熊野古道、暗い森を抜けて
前書き
2023年5月13日(土)、これまた念願の熊野古道に行ってきた。
川苔山に続いてまたまた念願なのだが、今の職場もたぶんようやく慣れてきて、これからは仕事のことだけではなく、自分の人生でやりたいことをちゃんと実現していきたい! という気分が高まっている(現在進行形)せいだ。
ということで、急速に、実現したい! 実現したいんだー! という思いに駆られた私は、旅行予定の2週間前を切ったころに、バタバタと航空券や宿を予約。
かように、古道沿いの素敵な民宿を予約したりは一切できていない、泥縄な熊野巡礼の旅が決行された。
ちなみに念願というのは、やはりいつものごとくスペイン巡礼の関連である。熊野古道はスペイン巡礼路と提携していて、両方を歩くと共通巡礼者の認定を受けることができる。
本当は2018年のスペイン巡礼後、すぐにでも別の巡礼路を歩きたかったのだが、帰国後しばらく新しい仕事に定着できず、その後は新型コロナ、今は航空券が高かったりロシアのウクライナ侵攻のせいでヨーロッパ方面に直行できず移動時間が長くなりすぎたりと、思うにまかせなかった。
そろそろ、いいかげん巡礼行きたーい! そうだ、熊野行こう! 行ったことないし、日本ならロシア上空を通らないでも行けるではないか! となった次第なのである。
まず、共通巡礼者になるためのスタンプ帳は、あらかじめ交通会館の和歌山アンテナショップ「わかやま紀州館」で入手。
スペイン巡礼のときは、日本カミーノ・デ・サンティアゴ協会からわざわざ巡礼手帳を有料で取り寄せたのだが、共通巡礼者用のスタンプ帳は無料パンフレットの棚で無造作に配布されていたから驚いた。
(巡礼手帳、今見たら1,000円もしていた)
ガイドブックは、職場近くの石井スポーツで『熊野古道を歩く』(JTBパブリッシング、2021年)と『山と高原地図51 高野山・熊野古道』を入手。
他にも何冊か図書館で借りて見たが、なぜか、買ったものも含めてどれもいまいちイメージできない。どちらかというと私は西洋かぶれで、日本の神社仏閣関連に興味が薄いせい?
が、イメージできなくとも、宿と飛行機の予約日はやってくる。
2023年5月12日(金)初日 飛行機移動
今回初めて知ったのだが、羽田空港から和歌山の南紀白浜空港に向かう便は1日3便しかない。
検討の結果、前後1日ずつ移動だけの日をとることにして、中2泊で熊野古道トレッキングすることに決めた。
初日、夕方の飛行機で和歌山へ。九州より近い県に飛行機で行くのは初めてだったが、飛行機が飛び立ってコンソメスープが配られたら、すぐもう着陸態勢という近さだった。
飛行機だと近くて楽ちん、ここまではOK。問題はそのあと。
その日、飛行機は10分かそこら遅延した。
南紀白浜空港から近隣主要駅へのシャトルバスはなく、飛行機に時間を合わせたローカルバスしかない。よって、ほんのちょっと遅れただけなのに、1本しかないバスはもう影もかたちもなかった。
他の交通手段がタクシーしかないのに、唯一のバスが待っていてくれないのは衝撃だった。タクシーの列に並ぶ高齢男性が「こんなんおかしいでしょ!」と叫んでいたが、たぶんそこにいた全員の心境を代弁していたと思われる(少なくとも私はそう)。
幸い、タクシーは次から次へと来てくれ、すぐに私の順番も来たのだが、タクシーの台数によっては、下手をすると初日の宿に行くのに夜が更けるところだった。あと金がね、ちょっとね(最寄りの白浜駅まで2,000円程度)。
初日の宿は、紀伊田辺駅前のホテルNANKAIRO。南紀白浜空港からバス1本で行けるはずだったが、そのバスには置いていかれた。タクシーで最寄りの白浜駅まで移動し(20分程度)、そこからJRで紀伊田辺駅へ。今回はこれでうまく接続できたが、JRもあまり本数がないので、ひやひやした。
でも本当にもう、空港からのバス、頼むよ……! 他はいいけど空港からのバスだけは! 飛行機に接続して! 熊本空港では遅延に合わせて待っていてくれたのに(たぶんあっちはリムジンバスだからだが)。なぜなの和歌山?
ともかく、なんとか初日は無事終了。
2023年5月13日(土)2日目 熊野古道歩き/滝尻王子~近露王子
2日目からは、いよいよ熊野古道歩きのはじまりである。
歩く前に、まずは朝ごはんから。
ホテルNANKAIROは素泊まりなので、チェックイン時に近隣でモーニングの店はないかスタッフさんに尋ねる。
正直、田辺は鎌倉とかではないし、コンビニ朝食でも仕方ないと思っていたのだが、すぐそばにある田辺ステーションホテルのモーニングが7時から開いているとのこと。
古道歩きのスタート地点である滝尻王子へのバスは8時すぎ。間に合う。
まったく期待していなかったのもあり、大変うれしいモーニングだった。ちゃんと野菜もタンパク質も炭水化物も、乳酸菌まで揃っている。すばらしい。
滝尻王子のあるバス停「滝尻」まで、バスで所要時間40分ほど。噂には聞いていたが、外人さんが多めで、バスはほどよく埋まっていた。
ちなみに、天気は曇りのち雨、その後はずっと雨の予報。
出発時は、晴れ間もあって気持ちのいい天気だった。最初は登りからスタート。
「王子」とつく地点にスタンプ台があるので、共通巡礼手帳にスタンプを押していく(外人さんたちがいるのがスタンプ台)。
昼近くなり、高原が近づいてくると、雨が降ってきた。予報どおりだ。
森を抜けて集落に入っていく瞬間が、スペイン巡礼を彷彿として楽しい。
雨が強いので、昼休憩がてら高原の休憩所で雨宿りした。
おにぎりを食べたら、出発。この天気なので、車でスタンプラリーしている様子の親子連れがうらやましくなったり。
町を背後に森に入っていくのも、スペイン巡礼的な楽しさ。
高原を抜けたあとは、長い森へ。
滝尻王子から近露王子までの道のり、後半はせせらぎも多く、湧き水好きの私は晴れていたらウキウキだったのだが、雨がかなり降っているのでテンションが上がらない。あと、だんだん眠くもなってきた。
このころには、必死に足を動かしながら、黙々とスタンプ台でスタンプを押していく、壊れかけの人形みたいになっていた。
敗因は、雨登山に不慣れなうえ、滝尻王子から近露王子まで5〜7時間ぐらいのコースタイムなのに、日ごろその長さの登山をあまり練習していなかったこと。あと、持ち歩きが面倒でハイドレーション(歩きながら水分補給できる登山用品)を持参しなかったため、水分摂取をサボりがちだったこと。同様に、行動食もおろそかにしており、そのせいでよけいバテていた。
今回、自分はしみじみ登山初心者なんだなと感じた次第だった。
が、なんとか怪我もせず、近露王子に到着。森を抜けて、近露の集落を見渡したときの喜びときたら! これもスペイン巡礼を思いだす瞬間。
近露王子、スタンプ押印! 熊野古道1日目の目的はこれで達成。
しかし当然、宿に入るまでが1日の行程である。私が予定ギリギリで適当にとった宿は、近露王子から徒歩で20〜30分、しかもひと山越えた場所にあった……。
そして、相変わらず続く強雨。いよいよドロドロになりながら、私はとあるキャンプ場のコテージに到着した。
ここも素泊まりで、予定では到着後に近くの道の駅的な場所へ夕食と朝食を調達しにいくはずだったのだが、一度コテージに着いてしまったら、再度ひと山越えていく気力は私には残っていなかった。
宿のスタッフさんに頼み、急遽、食事をつくってもらえることに。ありがたい……。
が、夕食時にどんぶりの蓋を開けて、驚いた。虫が。米に虫が。。。そして、普通に調理が……おいしくない……。疲れていて受けつけなかったのもあると思うが、翌朝の朝食もおいしくなかった(素材系料理を除く)ので、おそらくメシマズな宿なのだろう。ついでに、朝食のごはんにも髪の毛が炊きこまれていた……。
本当に、急遽ごはんをつけてもらったので、本当に感謝はしている。しかしだな……。
なお、コテージの温泉はすばらしかった。だが、ごはんがおいしくないと気力がわかないということを、実感させられたできごとだった。
しんそこ疲労困憊し、天候と食事の悪さですっかり意欲を失った私は、温泉で少しだけ回復はしたものの、「翌日の行程、こりゃ無理だな」と思うのだった。
2023年5月14日(日)3日目 バスで熊野本宮大社と川湯温泉へ
翌朝起きると、一瞬だけ雨が弱まっていた。
ひと晩寝て少し元気になった私は、ちょっと歩きにいきたいなぁ〜という気持ちもあったが、すでに予定は変更済で——すなわち、早朝出発しなければならないのに、のんびりと6時半ごろに起きだしていた。
当初の予定では、その日は10時間近く古道歩き(≒山歩き)することになっていたため、のんびり出発では日が暮れる前に歩き終えられないのはまちがいなかった。
そうして、気まぐれな意欲を鎮めると、私は変更したとおりにバス停を目指した。
近露王子近くの「なかへち美術館前」バス停から熊野本宮大社までは、バスで1本である。
バスに乗ると、同じように雨で歩くのをやめたと思しき外人さん7割、日本人3割で、ほぼ席はいっぱいだった。
しかしバスは速い。歩けば10時間かかるというのに、ほんの1時間で着いてしまう。文明って、道路ってすごいですね。
あっというまに到着。半分の行程をスキップしたのだから、ありがたみは薄くはある。
でも、本当に神が横たわっていそうな眺め。この川がすごい2023。
そうこうしているあいだにまた雨が強くなり、登山用レインウェアが観光でも大活躍だった。
これだけだと運動不足なので、その日の宿泊地・川湯温泉には徒歩で向かう。かなり雨は強かったが、1時間ぐらいなら。
途中、有名な「大峯奥駈道」に行く橋があり、一度行ったら帰ってこれない禁断の地の入り口のようでテンションが上がった。
トンネルを抜けると、宿泊地の川湯温泉に到着。
お昼時だったので、宿にチェックインする前に川魚料理を出す喫茶店「こぶち」へ。
……おいしい!!!!
おいしいものは力をくれる……それを思いだした昼ごはんだった。
小ぶりな川魚(鮎とあまご)も、熊野名物の「めはりずし」も、べらぼうにおいしい。あっさり完食。落ちついた店の雰囲気といい最高で、シメのコーヒーまで注文してしまった。それも最高だった。
宿は、「こぶち」から徒歩1分の「山水館 川湯まつや」。早く着きすぎたので、先に「まつや」の本館にあたる隣の「川湯みどりや」で温泉に入らせてもらった。
こちらの温泉には、なんと混浴風呂がある。エッ……どうしよう……////と思ったのだが、よく見ると専用の浴衣を貸し出していた(女性)。男性はタオル巻きらしい。らしい、というのは、そのとき熊野古道歩きの団体客でにぎわっており、私が混浴に入ると同時に男女とも誰もいなくなってしまったため、見ていないので知らぬ。
ということで、初体験の混浴はほとんどひとり貸切だった。この風呂は、川原にもうけられた開放的なしろもので、降る雨も気持ちよく、川の眺めも幻想的で素敵だった。かなり貸切が長くラッキーだった。
風呂のあと、「川湯まつや」にチェックインし、あとはもうひたすらダラダラゴロゴロと休憩。熊野まで来て何をしているんだと思わなくもなかったが、旅先のダラダラゴロゴロ、なんだか幸せだった。
部屋からの川の眺めもすばらしいのである。
夕食のビュッフェもおいしかった。川湯温泉に来てからおいしいものばかり。おいしい、楽しい。もう巡礼というよりただの温泉客だが、ハッピーなのでOKである。
2023年5月15日(月)4日目 飛行機移動
最終日、朝から明らかに日ざしが出ていた。
今さらこんなに晴れるなら、昨日もう少し晴れてもよかったのでは? 正直なところ、恨みがましい気分は消えない。
川湯温泉から紀伊田辺駅に戻る少ないバスで、熊野古道を離れていく。バスが進むにつれ、日を浴びて輝く新緑の熊野の眺めが広がっていった。さわやかなところ悪いが、あとはもう帰るだけだ。
紀伊田辺駅から、白浜駅へ。帰りは紀伊田辺駅から空港にアクセスするバスが存在しなかったため、行きに来た経路を戻っていく。
例によって南紀白浜空港へ行くバスが少なすぎるため、白浜駅で昼ごはんをとり時間をつぶした。この昔ながらという趣の食堂、流れている空気がとてもよかった。そしてやはり、空の青さが恨めしい。
飛行機の出発の少し前に到着するバスまで待つ予定だったが、飛行機であまり時間に余裕がないというのも心配で、結局帰りもタクシーで空港に向かった。最後は空港の喫茶コーナーのコーヒーでシメ。
一日3便しかない飛行機、昼過ぎの便で羽田空港に帰っていった。
まとめ
今回、天気に恵まれなかったのは大きかったが、何より感じたのは自分の練習不足だ。
古道歩きを実践してみてやっとわかったのだが、スペイン巡礼本を出しているのと同じ人が出している熊野古道本があり、2泊3日で滝尻王子から熊野本宮大社まで歩く方法を推奨していた、それは長丁場の登山に慣れていない者にとって最良だと思う。
行くまではそれがまったくイメージできず、なんとなく健脚者向けの1泊2日プランを組んでしまったのが、最大の敗因だった。
7時間以上の山歩きに慣れていれば、難所はないコースなのでまったく問題はないと思うが、スペイン巡礼のノリで熊野古道を歩きにくる人は、2泊3日プランで一日の行程を短めに区切る(特に初日は慣れていないので短くする)と無理をしなくてすむ。
考えてみれば、スペイン巡礼のときも、初日は8キロとかを歩くようにして慣らしていたのだった。スペイン巡礼から5年もたってしまって、ある意味自分の初心を忘れてしまっていたような気がする。
いずれまた熊野古道歩きに再挑戦する予定だが、次は、
今後、7時間〜の長め登山の練習をしておく。
とはいえ、無理せず2泊3日でスケジュールを組み、余裕をもって歩けるようにする。
なるべく早めに旅の予定を立て、ごはんがおいしいと評判の宿を確保する。
という感じにするつもりだ。
特に3。おいしいごはんは、生きる活力、登山をやり抜く活力だから……!
そんなわけで、これから熊野古道に行ってみようという方には、ぜひとも泥縄旅行ではなく、余裕をもって宿などを申し込んでおくのをおすすめする。心から。
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