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星の夢と桜の願い〜もしもmiCometがパルデアアカデミーにいたら

※Ⅰ獲得のポケモンは当人の好みや配信時のパーティ等から抜粋ではなく、筆者のイメージを中心に独断と偏見で選びます。その他、受容できる方のみ、ご覧ください
※Ⅱ制作の都合上、更新は不定期です。


プロローグ 流れ星の遣い


だって私は星だから
いつからだったろう、彼女がこう言い始めたのは。きっとあの日を境に彼女の運命は変わった。どうしょうもなく、恐怖と不安に怯えていたあの日。
ピンク色の髪をした女性は、舞台でポケモンたちと歌い踊る水色の髪をした少女を眺めていた。観客の声やライトに照らされている少女の表情は楽しげであり、涙を堪えているようにも見えた。
私の自慢の―

十数年前
コサジタウン
一軒の家の扉が勢いよく開き、付近の木に留まっていたムックルが数匹飛び去った。その光景を眺めていた青い髪の少女は「うわぁぁっ」と声を上げた。
すいせい5歳。小さなカバンを首から下げている。
「すいちゃん、お姉ちゃんから離れちゃだめだからね!」
「わかった!」
ピンク色の髪の姉、せいらに言われ、すいせいはムックルを目で追いながら答えた。
「せいら、すいせい、今日の夜はハンバーグにしようと思うから、早めに帰ってくるのよ」
母に言われ2人は、はーいと返事をして走っていった。
この世界では10歳になると、成人扱いになる。パルデア地方にはアカデミーがあり、10歳の子どもに入学権が与えられる。6年を過ごし、更に進学や就職をするのが習わしだ。10歳未満の子たちは、外出時や家の中で出会うポケモンたちに触れ、その生態や姿に慣れていく。
姉妹も日常的に外に出、ポケモンの観察や絵を描いて日中を過ごしていた。
グルトンとハーブを探し、木から落ちてきたコフキムシに驚き、コフーライからビビヨンへの進化を目撃したりと様々な出来事を経験していた。
せいらは2年後にアカデミーへ入学する。彼女には最初のパートナーとなるポケモンを見つけるという課題が残っていた。クリアしなければ、入学後にパートナーを探すことになり、講義のスタートが遅れてしまう。
「お姉ちゃん!みてぇ!」
手をつなぎ、歩くすいせいが指差した先には黒い四足歩行のポケモンの群れがいた。初めて見る姿だ。
洞窟の入口に5匹、日向に当たっている。立ち止まり、眺めていると1匹がこちらに気づいた。数分程度、にらめっこをしたが、ポケモンは鼻に皺を寄せた。それに呼応して、他のポケモンもこちらに気がついた。
「あ、マズイかも…すいちゃん、走るよ!」
「え?わぁぁ!」
せいらは妹の返事を待たずして、走り出した。
海辺の方まで出た二人は、草原に腰を下ろした。「あのポケモン、怒ってたの?」
水筒を出そうとカバンに手を入れるすいせいが言った。せいらはふぅっと息をついて「怒ってたねぇ」と答え、水を飲むすいせいの横で続けた。
「たぶん、ご飯とかおもちゃ取られるって思ったのかなぁ」
「えぇ、すいちゃんたちもご飯あるし、ぬいぐるみさんもいっぱいだから、一緒に食べたり、遊んだりできるのにねぇ」
すいせいの言葉に、せいらはくすっと笑い、続けた。
「あのポケモンはなんて名前なんだろうね」
せいらは言いながら、カバンからスケッチブックと色鉛筆を出した。
すいせいはうーんと首をひねり、頭を振った。
「おこりんぼ、だね」
「ご飯とかおもちゃ取るなぁ!って怒ってたもんね」
彼女は喋りながら、おこりんぼ―デルビルの絵を描き始めた。
「すいちゃんも描く!」
姉妹で絵を描いていたが、暫くして辺りが暗くなっていることに気がついた。
「大変!お家帰らなきゃ!」
せいらは立ち上がり、辺りを見回す。しかし、デルビルから逃げていたときの経路を記憶していないこと、当たりが暗いことから、帰り道は思い出せずにいた。
「お姉ちゃん?」
不安そうな妹の声がする。そんな声を聞くと、要らない不安に駆られてしまう。先ず何を考えたらいいのか、それすらも思い当たらないせいらの表情には、困惑と焦燥が貼り付いているのだろう。すいせいは泣き出してしまった。
「泣かないでよ、すいちゃん…」
せいらの声も震えていた。だが、今泣けば、ずっと家に帰れないままだ。すいせいの手を引き、せいらは、歩き始める。すいせいも泣きながら、姉の隣を歩く。
昼間とは違い、ポケモンたちの声が大きく聞こえる。加えて、それは鋭く耳に刺さった。
周りを木々が囲む。家の近くにこんな場所はあっただろうか。せいらは足元の感覚に違和感を覚えた。何か柔らかいもの。それでいて、硬さもある。刹那、唸り声が聞こえた。横になっていたであろう、デルビルを踏みつけたようだ。
気づいたせいらは、すいせいの手を引いたまま、走り出す。怒ったそれは、二人を追った。異常な恐怖心がせいらを侵食し、彼女はついに泣き出した。すいせいも呼応して、より一層強く泣いてしまった。
木の根にせいらが躓き、すいせいも転んでしまった。デルビルは正面まで歩いてきている。痛みと恐怖で立ち上がれなくなった姉妹が躓いた根に脚をのせようとしたとき、二匹のポケモン―ゴチムとピィが姉妹の前に降ってきた。
「えっ」
突然のことに絶句する姉妹に涙はもうなかった。ゴチムが手をデルビルの前に翳すとその動きは止まった。体が動かせないといった様子だ。しかし、すぐに歩み始めた。ゴチムはピィと後ずさりながら、もう一度デルビルへ念力を送る。歩みは止まることなく、二匹へ距離を詰める。悔しそうな表情のゴチムは後ろで放心する姉妹を振り返る。
目を閉じ、デルビルを向き再び見開いた。そして、三度の念力。効果はなく、デルビルは飛びかかった。ゴチムは両手をかざし、リフレクターを発動する。刹那、デルビルは口を大きく開けた。その牙は淡い紫色に光り、リフレクター諸共ゴチムに噛みついた。宙を回転し、空中からゴチムを叩き落とす。反動で、地面を何度も叩きつけられたゴチムは、すいせいの前に倒れた。
着地したデルビルは咆哮し、再びこちらに向かってくる。その眼前に今度は、ピィが立ちはだかった。再びデルビルが吠えるが、ピィも声を上げた。まるで子どもが発するような愛らしい声色。デルビルはその表情を歪めた。もう一度、咆哮をと体勢を立て直そうとするが、ピィの方が早く声を上げた。愛らしく、それでいて怒りを向けている。
デルビルは「くぅ」という子犬のような声を上げて去っていった。
すいせいは姉から離れ、ゴチムを抱きかかえた。
「大丈夫?」
呼吸はあるようだが、ぐったりしている。「お姉ちゃん、助けてあげなくちゃ!」
すいせいが叫ぶ。わかっている。だが。
「でも、お家どうやって帰ったらいいか…」
せいらが力なく呟くと、ピィが声を上げた。それは、姉妹の顔を確認すると、よちよちと歩き始めた。姉妹は頷き、歩み始める。せいらはピィを抱えると、「道案内をお願いね」と笑いかけ、走り出した。
姉妹はそれまでの恐怖など嘘のように無我夢中で走り抜けた。木々を抜け、普段、家の目印にしている灯台が目に入る。同時に、姉妹の間を突然ヨルノズクが入ってきた。二人の家で生活しているヨルノズクである。
「ヨル、迎えに来てくれてありがとう。道案内して!」
月明かりに照らされる小道を、姉妹の前をヨルノズクが先行し、走り抜ける。付近のポケモンたちは草原から覗くものやしばらく並走するものもいた。 
「見えてきた!」
せいらが叫ぶ。すいせいも自宅を視認した。
「もう少しだから、頑張って!」
すいせいは手中のゴチムに声を掛ける。
ヨルノズクはスピードを早め、空いている窓から部屋の中へと消えた。
家へと続く坂道を駆ける最中、ポストの前に母が立っているのが見えた。
「お姉ちゃん、ママに説明よろしくね」
そう声をかけると、すいせいは母の横を抜けて、部屋に入った。後ろから声がするが今は他にやることがある。
「フェリ、この子を見ててあげて!」
ハピナスに声をかけながら、ソファにゴチムを寝かせた。続いて、窓の側で毛づくろいをしていたヨルノズクに声をかけた。
「ヨル、きのみを持ってきて!」
一度鳴いて、外に出る。ふぅっと息をついたところで、母と姉が部屋に入ってきた。
「全く、全然帰ってこないで、急に帰ってきたと思ったらそんなに慌てて、後はお母さんがやるから、ご飯食べちゃいなさい」
母は言いながら、すいせいの髪をなで、戻ったヨルからオボンの実を受け取ると、フェリをなで、水道で手を洗い、すり鉢で実をすりつぶし始めた。
そこへ水を少量加えたものをゴチムへ飲ませた。
「その子、元気になる?」
不安そうにすいせいが声を掛ける。
「大丈夫よ。ヨルもいい実を取ってきてくれたから」
母の声にすいせいは笑みを浮かべて、箸を進めた。
翌日に回復したゴチムはすいせいがキュウと名付け、ピィはせいらがディバと名付け、それぞれが所有する最初のポケモンとなった。

5年後―
扉が勢いよく開いた。
「すいせい、忘れ物はない?」
母の声に振り返り、「大丈夫!」と声を上げた。
「じゃあ、気をつけて行ってくるのよ、せいらによろしくね」
はーいと返事を返し、少女は隣で彼女をじっと見つめていたキュウを抱える。
「行くよ!」
そう声を掛け、走り出した。
すいせい10歳。

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