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それでも人とつながって 019 酒天3

『極めて何か生命に対する侮辱を感じます』


スマートフォンからコマーシャルの入らない放送局の音声が流れる。
世界的に拡大している流行病が日本でも深刻になってきた頃。
何となく使うようになったスマートフォンのアプリ。
いつの間にか。気が付けば毎日のように聴くようになっていた。

代表的な都市はシンボル的な建物を青く光らせたり赤く照らしたり。
そんな対応が功を奏したのか、季節的なことも手伝ったのか。
流行り病も一旦は収束の傾向に見えつつあった。

流行り病は海外では猛威を振るい続けているが、スマートフォンから聴こえてくる音声は心なしか安堵を誘うような声色で「これで何日連続で何人を下回りました」と言い切り型に説明して終わる。
未解決なままのハズなのに、どこか「終わりました」と言われているような感じがしてしまう。いやいや。油断してはいけないんだろうな。

ある日。
いつものようにスマートフォンでニュースを聴いていると、どうも一定の人数を下回らなくなってきているようだ。
音声も、以前の安堵を誘うような声色ではなくなっている。

そして。
「うち何人は、何処何処で発生したものです」
この言葉に不思議とどこか説明的で何か妙なものを感じた気がした。
どこかに・・・。分からないけど。どこかに少し無理があるように感じる。
例えるなら。賭け事の負け額について「トータルではトントン」だと説明している人の話のような。どこかそんな訳がないように聴こえるアレだ。

何かがオカシイなぁ・・・。
そう考えていると、一人の友達から電話が掛かってくる。
『お~調子どう?』いつでもどこでも変わらない声。
この友達も思春期前後は元気過ぎて・・・いや、それは今も変わらないか。
その調子のまま、この友達は大きくなってから誰もが驚くような規模の仕事を展開するようになった。

『も~全然休んでねぇよ』
こちらはまだ何も言っていないのに会話が続く。これも以前のまま。
忙しいのは良いことだ。暇じゃどうにもならない。
『そうだ。このまえ俺が言ったアレ買ったか?お前も感染すんなよ』
そういば前回の電話で感染予防になると勧められた物があった。
まだ買ってない。どうもそれに効果があるように思えなかったからだ。

『だからお前は~』
この友達にとっても自分の反応は以前のままに思えるんだろうな。
自分は殆ど言うことを聞いてこなかったし。

『良いか。今日・・・買えよ・・#”$・っ』
・・・・・イキナリ電話が切れた。これも以前から。
この友達は多忙を極めている。なので会話中でも普通に電話を切る。

電話が掛かってきて取れなかった場合。すぐ折り返しても出ない。
電話中。言葉の途中でも電話を切る。また掛かってくる場合と、何日も掛かってこない場合もある。
お互いが仕事中。でもそんなに忙しい中でよく掛けてくるなと思う。

この日は電話を切られた後すぐにまた掛かってきた。

『今また増えてるだろ?』謝罪どころかつなぎの言葉もない。説明も。
いきなり話が始まる。いつも通り。でも意味が分かる。
増えてるよね。でもそれよりなんだか報道の仕方が引っ掛かるんだけど。

『あぁ。・・・のぞき劇場とか?』
あったねそんなの。あれは可笑しかった。あれは良い。引っ掛からない。

『接待を伴う飲食店とか?』
あ、近いけど少し違うな。どう「伴う」のが「接待」なのか分からないし。
喋り続ける友達に少し間がある。考えているのかな。
そして。ふと言った。

『夜の街』
そう!それそれ。報道で『夜の街での感染が』って言うでしょ。
あの言い方が凄くイヤに感じるんだよ。何でか分からないんだけど。

また少し間がある。考えるような様子で『あ~』という返事が聞こえる。
・次の言葉を待つ。
・・・しばらく待つ。
・・・・・。
・・・・・・ん?
変に思ってスマホの画面を見る。初期画面。いつの間にか切られていた。

慣れているので自然現象。お忙しいでしょうから。何とも思いません。
でもよくそんな忙しさの最中に電話をしてくるね。

暫く後。またまた電話が掛かってきた。
電話を取るなり開口一番大きな声で
『極めてなにか生命に対する侮辱を感じます』
前後の説明はない。
分かるようで分からないので何のことか聞き返す。
『極めて不愉快ですよね』
その後も何か言っているようだったが言葉の途中でまた電話が切れた。

また・・・。まったく。
しかし、あれ?今の、どこかで誰かが言っていた言葉のような気がする。
とても著名な人だったような・・。まぁ良いか。

それより友達が自分に何を言いたかったのか。なにか分かった気がした。

流行り病が「夜の街」で感染を拡大しているという報道。
自分はそこに何かイヤなものを感じた。
さっきの電話の言葉。友達はそこに同感を表してくれたのだと思った。

確かに報道で聴こえてくる通りのこともあるのかもしれない。
でも。そこだけを限定しているような物言いには強い違和感を感じる。
夜の街。
そこに関わり出入りする全ての方はそこだけに居る訳ではない。
全ての人に朝と、昼と、夜がある。そして人は接待と街だけではない。

今日もスマートフォンのアプリから聴こえてくる。
『夜の街関連で感染が拡大しています』
それもあるのかもしれない。

でも。そこに多くの原因があるような声色には嫌悪感を感じる。

そうじゃない。そんな声を出さなくても良いだろ。
恐ろしい感染力の流行り病に為す術がない。それだけだ。

そんなふうに思うのは自分だけかもしれないけど。

何か一つが悪いように言うやり方には同調出来ない。



これは酒天の巻の三。この他のお話はまた別の機会に。

もし読んでくださる方がいらっしゃったなら。
お読み頂いたあなたに心からの御礼を。
文章を通しての出会いに心からの感謝を捧げます。

しゅてん拝

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