至る者おおし。老年迄堅固に勤たる人の隠居して間もなく病気づく人おほきを見て知べし。冨貴の方或は閑逸(ひま)なる人、又は仕官して暇なく勤(つとめ)し人の致仕(いんきよ)せし、皆読書三昧をよしとす。